岩田20001

今迫直弥

第一章 開幕・岩田二〇〇〇一

 二〇一世紀が始まった。

 世間は年末からお祭りムードで、新世紀の到来を過剰に騒ぎ立てていたが、前世紀と比べて特別何かが変わったというわけでもない。『新世紀』に『輝ける未来』を仮託した人々はきっと拍子抜けしたことだろうし、そうした者は決して少数派でなかったはずだ。

 未来はいつまで経っても手が届かないように思え、夢はいつまで経っても叶わないように思える。文明の発展速度は常に緩やかで、時代を生きる当人達にはその進歩の具合が客観視出来ないのだ。

 卑近な現実を前にして、誰もが軽い落胆を覚えざるを得ない、時はそんな新世紀の幕開けである……。


 人通りが多ければ、逆に救われたかもしれない。何気なく、岩田はそんなことを考えてしまった。彼は生来、人ごみなどという無粋なものを好む性質ではなかったが、人の往来の絶えた大通りがこうも物寂しく、一歩間違えれば薄気味の悪いものですらあるとは全く思いもしなかった。実際にこの通りが人ごみに溢れていれば、場にいる全員にモスチボタの呪いをかけるくらいのことは平気でやりそうな点を踏まえれば、随分と身勝手な言い分ではあったが、ものには限度というものがある。

 元日の昼下がり。天気は良好で空は澄み渡っている。例年の平均を大幅に下回る低気温という若干の不利を除けば、絶好の初詣日和に思えた。なのに何故、近場では最大規模の神社へと続く一本道がこんなに空いているのかと言えば、理由は明白だった。

 午前一〇時に発令された外出規制のためである。

 ご存知の通りそれは、呼吸大気中のユズラグラフィトーレが通常の三倍以上の濃度で現れている時や、付近一帯にデシリーリバンティー・J・オースの雨が降っている時、あるいはダリ軍が隣町から飛行ゼルガに乗って御座なりな偵察にやって来ている時に出されるおなじみのやつだ(地方によっては、『外出規制』でなく『お外に出ないでシグナル』などというふやけた呼び名が平然とまかり通っているようだが、あくまでも正式名称で統一させてもらう)。

 今回は何だったか。確か、リヴァ天皇というフィルガの一種(この時点で、絶体予報者の「朝のフィルガ予報」は相変わらず外れているのだな、と国民一同は揃って呆れ返る)が、油性のサトティティラークを散布する可能性が高い――いや、非常に高いため、国民はレベル七の外出規制に従うように、とのことだった。

 岩田が家の外に出たのは、正月のカドドルーキンがあまり面白くなかったのもさることながら、外出規制時ならばそれほど人手がないだろうから、この隙にヨテリーリリーを久しぶりに見がてら初詣にでも参ろうか、とぼんやり考えたからだった。外出規制が無ければ逆に今頃、バモールフに包まってうたた寝でもしていただろう。

 ――で、実際に外出してみれば、岩田が見込んでいたより人手が遥かに少なく、それに対しての不平を漏らした、というのが冒頭の顛末である。

 彼が子供の頃(そう、テレヴィジョンであの岩瀬光斗が暗殺者の役をやって、電映ノヴェル原作のドラマを大ヒットさせた頃だ)は、外出規制を平然と無視する国民がもっと沢山いたような気がする。確かに、規制を無視したためにリトリラララライ・トを浴びすぎて夢を見られなくなった者や、運悪く警察モドキに捕まって、ヨールの丘で二時間の強制労働の末に七キロ太らされるような者がいて、今より混乱の度合いは遥かに高かったが、それでも活気があった分、今より何倍もましだと思えた。

 レベル七でこのざまである……。ぐるりを見渡しても、人影はぽつりぽつりとわずかに三つばかりしか視界に入って来ない。あの、『九〇〇人のスド人が翼付きゼルガで大暴動を起こす可能性が一〇〇パーセント』(つまり、その放送の時にはもう暴動が起こっていたのだろう)という、一二年前にこの町で出されたレベル二〇の外出規制の際も、屋外で一九八人の死者が出ている(スド人は不死身なので、無論この数に入っていない)ことを考えると、最低九九人の外出者がいたという計算になる(全員、死ぬと二人に増えるケラン人モドキであったと仮定)。……明らかに、今より多くの人が規制を無視して外出していたのだ。

 いつから国民はこんなに従順な体質になってしまったのか。八年前、レベル一の外出規制だった岩瀬光斗高圧ガス爆発事故で二〇万人が行方不明になった上に七〇人の女性が男性になったことが原因だろうか? それとも七年前に、レベル二の外出規制を出そうとしていた放送局が、その寸前で、ジェトジェン派によりジャックされデ・Qそっくりの声になるよう細工されていたマイクロフォンに気付いたことによるのだろうか?

