本当にあった怖い話 4

 急いで車に戻った若者たちはさ、とりあえずイベント会場まで戻るかってなってね。それで、一番頭がまともそうな奴が運転をして山道を下り、キャンプ場まで戻っていったんだけど。


 もうその頃にはすっかり黄昏時になっていて、キャンプ場にはシークレットパーティーにやってくる人が結構いたんだって。それに、昼過ぎから流れ始めたダンスミュージックの爆音も山々に響いていて。で、お馬鹿な若者たちはその雰囲気にすっかり心奪われて、祠に行ったことよりもまずは踊ろうぜって。祠から持って帰ってきた醜いお面を手に持って、ビール片手にステージの前に踊りにいったんだって。


 でもね、一緒に行った女の子の中にはさ、怖さが全然抜けなくてガタガタ足が震えて歩けなくなってることもいたんだって。そんな子はさ、友達に支えられてとりあえずは自分のテントに入ってね。ガタガタガタガタ、震えながら蹲っていたらしいんだよね。


 みんなが気晴らしに踊りに行こうよとか言っても、全然聞く耳なんて貸さないで、ぶつぶつ何か言いながら一人で蹲ってて。その姿を見た友達が、じゃあ私も一緒にテントにいるねって。優しいよね。やっぱり女の友情はいいなって思うけど、きっとその子も怖さが抜けてなかったのかも。だって、合法なのか、違法なのかは知らないけれど、幻覚作用があるようなドラッグ食べてるわけだしね。


 うん、そうだよ。もちろん女の子たちだって食べてたんだよ。なんだろうか、カラフルなラムネみたいな危ないやつを。そういうのってさ、切れるまで時間がかかるから。もう完全にバットトリップでおかしくなってたんじゃないかな。私はこの話を聞いた時に、そう思ったんだけど。


 え? 私? どうだろう。そこはご想像にお任せするけど、でも、ケミカルなものよりはナチュラルなものが好きだったよね。今? まさかそんなもの、摂取するわけないじゃんね? だって、ドラッグって、違法じゃないっていっても、いつか違法になるような、そんな危ないものなんだよ。


 それに……。


 きっとね、ドラッグってさ、一種の依存的なものを生み出しちゃうんだろうね。脳がそういう快楽を覚えると、またその快感を味わいたいって指令を出すみたいな。アルコール依存症の人とかもそうだよね。脳が萎縮するけど飲むのをやめられないみたいな感じ?


 最初はアルコールとか誰でも手に入るものからで。で、だんだんクラブとか? 行き始めたり? そういう世界に足を踏み入れていくと、そんなものやってる仲間もできたりして。で、まずは雑貨屋とかネットで買えるくらいの合法的なドラッグ類、例えばラッシュとか、そういうのから入っていって。そのうち、どっかの怪しい外国人とか、怪しい日本人とか、どこで何を売ってるかとかの情報がなんとなく入ってきちゃったりすると、もうダメだよね。どこでも手に入る合法的なドラッグ。それはきっとゲートウェイなんだよ。そう、入り口。入り口は簡単に見つけられる。そして出口が見えないトンネルの中を歩くように、どんどん深みにハマっていくやつもいれば、そうじゃなくて、入り口から引き返す人もいる。


 ゲートウェイは、きっと見つけようと思えば誰にでも見つけれるんだよ。だからさ、そういう危険な入り口を見つけても入っちゃダメなんだって。きっとね。


 そんなわけでさ、少し話はそれたけど、その女の子たちは入り口からだいぶ進んじゃったんだろうね。だって、一見お金持ちで見た目がいいとしてもだよ? そんな危険なシークレットパーティーに顔を出して、心霊スポットにドラッグキメていくような男たちと仲良しなんだから。


 ね。ほんと、瑞稀ちゃんのいう通り、無防備すぎる、だね。


 でね、話はここからまだ続くんだけど、その夜のパーティーはもちろん明け方まで爆音のダンスミュージックが鳴り響き、老若男女問わず参加した人たちは踊り狂ってたんだよね。山奥のキャンプ場、知ってる人しかやってこないキャンプ場。そのキャンプ場は大蛭谷おおひるだにキャンプ場って言って、川沿いにあった古いキャンプ場なんだけどね。


