第18話 亡き我が家

「———な、なんじゃこりゃ⁉」

 家に帰ると、そこはもう家じゃなかった。

 正確に言うとマンション『ラ・マルシェ高田馬場』じゃなかった。

 レンガ造りの洋風の家になっていた。

 木製のドアが金切り音を上げながら開き、305号室から赤毛の中年女性が出てくる。彼女は俺の姿に気が付くと、手を振ってくる。

「おかえり~、ジョン!」


 ———誰⁉


「は、ハハ……! どうも~、ローナ。これってもしかして」

 ついて来ていたローナに聞く。

「さっきマックスと戦う前、授業中ですけど時間が止まっていました。その時にここが破壊されたんじゃないかと」

「マジか……時間が止まっていたのにどうして知ってんの?」

「異世界人の一部は時間が止まっても動けるんです。ご主人様もそうですよ。止まった時間の中、動いていました」

「いや、授業中なら先生の説明が止まって普通に気が付くだろ」

「気が付きません。寝てましたから」

「……そっか」

 爆睡しているときに時間停止の魔法、そして魔物の侵略があったらしい。

 どの授業の時だろう……基本授業中ずっと寝てるからわからないな……。

「帰りましょう。あのおばさんはご主人様をジョンとして認識してます。ジョンがこの世界に来るまではそうあり続けるでしょう。ジョンとしてしばらく生活していれば、特に問題はないはずです」

「いや、いい……他人と家族ごっこするのは疲れる。一日二日はどうにでもなるし、ちょっと野宿でもして考えるよ」

「それだけですか?」

「え?」

 ローナが透き通った水晶のような瞳で俺を見つめていた。

「今、考えていることはそれだけですか?」

「…………」

 手を振った後、自分の家に戻っていく異世界人のおばさんの背中を見ながら、答える。

「ああ、あと、親父も帰る場所なくなって困るだろうなってことは、思っていたかな」

「そうですか……」

 それだけのやりとりをして、元『ラ・マルシェ高田馬場』から背を向けた。その後、コンビニで適当なカップラーメンを買った。ローナは『ビッグ三種の肉盛り弁当』を買おうと言い始めたが「バカ、これから何が起きるかわかんねぇんだから節約しないとだろ」と小突き、198円の普通のカップラーメンを買い、冗談を言い合いながらお湯を入れた。

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