 国民は、外出規制にやけに敏感になった。今日だって冷静に考えれば、ザ・フライデーなのだから、仮に油性のサトティティラークを体に浴びたところで、明日の朝公園にやって来るジバトドラゴンの聖なる福音書の朗読を聞けば、ニヴァンジ・ドルイ死に陥る前にサトティティラーク破壊虫を体表面に多数創り出すことが出来る。リヴァ天皇そのものに襲撃されると危険かもしれないが、今や国民の九〇パーセント以上が持っているというアイト・マイトDO(ニュースキャスターはアイト・マイト・ドゥーと読むが、開発に携わった企業モドキはアイト・マイト・ディーオーと読んでいて、正確な読み方を巡って今、ユルドの裁判にかけられているのはご存じの通りだ)を、上手い具合に右手で掴んで持てさえすれば、フィルガの一種に過ぎないリヴァ天皇などサジェイキーニ症候群に陥らせることが可能であり、そのサンプルをバ屋に持って行って献体に出せば五〇円(五〇『ニャト』でなく、五〇『円』!)もの大金を手に入れられることを考えれば、一攫千金のチャンスであるような気さえする。絶体狩猟者の組合本部は朝から上を下への大騒ぎであろう。

 ……それでも、大多数の国民は外に出ないのだからしょうがない。

 岩田は溜息を吐こうとして、ふと今がチェアルキッツェ期に当たることを思い出し、慌てて飲み込んだ。チェアルキッツェ期に禁止事項を犯したため、夜付きガイドリアーボによって連れて行かれてしまう国民のドキュメンタリー映像をよく見る。男性が溜息を吐くことは九番目の禁止事項だから、ガイドリアーボには夜は付いていないだろうが、どことも知れぬ場所に連れ去られるのなら、同じことだった。

 とりあえず、岩田は肩を落としたまま神社へと歩き出した。

 道沿いの花壇には、ヨドー国からこの国が独立した二〇〇年前の国名と同じ名を持つ木が植えられていた。

 この植物は、誰一人としてこの国の二〇〇年前の名前を知らないためそんな長ったらしい名で呼ばれているが、木本ではなく草本である点を筆頭に、幾つかの明らかな不都合が生じている。しかし、ニセ植物学者が言うには「この植物はこの名前が一番気に入っている、と先代のバルバ(古代ツラック雅語。現代語で言うところのニュゼゼルドと同意)がおっしゃられた」そうで、三年前のダッツェル国民総会(そう、ガン党がユズラグラフィトーレの原液をこぼして退場になったあれだ)においても国民の九分の一が納得の意思を示したため、魔のコルコトゥウァ国民総会に議論が持ちこまれずに済んでいる。

 一四季を通じて綺麗な花を咲かせる一方で、スバトーサに黄色が入っていないという珍しい特徴を持ち、その理由を解明したバクルート三九四改人にハバパ生理学賞(現ハバパバハ生理学賞)が贈られたが、この事実を教科書で伏せ字を使って掲載していたため、大問題となったのは記憶に新しい。モスジャル談判によって示談が成立し、授業の際、伏せ字の部分に各自好みの字を補填することが強く義務付けられたそうだが、既に学生の身分でない岩田には全く関係の無い話だった。

 そうこうする内に、神社まであと二〇〇メートル(約五・二九八ポズレー)と迫った。ここから先は、地面がタイル張りに舗装されているため、実に歩き易い。

 言わずと知れた、ミレト革命の成果である。

 ミレト革命。この国がまだヨドー国だった頃の事件だ。政権の掌握を目論むジェトジェン派が特攻ゼルガを奪取して、国粋のドルン将軍付き海兵隊をシトライガーの下に埋め直すことに成功した。早速行われるのが行啓パレードの真似事である。国内屈指の直線道路だったこの場所が候補地にあげられてしまい、それまで神主ダマシの暴挙によって頭蓋骨でみっしりと敷き詰められていた『髑髏絨毯』を隠蔽する必要が生じたのであった。タイルを張るために借り出された国民は一〇〇万人とも二〇〇万人とも言われている。

 今でこそ、小学校三年生用のデジルトンの教科書の『家付きヨルダル・ルバイーク事件』の項目の隣に通常のフォントの一〇〇分の一の大きさで載せることを許されているこの史実は、驚くべきことに一年前の今頃まで事実だと思われていた。つまり、歴史の資料集に載っていたのである! 国家曲剣飲みこみ委員会会長・兄さんの調べで、ミレト革命に関することが全て国家短剣飲みこみ委員会会員・ゼロのでっちあげだとわからなかったら、デジルトンの世界は今より四段階は遅れていただろう。評論家崩れの石毛岡元の言葉を借りるなら、『歴史学とデジルトンが紙一重であることを国民に広く示したという意味で、ミレト革命がこの国にもたらした貢献度は非常に大きい』のだ。

 そんな曰くつきのタイル張り道路をのんびりと踏破し、階段状に幾つも連なった幽玄な白鳥居をくぐって参道に至り、神社の本殿に辿り着いた岩田は、そこで思わず顔を綻ばせた。別にシャグレンマルゾン信仰があるわけではなく、見知った顔と遭遇したためだ。

 向こうも岩田に気付き、少し驚いたような仕草を見せた。出不精の岩田とこんなところで出会うとは全く思わなかったのだろう。

「あら、岩田様。明けましてオルレイカ」

「ああ、オルレイカ」

 新年の挨拶をにこやかにこなす彼女の名は、ルース。同い年の、岩田の従姉妹である(ルースの母と岩田の父が姉弟なのだ)。実は、ルースと岩田の共通の祖母に当たる人物――かなりの傑物で、座フロウ(座布団に乗って浮遊し、滑るように宙を移動する禁術の一種)の創設者として広く知られる――が、若かりし頃に使っていた偽名こそがルースであり、そんな名を実の孫に受け継がせるのは如何なものかと、出生当時は随分と揉めたらしい。物心ついた時からルースはルースでしかなかったため、岩田にはルース以外の名を持ったルースの姿が想像も出来ないが。

