第5話 動く闇
10時51分。
早稲田大学の動物進化学研究室。生命の進化を研究するために作られたその一室で一人の人間が倒れていた。
胸から血を流し、目を開いたまま息もしていない。
死体だ。
倒れている人間は完全に死んでいた。
「お疲れ様です、我が王」
オールバックの男が壁にもたれかかっている。頬がこけていて、細い目をした四十代に差し掛かろうという風貌の男。
彼の両手の甲に———光が宿っていた。それはまるで魔法陣のような形をしていた。
「時間停止魔法により、時は止まっています。彼の死はこの世界の人間に一気づかれていないでしょう」
死体を哀れんだ表情で見つめるオールバックの男。
「ああ、助かる……」
部屋には彼以外にも男がいた。
顔に深く皺が刻まれた初老の男。白いスーツを着て、研究室の椅子に座り、死体を見つめ、
「……ウゥ」
涙を流していた。
「バリー?」
オールバックが初老の男の反応に疑問を抱き、更に釘をさすように言う。
「その男は裏切り者でしょう? 感情をかき乱さないでください。あなたは我々の王なのですよ」
「ああ、ああ! わかっている! わかっているとも! こいつは最後のチャンスを自ら不意にした。これはわかっていた結末だ!」
バリーと呼ばれた初老の男は荒々しく立ち上がった。
その拍子に座っていた椅子が激しく床に倒れ音を鳴らした後、空中でピタリと静止した。
「行こう、リチャード」
そう言って、バリーは手に持っていた銃を腰のベルトにしまった。
「ええ……我々の覇道のために!」
リチャートと呼ばれたオールバックの男は笑顔で答え、壁に手を振れた。
瞬間————破砕した。
強大な破壊音が響き、壁の奥に通っていた水道のパイプか水が噴射する。
リチャードの破壊は止まらない。
彼が踊るように壁をタッチし続けると、触れた壁で爆発が起き、どんどん粉砕されていく。
その中を、タバコをふかしながら、初老の男・バリーは進んでいく。
彼の後ろで踊り続けるリチャード。
「この世界を書き換えるのです! ヴァランシアの王・バリー・シュタイン!」
…………。
彼らの去った後———壁が破壊されもはや部屋であったこともわからない動物進化学研究室に残された死体。
いつの間にか仰向けの状態にされ、両手を胸の上で組まれ、安らかな顔で目を閉じて眠っていた。
その胸にある名札にはこう書かれている。
『動物進化学教授
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