隠し扉の三人組  ワールドワイド・フロンティア外伝

南木

前編

「…………」

「…………」

「…………」


 エリア0-3

 セントラルの街の地下奥深くに存在する謎の遺跡

 ほとんど誰にも知られることのないその場所に、三人の男がほぼ同時刻にそろった。


 巨大な鎌を携えた、銀髪のおかっぱの少年。

 灰色のジャケットとジーンズを着用した屈強な青年。

 そして、動物の頭蓋骨を被った浅黒い肌の大男。


 三人ともお互いを見た瞬間に心の底からげんなりしつつ警戒していたが、まず口を開いたのは鎌を持つ少年だった。


「もしかして君たちも、あのおばさんから依頼を受けた人?」

「……だとしたら、どうする?」

「オイオイオイ、俺以外はよりによって人間の皮を被った人外かよ。こんなんでいいのか本当に」

「ま、僕は別にいいけどね。こっちのおじさんは一応知ってる人だし、君もなかなかいい魂の持ち主と見た。戦力としては申し分ないんじゃないかな」

「人を魂で判別するなよー、せめて顔で判断しろよー」

「おい、こんなところで立ち話している場合か。俺はお前たちが本当に依頼を受けた人間であれば、中身などどうでもいい。……もらっているのだろう、事前に」


 早速ギスギスしだす三人だったが、骸骨を被った大男がこのままでは不毛だと判断し、服から変わった形の電池のようなものを取り出した。


「あーはいはい、そういうことね。僕はカセットだけを持ってる」

「俺はカセット本体だが、電池もなけりゃ再生する物も持ってねぇ。要するに、はじめっから俺たちが揃わないと仕事を始められないわけだ。じゃあ、セットしてくれ」


 残り二人も事前に受け取ったガラクタを取り出すと、全てをはめ込んでテープを再生した。

 すると、早速テープから聞きなれた女性の声が聞こえた。


『おはよう三人とも。このテープが再生されているということは、そこに全員そろっているということね。じゃあ早速だけど、今回の依頼について話すわ。セントラルの街の地下深くにある遺跡群は、かつては竜王の居城だったのだけれど、その妹である神竜の居城でもあったの。今あなたたちの目の前にある扉は、かつて竜王が自分の脅威となる妹を軟禁した砦の入り口、というわけ』


 テープを聞いていた三人は、そろって首を一方向に向けると、果たしてそこには大理石の壁にどっしりと埋まっている巨大な白い扉があった。

 扉には何かしらの封印が施されているようで、今のところは開く気配がない。


『神竜自身は人間の手助けによって娘と共に難を逃れたのだけれど、聞くところによれば神竜は産んだばかりの卵をかつての居場所に残してきてしまったそうなの。

 きっと、脱出の混乱で持ち出すことができなかったようね。…………そこで、あなたたち三人には、この扉の奥に本当に神竜の卵があるのか、確かめてきてほしいの。

 まあ、卵の中身は数千年経っているうえに、その扉の先の環境もあるからまず「亡くなっている」と思うのだけれど、それでもまだ存在するのであれば非常に重要なものとなるわ。まだ残っているようなら、出来る限り回収を、不可能であれば破壊してほしい。

 それを成し遂げるために、あなたたち宛に事前にお助けアイテムを用意したわ。床に敷いてある石材に一つだけ色が違うのがあるから、それをどかしてごらんなさい。

 中には木箱があって、扉の先を探索するのに必要なものが入っているわ』


 果たして、テープの声の言う通り、一つだけ黒っぽい床石があり、ジャケットを着た青年が持ち上げてみると中から木箱が出てきた。

 木箱の中を開けると、そこには「銀色の鍵」と「青色の毛糸玉」と「懐中時計」が入っていた。


『まず、銀色の鍵は神竜が施した封印を解くためのもの。目の前の大きな扉もそのカギで開くのだけど、ほかにも使い道があるかもしれないから無くさないようにね。

 次に青い毛糸玉だけれど、それを使うと使用者とある程度の範囲内にいる人や物を転移させるわ。それを使うと、今あなたたちのいる場所まで一瞬で戻ってくることができるわ。帰り道のショートカット用だけど、一つしかないから気を着けなさい。

 そして三つ目の懐中時計は「絶対時間」を表示する原子時計ね。ここから先の話は特に注意して聞いてほしいのだけど、目の前の扉の向こうは時間の流れが明らかに「早い」と観測されているわ。そんな場所に無策で足を踏み入れたら最後、数歩歩いただけでたちまち老化して死に至るわ』


「げっ!? そんなヤベェ場所なのかよこの扉の向こう側!? あっという間にヨボヨボとか勘弁してくれよ」


 青年が思わずそう口走り、残り二人も無意識に頷いて同意してしまった。


『で、その狂った時間の影響を受けない様に、今からあなたたちに術をかけるわ。加速時間対抗術式よ』


 すると、三人の身体を青い光が包んだ。


『これで、あなたたちは現実時間の1日の間、時の流れの影響を受けなくなるわ。

 ただし、どれほど時間が早く流れているかわからないから、その目安として絶対時間を表示する懐中時計を渡しておくの。

 時間の流れが早ければ早い場所ほど、その懐中時計の針も早く回るから、長居は無用よ、いいわね』


「なるほど、この懐中時計は本来俺たちが受けたであろう時の流れの速さを表すわけか。一種の危険予知の道具だな」

「きちんとこの世界の標準時刻に合わせてあるね。しかもこの懐中時計、中心に日付まで表示されてるよ」


『さて、支給品の用意が済んだところで、ここから先はあなたたちの働き次第よ。例によって、あなたたちが捕らえられ、あるいは殺されても当局は一切関知しないからそのつもりで』


「リルヤ、それをよこせ」

「あっ」


『なお、このテープは自動的に消滅する。成功を祈るわ』


 言い終わらないうちに頭蓋骨の大男は、少年の手からカセットテープを無理やり奪い取ると、それを通路の先に放り投げた。

 すると、テープの再生が終わった次の瞬間に、カセットテープは大爆発を起こして木っ端みじんになったのだった。


「ふざけやがってあの依頼人! 俺たちを仕事の前に殺す気か!」

「さあな、お前たちなら平気だろうという依頼人の気まぐれなのかもしれないな」

「あれくらいじゃ死なないと言っても、あまり痛いのはちょっとね」

「で、どうする? もう行くか? この道具は誰が持つ?」

「ちょうど三つあるし、連帯責任っていう意味でも一人ひとつづつ持てばいいんじゃない?」

「それなら俺は毛糸玉を預かろう」

「お前……いざとなったら自分だけ助かる算段じゃねぇよな? ま、いっか。俺はこの鍵がいい」

「じゃあ僕は時計かー。これ、今のところ一番いらないんだけど」


 こうして三人はアイテムを分け合うと、青年が巨大な扉の脇にあった鍵穴に鍵を差し込んで捩じった。


 轟音と共に、巨大な白い扉が内側に開いていくと、その先は完全なる闇が広がっていた。


 三人は無言で視線を交わすと、扉の中へ歩を進めていった。

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