 今日のルースは、艶やかな薄桃色の振袖姿といういつもの通りの格好ではあったが、正月用の盛装ということでか、よく見ると帯の脇に、宝石をあしらったセトリーミアが飾ってあった。

「岩田様は、初詣ですか?」

「ああ。ついでにヨテリーリリーを見に来た」

 岩田は、この従姉妹に出会えて心底安堵した。人のいない神社で誰とも会話出来ずに帰ることになっていたら、何の比喩でもなく、マッテンリー病になりそうだったからだ。天晴れ、まさに素晴らしき外出規制無視である。

「岩田様もですか。私は今しがた見て来たところですわ」

「今日はザ・フライデーだから青かい?」

「ええ。美しいメタリックブルーでしたわ。ミストマ湿原にいた頃より、若干顔色が良いみたいですし」

「そうか」

 岩田はそこで一度明後日の方を向き、小さな間を置いた。

「ところでルース、今年もじいさんの所に顔見せに行くのかい?」

「勿論ですわ。メスラトの年ですし。丁度今から参上しようと思っていたところですの。岩田様もどうですか、ご一緒に」

 屈託のない従姉妹の誘いに、岩田はしばし迷った。ルースに同行することや、祖父母に会うことは問題無いのだが、あの家には正月の間、ユルトルバルザッティ8(エイト)が出て来る。いつだったか、ルースがユルトルバルザッティ8に刺されて一家大騒ぎとなったことがある。あの時は岩田の応急処置(彼は、幼少時からゼン・ハルティスのファンであったため、カシトトリング教会に毎日出入りしていた)と救命救急隊のバロス砲一斉射撃によって、離魂状態に陥るのは食い止められたものの、副作用で彼女の瞳は緑色になってしまった。

 それ以来、岩田は正月に祖父母の家にはなるべく行かないようにしていた(勿論、四年に一度はアリテンス法によって否応無く行くことになるのだが)。一方でルースは、懲りずに毎年顔見せに行っているらしく、以前から気にはなっていたのだ。岩田は率直に訊いた。

「……ユルトルバルザッティ8は怖くないのかい?」

 それに対し、ルースは口元に手を当てて、いつものように穏やかに笑いながら、「もう出て来ませんわ。出て来たとしても、トジュンで手懐けられますし」と、当然のように答えた。

 岩田は、その意味するところに気付き愕然とする。

「トジュン……てことは、ヨイギストゥスの資格を取ったのか!」

「ええ。一〇年前にユルトルバルザッティ8に刺されて、皆さんにとんだご迷惑をおかけしてしまったので、直後にゲンス山岳に行って参りました」

 なるほど……。一連の騒動の後、突然ルースが行方不明になり、捜索願を出す直前の大騒動にまでなったのを岩田は思い出していた。ひょっこり戻って来た後、どこに行っていたのかと何度問いかけてもお茶を濁すばかりだったので、不思議には感じていたが、ヨイギストゥスの資格を取っていたとは予想外だった。

 『あなたにヨイギストゥス』というひねりも何もないキャッチフレーズで、しかし松永ヒロ江の笑顔が印象に残るコマーシャルメッセージは、三年連続で紅白雪合戦(紅組のための雪を作るのにわざわざ鶏の血を使うため、動物愛護団体『アニマル愛護団』の電波ジャックを受けて去年は放映されなかったが)の優秀コマーシャルメッセージ代表に選ばれたほどであるが、実際にヨイギストゥスの資格を持っている人を見たことはなかった。第一、カキネン則によって、この手の資格取得者は、七、八年間は資格所有を口外してはならない決まりになっている。

「何だ……。だったら毎年ルースと一緒にじいさんの所に行けば良かったんじゃないか。そうすれば毎年ギジンダンが貰えたのに!」

 半ば本気で悔しがる岩田に呆れたような微笑を向けて、ルースはさばさばと言った。

「今更過去のことをどうこう言ってみたところで何も始まりませんわ。とりあえず、今年はこれから私と一緒に参りましょう。早くお参りを済ませて、ヨテリーリリーを見て来て下さいな。私、ここで待っておりますから」

 岩田は、ヴァーチャル賽銭箱に慌しく八五ニャト(幸運のハチジューゴニャトとかかっていて縁起が良い。五〇ニャト札を手に入れるのは少々骨が折れるが、五〇ニャト札一枚と、三〇ニャト札一枚、五ニャト玉一個を入れるのが、この地方の賽銭の基本だ)を放りこんで、両手を連続三回打ち鳴らした。瞑目し、心の中で完全独立政党ヒビッ党の壊滅とヤフドラキーニェの成功者が出ることを祈った。

 初詣を早々に切り上げると、本殿の裏手へと回り込んで、シュゼンカ機による消毒(一回二円もする)を行い、湿度の高いキリニャーグ室への扉をくぐる。この部屋を作るためだけに、国中のヨクヌヌ人の体重を合わせたよりも二キログラム重い量の池電池が使われていると親友の鳩々山が言っていたが、岩田は真実かどうか疑わしいと思っていた。何しろ彼は、池電池の実在からして信じていない。

 室内は、外観から想像するより広かった。調度品も何もなく、じめじめした薄暗い照明の下に、ぽつんとヨテリーリリーだけが寂しく存在していた。ルースの言った通り、全体的にうっすらとメタリックブルーに輝いている。

