第12話 役割(1)
「君が私に聞きたいことがたくさんあるのは理解しているよ」
ばぁやと話している時も、子供達に囲まれている時も、王子は私の少し後ろに立って大人しくしていたけど、その顔を見れば聞きたいことがたくさんあるのだと知ることはできた。
「エカチェリーナさんのことを、聞いてはダメなのでしょうか?」
「そうだね。君に話せることなど無いよ。今はね」
「そうですか……」
何も教えるつもりはないのにここに連れて来て、随分と意地の悪いことをしているのは自覚していた。
王子は無理には聞き出そうとはしてこない。
遠慮がちにこちらを見て、言いたい言葉を飲み込んでいる。
そういうところは聡い子だと思う。
ただ単に意気地が無いだけかもしれないけど。
それはこれから分かることかな。
「じゃあ、原因探しに行こうか。王子の初めての人助けだよ」
「はい。僕に何ができるかはわかりませんが、頑張ります。ところで、どうして村の外に?」
「村の中にいたら、王子が注目されるでしょ?君の正体が知られるのはよくない」
「えっと……僕は、本来ならあの場に足を踏み入れるべきではない人間だからでしょうか」
「そうだね。君はよく気付くし、理解も早い。良い弟子だ」
「弟子、ですか」
「そう。王子、君の出番だよ」
「何をすればいいでしょうか?」
「君の耳が必要だ。今から封じていた魔力を解放するよ。それで、王子の耳で辺りの音をよく聴いて」
「わかりました」
また音を聴かなければならないことに不安があるのは当然だ。
でも王子は多少は身構えていたけど、私が耳に触れるのを大人しく受け入れていた。
その勇気は評価してあげよう。
「はい、いいよ。音に集中して」
それを伝えると、王子は耳に手を添えながらキョロキョロと辺りを見渡している。
「何か聞こえた?」
「えっと……人々の話し声はまったく聞こえなくて……何かの動物の気配もないのですが……息遣いが……」
人避けの影響で、村の話し声は聞こえないはず。
それから、目と鼻の先にある無の森には虫や動物などもいない。
無の森の方向から聴こえてくる息遣い。
「私の予想通りだと、私とは相性の悪い存在が近くにいるはず。君が頼りだから、それが聞こえる場所に私を案内して」
王子がここに来たのとほぼ同時期に聴こえてきた、何者かの声。
ただの偶然か、運命的な巡り合わせか。
この現象に対処しなければならないのは、間違いなく私ではなく王子の方だ。
耳の良い王子を城から遠ざけたかっただけなのに、この事態はヴェロニカさんも予想していなかったんだろうな。
どんな結果を望むのか。
私はただ、村の人のために目の前の問題を、まずは解決するつもりでいた。
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