 その日はちょうど新月の晩で、月の明かりは何もない日だったんだって。ただでさえ山間の川沿いで、木に囲まれているしね。キャンプ場に設置してあるやけに青白い蛍光灯と、主催者が準備した発電機で動くライトだけが明かりだった。だから、ステージが組んであるダンスフロアの場所は明るくても、川沿いに進んでいくと真っ暗闇なんだよね。もちろん、川遊びができるように川沿いに作られたキャンプ場だったから、川までは降りて行けるんだけど。でも、真っ暗闇で轟々と音を立てて水が流れる川沿いには行きたくはないよね。私だったらさ。瑞希ちゃんは平気? だよね。同じく私も怖くて無理だよ。それに、流されたりしたら嫌だもん。


 ダンスミュージックで体を揺らす若者たちの影が楽しげで、でもその場所以外は真っ暗闇で。だけども時間はさ、過ぎるから。だんだん夜が更けていき、そして朝日がゆっくりと世界のどこかに顔を出す頃には、明け方の彼は誰時かわたれどきを過ぎてさ、辺りの景色がだんだんと見えてくるようになってきて。


 そしたらね。


 誰かが川辺を散策してたのか、なんだか騒がしくなってきて。で、よっぽど踊り狂ってる奴や、テントの中で寝てる人以外はさ、その河原に向かったんだよね。何かあったのか、って。もちろんそれでもダンスミュージックは止まることはないよ。だってDJしてる人はヘッドフォンをつけていて、そんなことは気づくわけもないんだから。


 で、河原に向かった人たちが見たものは、あの祠から持って帰ってきた醜いお面のように顔が焼け爛れている女性の遺体と、川沿いにうつ伏せに顔をつけぷかぷかと流れに体を揺らしている女性の遺体だったんだって。なんで、遺体ってわかったのかって? そりゃあ、一番最初に見つけた人が、生きてるかどうかを確認したからだよ。で、後からきて、それを見たそこにいる人たちは、みんな慌てふためいて。そしたら集まっていた人の中に、あの祠に行ったメンバーがいて、呪いだ、祟りだ、災いだって騒ぎ始めて。


 それで——。


 とりあえず、警察に電話しなきゃだけどさ、合法じゃないドラッグをしてた人達は急いで荷物をまとめて帰るしさ。会場内がパニックだったんだって。本当にひどいよね。だって、それは誰かに殺された事件かもしれないのに。


 でも、結局、川に浮かんでいた女性は水難事故。そして、死亡解剖の結果、顔が焼け爛れていた女性はどうやら自分で自分の顔を焼いて、川の水で顔をつけ自殺したんじゃないかってことになったみたいで。なぜかっていうと、その子は祠に行ってからテントの中でガタガタ震えていた子でね、違法じゃないドラッグでバットトリップしたからそんなことをしたんだっていう話になったんだよね。


 ねぇ、瑞希ちゃんはどう思う?

 これって、祟りのせい?

 それとも、殺人事件?


 それとも、ただの事故と自殺なのかな。


 あとね、もうひとつ付け足すと、その日、行方がわからない女性が実はもうひとりいたんだって。その女性も、川にきっと流されたんだろうって、探したみたいなんだけど、見つからなかったらしくて。


 それからそのキャンプ場はね、しばらく閉鎖されてたの。祠の祟りだって騒ぐ一部の人たちがいたし、呪われたキャンプ場って地元でも呼ばれてしまって、閉鎖するしかなかったんだよね、きっと。でも最近、キャンプ場じゃないけれど、復活したみたいで。


 あれ? 何か気づいた? だって、すごく顔が青いよ。うん、うん、それって、ここのことですかって?


 あはは。大正解。

 どう? とっておきの怖い話だったでしょ?」


 


 

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