 その幻惑的な様を見ていると、ついふらふらと足が前へと進んでしまう。岩田は、その強烈な誘引力に意志の力で抗った。我を忘れてそのまま近付き、万が一ヨテリーリリーに直接触れてしまおうものなら、バンタ現象によって屈折ダッファーとなり、すぐさまヨテリーリリーの仲間入りである。ルースのようにヨイギストゥスの資格を持っていたり、デシリーリバンティー・J・オースの雨にうたれても背が伸びない特殊な体質であったりすれば、あるいは触れることも可能であろうが、勿論岩田には出来ない芸当だ。

 ヨテリーリリーに近付こうとする足を半ば物理的に押さえつけ、どうにか自制しながら、岩田はそれに話しかけた。

「やあ、今日も綺麗だね」

 勿論返事は無い。まるで馬鹿をやっているようでもあるが、岩田は鳩々山から、ヨテリーリリーは五感の内で聴覚に優れており、簡単な言葉なら理解もすると教えられていた。ならば、世辞を言ってやれば大いに喜ぶだろう。そんな、戯れのような行動だった。

 しかし、

「ありがとうございます」

 と、ヨテリーリリーと真逆の方向から思わぬ返事があって、岩田は、デ・Qが中身のわからない箱に手を突っ込んで一人大はしゃぎする(そして、その後絶対にスロー再生される)リアクションもかくやという勢いで派手に驚いた。慌てふためきながら振り返ると、何故か入り口のドア付近に、にこにこといつもの笑顔を湛えたルースが立っている。

「びっくりさせないでくれよ。今のはヨテリーリリーに向かって言ったんだから。君が返事をするな」

「まあ。珍しく岩田様に誉めていただいているかと思えば、そんなからくりでしたのね」

 相変わらずどこかピントのずれた天然ボケの性質を持っているなあ、と岩田は思い知らされる。いざという時はとんでもない聡明さを見せるくせに、平穏の中に埋没すると一遍にこんな風になる。

 少し前に流行していた某ダンスグループのリーダーが大体こんな性格の女性で、岩田はルースが禁術で顔を変えてデビューしたのかと本気で疑った。ある時、ファンを名乗るケラン人がガルトストの呪いをかけてこのリーダーを離魂させるという恐ろしい事件(実際恐ろしかったのは、離魂させられた当人がバショゼ人だったため、倍加反撃回路がすかさず作動して、ケラン人全員にロトジェナイ病を発生させる劣性遺伝因子が組み込まれたことだろうが)が起こってから、天然ボケは危険だという見方(「天然ボケは狙われて危険」というより「天然ボケは危険な奴」という偏見が多い)が定着したため、天然ボケの人はめっきり少なくなった。ついには、一〇円もする天然ボケ克服ツアーなんてものがありがたがられる始末だ。

 そんな時勢の中で、岩田の従姉妹は飄々と我を通している。昔から全く変わっていない。祖父がよく苦笑しながら、

「ルースは、昔のばあさんにそっくりだ。むしろ似過ぎていて怖い」

 というようなことを言っていたし、隔世遺伝で伝わったその性格を流行くらいで変える気はないのだろう。

 そんな感慨に耽ってから、岩田はようやく違和に気付いた。何故、ルースが自分の背後にいるのか。

「どうしてここに? 向こうで待ってるんじゃなかったのか?」

 口に出してから、偶然このセリフが大ヒットドラマの主人公(岩瀬光斗)のものと同じであることに気がついた。

 どうしてもセマキトゥの頂に徒歩で登ってコトハルの種を植えたい主人公が、艱難辛苦を乗り越え、満身創痍になりながら、とうとう頂まで到達した。しかし、そこには麓で待っているはずのヒロイン(戸津杏)が、よりによって徒歩で先回りし、あまつさえ汁粉を啜っていたのだ。主人公は愕然。真っ青な唇を震わせて呟くのだ。「どうしてここに? 向こうで待ってるんじゃなかったのか?」ドラマ最大の謎を唐突に作り出し、視聴者の気を持たせるため、一旦コマーシャルメッセージ(ここでは映像を介した企業広告の内、マインドコントロール等の禁術効果を用いるものを除く)が挟まった。突然の展開に、視聴者は目を放せない。

 コマーシャルメッセージが明ける。内容は少し巻き戻ってもう一度繰り返される。「どうしてここに? 向こうで待ってるんじゃなかったのか?」のセリフ。返事をしようとしたヒロインが突如、がくっと膝を折り、ぶるぶると小刻みに震え出す。全身に亀裂が走り、ちゃちな特殊効果を使って見事な体躯を持つフィルガに大変身してしまう。飛び去るフィルガ。喜劇的な背景音が流れ、主人公の笑顔のアップが延々と続く中、スタッフの名前が流れていく。暗転。画面に入り切らない『劇終』の文字……。

 それまでのドラマの展開を一切無視したこの意味不明なラストは、あのケドイドイ人をしてさえ「夢かと思った」と言わしめたもので、視聴率はこのシーン前後で五七パーセントから二パーセントに急落し、テレヴィジョン放映局には抗議の電話、影話、ファクシミリが殺到。トトルトン暗号を用いた無線通信や、ひいては飛脚まで使った批判文書(もんじょ)さえ登場し、次の日のニュースを独占した。

