陰に隠れた思い

「そんな優しさ、私はいらない!!」

友達はそう言って私の横を泣きながら足早に通り過ぎていった。どうして、私はただ、友達のためを思っていただけなのに。

 私は、自分を主張するのが苦手だ。自分から発言しようとしても、友達が嫌な思いをしたらどうしよう、空気を悪くしたらどうしようと考えてしまうのだ。その結果、私は話の聞き手を務めるようになった。友達の発言に対して、ただ機械のように笑顔で相槌を打つ。そうすることで、その場の空気は悪くならない。小学生、中学生と私は自分の意見を全く主張せずに毎日を過ごしてきた。そして、高校に入学して半年が経った今でもそれを続けている。しかし、今までとは1つ違う点がある。それは、初めて親友と呼べる存在ができたことだ。その子と話すのはとても楽しく、いつも会話が途切れない。それでも私は7割くらい、聞き手側に回っているのだが。「おはよう!あのね…」

あ、今日も親友が話しかけてくれた。私はそんな親友の話をうんうんと頷きながら聞いた。

あれはいつの話だったか。そうだ、1週間ほど前だった。いつも朝一番に話しかけてくる親友がその日は私に話しかけないで、下を向きながら無言で席に着いた。何があったのか、しかし聞いても良いのか、私は少しの間迷った。そして、意を決して親友に話しかけた。

「お、おはよう。今日なんか元気がないけど、何かあったの?」

と聞くと、

「あ、おはよう。そっか、やっぱり元気ないように見えちゃったか。うん、えっと、休み時間に話すね。」

そういうと親友は席を立って教室を出てしまった。休み時間になり、親友が私の席まで来た。まだ表情は暗く沈んでいた。私たちは人気のない所まで行き、その場に座った。

「ごめんね。こんなところまでついてきてもらって。少し話があってさ。聞いてくれる?」

「もちろんだよ。」

私がそう言うと親友は話し始めた。

「私、私、この学校辞めることになるかもしれない。」

突然の親友の話に私はびっくりした。

「え、だって、まだ入学して半年しか経っていないんだよ?どうしていきなり、」

「もともと、両親からはこの学校に入ること猛反対されていたの。もっと、頭の良い所に行けって。でも、私この学校の雰囲気を気に入って。だから、両親の反対を押し切って無理やりこの学校に入ったの。最終的に両親は、テストで1位を取り続ければ良いって学校に通うことを承諾してくれた。でも、この前のテストで1位になれなくて。そのことが両親にばれて、やっぱりこの学校に通うべきではない、今ならまだ間に合う。転校しよう、って言ってきて…」

私は相槌を打ちながらどう返事をすればよいかわからなかった。何か言ったら余計に親友のことを傷つけるかもしれない、空気を悪くするかもしれない、そう考えて口をつぐんでいると、

「ねぇ、1つ聞きたいんだけどさ。今こんなこと聞くべきではないんだけど、私がこうやって相談した時もいつもみたいに相槌だけなの?」

いきなり親友にそんなことを言われて私は体をビクンとさせた。

「え、いや、だって、私が何か言ってもっと傷つけたら嫌だし…」

消え入りそうな声で私が言うと、

「何、言っているの。私、そんなに弱く見える?そんな優しさ、私はいらない!!」そう言って親友は私の横を泣きながら足早に通り過ぎていった。

どうして、私は、空気を悪くしないように、人を傷つけないようにしていただけなのに。この出来事があってから、私は親友と話さなくなった。話しかけよう、謝ろうとして親友に一歩近づくとすぐに顔を背けて離れてしまう。そしてそのまま…


―――私は一度本を閉じた。このお話の結末はこうであってはいけない。私は近くにあったペンを持った。そしてもう一度本を開き、空白のページに続きを書き始めた―――


このままではだめだ、私が変わらないと。そう考えた。勇気を出せ、がんばれ自分。大丈夫、本音で語り合えばきっとあの子ならわかってくれる。そう言い聞かせて私は親友のもとへ歩いた。

「少し、話があるんだけど良いかな。」

親友は、また顔を背けて離れようとした。いつもの私なら、遠慮して追いかけようとしない。しかし、今日の私は違う!

「待って、少しで良いから話を聞いて!」

私が大きな声で呼びかけると、親友は、振り向いた。そんなに大きな声を出せるのかと目を丸くして驚きを隠せない様子だった。

「ついてきて。」

私は親友にそう言うと、あの場所に向かった。

「前とは立場が反対だね、前は君が、相談があるといってこの場に連れてきた。今日は、とにかくまずは謝りたかったんだ。ごめんなさい。あれから考えていたの。確かに、ただ相槌を打つだけで自分の意見を言わないのは悪かった。本当にごめんなさい。私、昔から自分を主張するのが苦手で。自分の意見を言うとか。だから、聞き役に回るようにしたんだ。人の話を聞くのは好きだったから。」

私がそう言うと、

「私こそ、ごめん。何回も話しかけようとしてくれていたのに無視するみたいになっていて。少しだけ悲しかったの。私は、もう仲良くなっていると思っていたから、だからこそ、自分の意見を言ったほしかった。でも、私も考えたの、意見を言ってくれるのも大事かもしれないけど、それ以上に、話をいつも聞いてくれるのっていいなって。」

「そんな、私には話を聞くことくらいしかできないから、」

「それは違うよ。一方的にずっと自分の話だけをする人だってこの世界にはたくさんいる。私は、話を聞いてもらえてとてもすっきりした気持ちになってた。それなのに、意地を張って、ごめん。一緒にいてくれるだけで安心できる。話を聞くことくらい、じゃないよ。ありがとう。」

「私、このままの性格でも良いのかな。変えようとしたんだ。こんな自分を。」

「え?もう変わってるんじゃないの?だって、今までは、自分の話すら全くしなかった。でもさっき、なんでこんな性格になったのかっていう自分の話をしたんだよ。そのままの性格で良いんだよ。自己主張は強くなくて良い。話を聞くことだってとても立派なことだって私は気づいたの。今まで、避けてごめんなさい。もし、良かったら、また仲良くしてくれる?」

私は、そんな親友の言葉に涙を流した。そっか、このままの性格でも良いのか。今まで、私には話を聞くことだけしかできない、そう思って自己肯定感を自分で下げていた。でも、親友のおかげで私はこのままで良いんだと考えることができた。

「もちろん!これからもよろしく!」

―後日―

「おはよう!あれ、また元気ないね。何かあった?」

「あ、おはよう。いや、両親がまだ学校を変わる気はないのかってしつこくてさ。でも、反抗する勇気が出なくて。」

「それなら、私が一緒に言いに行こうか?」

「!!それは、頼もしいかも。それにしても、すごい、なんか、変わったね。すっきりしてる。」

親友にそういわれた。私自身もこの変化に気付いている。今までよりもスッキリした気持ちになっている。とても気持ち良い。

「えへへ。親友のおかげだね!」

「いいね。私も元気出てくる。うん、私も変わりたい!両親に話すよ!」

そう言って、にこっと笑った親友は今までのどの笑顔よりも最高だった。

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