 岩田は一瞬の内にその事件を思い出して、「まさかルースに亀裂が入ってフィルガに変身するのではないか」と警戒を表したが、

「放送局の言う通り、表でリヴァ天皇の襲撃が始まったので、こちらへ避難して来たんですの」

 と、本人はあっさり答えを返して来たため、仰々しい回想は全て岩田の杞憂に終わった。

「ヨイギストゥスの資格があれば大丈夫なんじゃないのか?」

 生粋の少数派主義であるルースはアイト・マイトDOを持っていないはずだが、ヨイギストゥスの資格があるのならフィルガも手玉に取れるに決まっている。岩田は、ルースの変身の恐怖が抜けた安心感そのままに、当たり前のことを指摘したつもりだった。

 対するルースは、これまたさらりと返答を口にした。尤も、岩田の前でルースが言い淀むこと自体、滅多にない気がする。

「本体だけならどうとでもなるのですが、油性のサトティティラークとゲリガルバイケル酸を散布しておりましたので、さすがに……」

 ゲリガルバイケル酸だって! 岩田は二の句が告げられなかった。油性のサトティティラークについては外出規制の放送で触れていたので想定内だが、ゲリガルバイケル酸のことは全く聞いていない。

 ゲリガルバイケル博士が発見したこの酸は、三五価の強酸で、ジエッジコーティングされていない固体ならば何でも溶かしてしまう。この国では、一定以上の硬度を持っているもの全てがジエッジコーティングされているため、合成繊維やゴム、紙、サゲホイ以外の物は、大体溶ける危険性は無い。しかし当然、生物はジエッジコーティングされておらず(例外は勿論ある。あの、硫酸浴びせたら国家一が売りのお笑い格闘家デ・Qなど、凄まじい痛みに耐えて、眼球以外の全身をくまなくジエッジコーティングしたという)、この酸は恐ろしい凶器となる。

 ヨイギストゥスの資格を持つルースでも、大事をとって室内に退避するというわけだ。

「大丈夫かい? どこにもゲリガルバイケル酸を浴びてないか?」

 心配そうに尋ねる岩田に、ルースは笑いながら答えた。

「大丈夫ですわ。すぐにこちらに逃げ込みましたので」

 ということは、シュゼンカ機による消毒をせずにこの部屋に入ったということになる。小さな規則違反だが、ルースは先程までこの部屋にいたわけで、つまり一度消毒を受けているし、緊急事態ということもある。ソトルザンの連中も大目に見てくれるだろう。

 少しの間、沈黙が続いた。

 外からは、リヴァ天皇が暴れていると思しき大きな音が断続的に聞こえて来る。よもやキリニャーグ室が倒潰することは無かろうと思うが、外の様子を窺えないというのではどうしても不安になる。

 落ち着かない岩田を後目にルースは怯える様子も見せず、何が楽しいのかにこにこと(ある意味いつもの表情だが)微笑を湛えながら、ヨテリーリリーに見惚れていた。

 横目でそんなルースを窺っていた岩田は居心地が悪くなり、視線を外した。咳払いを一つして注意を引いてから、何かを誤魔化すように声を出した。沈黙に耐えられそうになかった。

「こうやって、ルースとこんな所にいると、小学校の全力修学旅行を思い出すな」

 ルースは珍しく細い目を見開き、驚いたように岩田を見遣った。

「まだ覚えていらしたんですか……。マシュゾットの群れに襲われて、あの山小屋に逃げ込んだ時のことですよね?」

 岩田は、ゆっくりと頷いた。


 八年前は、まだルースが今より近い地区に住んでいて、小学校が同じだった(何の因果か、クラスもずっと一緒である)。

 最高学年になり、待ちに待った全力修学旅行の時が来た。綿密な予行演習を繰り返したおかげで、本番もつつがなく進行した。だが、三日目、第三チェックポイントのハビミ付近でアクシデントに見舞われた。霊峰に土足で登っている途中、マシュゾットの一群に襲撃されたのだ。

 ご丁寧に二列縦隊に並んで歩くなどという小学生らしい愚行が完全に裏目に出た。一頭の攻撃で長い隊列が分断されると、全力で保たれていたはずの生徒達の均衡は一気に崩れた。先生や助先生、半先生の言うことなど無視し、皆、マシュゾットの少ない方へ我先にと走って逃げる。それこそが賢いマシュゾットの真の狙いであり、草陰に隠れていた一際大きな一頭が、次々と生徒を飲み込んでいった。引率の戦闘員(岩田に言わせれば、あんなのはお飾りに過ぎない。ゲッハトを持っていない戦闘員が実戦など出来るはずもないからだ)が皆やられてしまったため、全力修学旅行史上前代未聞の、一学年全滅の事態すら危ぶまれた。……まあ、ご存知の通り、マシュゾットは腹の中で生きている者にチョガイネの実をご馳走し、二、三の問答を仕掛けた後、折を見て中から出してくれるので、飲み込まれた生徒に生命の危険はない。無論、チョガイネの実を食べて数ヶ月は口の中が辛く、味など何もわからなくなるだろうが。

 そんな中、岩田は偶然にも、山を少し登った所に山小屋があるのを見つけた(実はそれは当時の彼の立ち位置から完全に死角にあったのだが、何故か見えた)。岩田の勘が告げていた。助かるには、あれしかない! 岩田は、自分の隣でいつものようににこにこと「困りましたわ。お昼のお弁当楽しみでしたのに」と、具体的な別のものに困っていたルースの手を握ると、半ば強引に、振袖姿の少女を引きずるように走り(この時、彼は自分にフロウ系の才能がないことをひどく呪った)、飛び掛かるマシュゾットをナイフで振り払いながら、息も絶え絶え、人生で最も険しい一瞬一瞬を無事に切り抜け、目的の山小屋まで辿り着いた。運良く鍵もレキアルトも開いていた。すかさず中へ滑り込み、鍵をかけ、レキアルトをロックする。レキアルトはよりによって最大の八重にしたので、下手をすると内側からも開かなくなる恐れがあったが、当時はそんなことを気にしている余裕など無かった。

 小屋の中で四つん這いになってぜえぜえと肩で息をしながら、ようやく、岩田は助かったことを実感した。隣には全く疲れた色のないルースが、飄々と背筋を伸ばして立っていた。

 山小屋には小さな窓しかなく薄暗かったが、明かりを付ける気にはなれなかった。木で出来たテーブルが一つに椅子が四脚、後はタディアス石(山の神に敬意をこめて飾る御影石。テーディアス石とも言う)が天井からぶら下げられているだけの簡素な造りだった。

 呼吸が落ち着き、人心地がつくと、今度は外の様子が気になってくる。岩田は立ち上がって、小窓から外を覗いた。木々の隙間から、ジュキ湖の赤い水が妙に生々しく、気味の悪さを湛えて遥か下方に見えるだけで、他の生徒や先生がいるだろう方向とは異なり、外の様子はわからなかった。

 小さな悲鳴が聞こえる気もするが、風でチョガイネの木が奏でる「あ」の音もそれに似ているし、絶体予報者が山の様子を見るために高速ゼルガに乗って上空を移動している音にも似ている。

 不安だけが募る中で、不意に岩田は上着の裾を引っ張られた。振り向くとそこには、心なしか元気の無い表情のルースが立っていた。

「どうした? 怖いのかい?」

 口に出してから、偶然このセリフが大ヒットドラマの主人公(岩瀬光斗)のものと同じであることに気がついた。

 ある回で、主人公が暗殺者であると知りながら、彼に妙に懐いて来る見ず知らずの子供(松永ヒロ江)がいた。食うか食われるかという殺伐とした世界に生きる主人公にとって、少女は一輪の花のような大切な存在だった。だが、少女との憩いのひと時を妨害するように、因縁の敵(デ・Q)との銃撃戦が始まってしまった。咄嗟にジャングルジムの陰に隠れつつ、右手の短銃で応戦する。そうして、傍らで声も出せずにいる少女に向かって、あえて笑顔で問うのだ。「どうした? 怖いのかい?」返事をしようとした子供は、何度も首を横に振り、突如にたっと気味の悪い笑みを浮かべて態度を豹変させ、「馬鹿めが」と吐き捨てながら、顔をべりべりと剥がし、明らかにその少女の顔より大きな、ライバル(八村悪之助)の顔を晒す。「オレ様の変装に気付かないとは、まだまだ甘いな」とライバルは言うのだが、まさかこんなごつい奴が子供に変装しているとは、ケドイドイ人でも予想だに出来まい。幼い岩田はこの変身シーンを何度も夢に見てその度に魘された。この作品は岩瀬の好演もあって高視聴率を記録していたが、何故かこの回だけは視聴率ががた落ちになっていた(再放送でも、この回はやらないことのほうが多い)。

 岩田は一瞬の内にその事件を思い出して、「まさかルースが突如にたっと気味悪く笑って、べりべりと顔を剥がしてマシュゾットの顔になるのではないか」と警戒を表したが、

「そろそろお昼ご飯を食べませんか。腹が減ってはザイシロクートンは食えぬ、と言いますし」

 と本人は諺を交えてあっさりと答えを返してきたため、仰々しい回想は全て岩田の杞憂に終わった。

 岩田は少しの間ぽかんとしたが、すぐに背中のガトルザックを下ろし、麓で支給された安い弁当を取り出した。素早いルースは岩田の自失の間に準備を整え、弁当を前にして椅子に腰掛けている。

 岩田は、その正面に座った。

「いただきモルスラ」

 律儀に合掌してからそう言って、ルースは割り箸を割った。

 岩田は妙な気分になった。外ではマシュゾットの群れに襲われて、同級の生徒が逃げ惑っているのである。親友の鳩々山は果たして大丈夫だろうか。下手に腕がたつ分、全力で無茶をして危険に飛び込み、大怪我したりはしていないだろうか。……岩田も冷静に立ち向かえば、マシュゾットの一頭や二頭、捌くことが出来るはずだ。なのに早々に逃げをうち、今はルースと二人、ままごとでもするように、呑気にテーブルを囲んでいる。

 こんなことをしていて、いいのだろうか?

「岩田様は、召し上がらないんですか?」

 岩田は、はっと我に返った。カトバーレルの照り焼き(これはルースの大好物だ)を食べ終わったルースが、自分を不思議そうに眺めている。

「いや、食べるけど」

 岩田はもごもごと呟き、それから先を続けられずに窓の外を見た。

 いつの間にか、あの悲鳴のような音は聞こえなくなっている。

 ルースは、タコの形に切られたメラシトルーレを口に運び、しっかり三〇回数えるように噛んでから飲み込んだ。そして、塩味が強過ぎますわ、と言うのだと岩田が勝手に思いこんだようなタイミングで、口を開いた。

「外が気になりますか?」

 岩田は頬を張られたような衝撃を受け、ルースの目を見つめた。それまで一度も見たことのないような、鋭い視線とぶつかった。

 最初は怒っているのかと思ったが、やがてそれが普通のルースの顔なのだと、岩田はこの時初めて気がついた(その驚きたるや、ヴィゴネンスタインが初めてバンタ現象を目撃した瞬間に勝るとも劣らないだろう)。いつもにこにこと微笑を仮面のように纏っている彼女が、それを剥ぎ取って真摯な顔を向けているだけだった。

 岩田は、射竦められたように何も言えなくなった。

「岩田様が、私をここに連れて来たのですよ。私達は戦場を放棄して逃げて来たのです。今更外を気にしても何も始まりませんわ」

 岩田は戦慄した。思えばルースと意見を衝突させたことなど無かった。自分に盾突く従姉妹の姿は、恐怖の権化だった。

 彼女の言うのは正論だったが、人間味に欠ける冷たい意見だと思った。いや、確かに、マシュゾットに飲み込まれたとしても命に別状はないわけで、外を気にしなくても良いと言えば良いのだ。しかしルースの言い方ではまるで、自分達だけが助かればそれで良いと言っているようなもので――

「違います」

 あたかも、岩田の心を読んだかのような発言だった。タイミングも内容も完全に合致していた。

 ネジェン人と会話する時は骨が折れる、と岩田の父が言っていたが、岩田にはその一端がわかったような気がした(もちろん一端だ。ネジェン人は常に相手の心を見ているから、このような些細な驚きなど、ネジェン人との会話中で何百回となく体験することになるはずだった)。

 やっぱりルースは怒っているのだ。怒りを表すために笑顔から真顔になったのであり、ルースの表情はきっと一つずつずれているのだ。岩田はそう推察した。ならば、……ルースの怒り顔など想像もしたくない。ルースは淡々と続けた。

「責任の問題ですわ。あなたは私をここへ連れて来ました。私の意向を一つも聞かずに。用意された無数の選択肢から強硬に一つを選んでおいて、そこから導かれる当然の帰結に後から気を回すなんて、おかしいと思います。それは、過去のあなたという歴とした人間存在に対する紛れの無い冒涜ですわ!」

 何が言いたいのか、わかるようでわからなかった。岩田にしてみれば、国民総会の代表者答弁を聞いているのも同じだった。

 後から思えば、この時既にヨイギストゥスの資格を持っていた彼女は、キシファネを使ってマシュゾットを撃退しようとしていたのかもしれない(それならば、ルースがマシュゾットを脅威と見なしておらず、昼食の弁当の心配をしていたことの説明がつく。キシファネを使うべく飛んだり跳ねたりしていれば、自然、ザックの弁当は破局的な有り様になることだろう)。しかし、抗う時間も与えずに岩田がルースの手を引いて逃げ出したため、その計画は早々に破綻した。マシュゾット一掃の機会を、みすみす捨てさせられたのである。その末に心配そうに外を気にする岩田の身勝手に対し、ルースが苛立ちを感じたのも無理はない。

 しかし、そんなことまで思い至るはずのない当時の岩田は、何を言い返すことも出来ず、とにかく恐縮して「ごめん」と小さく呟いた。何に対して謝っているのか、それすらよくわからなかった。

 もしかすると次の瞬間ルースが魔獣の形相に変わって激怒するのではないか、という理不尽な恐怖に震えた。

 けれど、それを見ていたルースは「少し言葉が過ぎました」と口元に手を当てて上品に笑い、そのままいつもの笑顔に戻ってしまった。緩やかな口調で流れるように続ける。

「あなたが謝ることはありませんわ。だって私、岩田様がここに連れて来て下さったことは、とても嬉しいですから」

 少し矛盾を感じないでもなかったが、何故かころりと戻ったらしいルースの機嫌を、敢えて損ねるのは本意でなかったので、岩田は沈黙を通すことにした。

 そして箸を割り、弁当箱の蓋を取ると、タコの形のメラシトルーレを口に入れた。塩味がやっぱり強かった。おそらく、大量生産のためにカテを加えるのを省いているのだろう。自分でももっと美味く作れる。そう、岩田は思った。

 二人は、しばらく黙々と食べ続けた。噛んでも噛んでも膨らんで来るポッツァーは、水筒に入ったノルクワイェで流し込むように飲み下した。

 食事が終わっても、妙な沈黙は続いた。ルースは、岩田をにこにこと眺めたまま動かないし、岩田は窓の外に意識が向かいかけていたが、それをルースに悟られるとまた何か言われそうだったので、じっと下を向いていた。

 あたかも、警察モドキが犯人類の取調べをしているシーンのようだった(「牛丼、取ってやるからとっとと喋っちまいな」「刑事さん、カネロウキュー丼はないんですか?」「……あれば、白状するのか?」「……ええ」という会話は実際にはあまりないらしい)。

 ルースが口を開いた。本当に唐突だった。

「わからない、知らないということこそ、人間の唯一にして無二の平等条件なのだと私は思います」

 何かの聞き間違いかもしれない。一瞬そう思ったくらいに、脈絡が無かった。

 岩田がよく顔を出していたカシトトリング教会では、「人間は生きているハセリティオーユ(火力で動く何かの機械らしいが、岩田はその実体を知らない)のようなもので、その点においては全く平等なのである」としていた。突き詰めれば、これも似たような意味の文言になったはずだ。

 だがしかし、何故ルースが突然こんなことを言い出したのか、見当もつかなかった。

「人間は生きていくだけで知識を得るので、大人は子供と比べてより多くを知っています。けれども、なんぴとも、この世の全てを知ることまでは出来ませんわ。私が思うに、その、知ることの出来ない部分、わからない部分においてのみ、全ての人間が平等でいられる可能性が残されているのではないでしょうか」

 言いたいことは、何となくわかる。

 例えば、『ヨーミルが歩く』という言葉がある。これは、『いたたまれない気持ちになる』という意味の雅語であるが、何も知らなければ、そんな意味を推測することなど出来そうにない。意味のわかる人とわからない人の間には、どうしても越えることの出来ない壁がある。

 そしてサシェットの最終理論によって、どんな知識も万人に知られていることはない(平たく言えば、どんな常識的なことでも、知らない奴が一人はいる)ということは実証されているから、この世のあらゆる知的認識に関して、『知っている者』と『知らない者』という決定的に異なる二層が存在するということになる。

 この二者は対等でなく、突き詰めれば平等でありえない。

 『知らない者のない知識』が無いのならば、平等は必然的に、『知っている者のない知識』に関してのみ成り立っているということである。『真理』や『神』や『マルファフサ』や『ゴフ』が誰にも手の届かない場所にあるのが、その一番の証拠だと岩田は考えていた。

「で、それが、どうかしたのかい?」

 肝心な部分を岩田は尋ねた。ルースは一拍の間も置かずに首を横に振った。

「いえ、どうもしませんわ。ただ、こんなことを考えていたのです。もしも大昔の人達が、この現代にやって来たら、きっと周りは殆どわからないこと、わからないものばかりということになるのでしょう? ということは、そんな『未知』や『不可知』に身を委ねるのですから、全ての人間が平等で素晴らしい生活を享受出来るのではないでしょうか」

 岩田は短く、「たぶん無理だと思うよ」と即答した。

「どうしてですか?」

「『せんそう』って知ってるかい? 戦闘じゃなくて、戦争。今、発声禁止用語になってるから、一般では聞かないと思うけど」

「……卑猥な言葉ですの?」

 僅かに頬を染めるルースに、岩田は苦笑。

「違う違う。俺もじいさんから聞いただけだから詳しくは知らないけど、武力で他の国と戦う、とかそんな意味らしいよ」

「まあ、他の国とですか?」

「ああ。考えられないだろう? 外の国と全く交流を持たずに平和を保っている今、好き好んで他と戦おうなんて、そんな野蛮なこと誰一人考えない。ところが昔……いや、大昔は違ったらしいんだ」

 ルースは、ともすれば見逃してしまいそうなほど小さく、だが確かに顔をしかめた。

「どうして戦ったんでしょうか?」

「さあね。たぶん、国境壁の向こうからボールが飛び込んで来たとか、他の国のリパレルが自分の国よりもよく見えたとか、……そういった下らないことが原因だったと思うよ」

 岩田の冗句半分の言葉に、ルースは心底呆れたようだった。

「まるでハシュレーグレイのようですわ」

「まさにそうかもしれないね。いや、もしかしたらそんな細菌以下かもしれない。大昔の奴らは、他の国との戦いを何度も何度も行ったらしいから。ある国に勝ったらまた別の国、といった具合にね」

「まあ……。学習という概念が無かったのでしょうか?」

「かもしれない。そんな奴らがこの時代に来たら、平等な生活なんて考えないと思う。自分より良い物を持っているように見える現代の人間に戦いを挑んだりするんだろうさ」

「でも、自分より良い物を持っているかどうかもわからないのだとしたら、そんな風にも考えないのではありませんか?」

「いや、肝心なことを忘れているよ。古代人は、わからないこと、わからないものに囲まれていたら、それが一体何なのか詳しく知りたがるに違いないんだ。何しろ、国境壁の向こう側の様子をわざわざ覗いて、その上で戦ってやろうっていう連中なんだからね。時代の壁だって越えて、『未知』や『不可知』を自分のものにしようとするに決まってるさ。無知を前提とした平等な生活なんてものは、たぶん望まないよ」

 岩田の示唆に富んだ言葉で、ルースは黙りこくってしまった。

 これは後で聞いたことだが、デジルトンの個人課題で彼女に課された問題が、「古代の人類が何も知らぬまま現代に現れたとして、彼らは皆平等に暮らせるか否か、報告用紙一〇枚で論じなさい(古代人は平等という概念自体は理解しているものとし、禁忌哲学には触れないものとする)」だったそうで、岩田は、まんまと一つの有意義な見解を提示してしまったのだ。ルースはこの沈黙の間に、ユクラプト領域の中に増設されている脳内メモリの五パーセントを消費して、岩田の意見を完全に記憶していたという。

 それからしばらく、どうでもいい会話をした後(この頃になると、岩田もすっかり外のことなど気にしなくなっていた)、ルースがさりげなく、「私、以前から岩田様のことを――」という気になる滑り出しで話し始めたのを、岩田が聞き咎めた瞬間だった。

 バン、と大きな音をたてて扉が開いた。

 鍵もレキアルトも無視してそれを開けたのは、マシュゾットでも怪盗ドタルコフ一一世(金丸警部に捕まるたびに「あばよー。おっさーん」と言いながら神速で手錠を外すシーンはあまりにも有名だ)でもなかった。

 親友の、鳩々山だった。

 彼は、岩田のよく知るいつもの不敵な表情で、

「マシュゾットはいなくなったぞ」

 と、当然のように言って背を向けた。それはあたかも、何しろこのオレが全部始末したからな、と主張しているかのようであり、この時の岩田は知らなかったがどうやらその通りだったらしい。

 鳩々山はそれ以上何も言わず、小屋の中の二人が動き出したかどうかの確認すらせず、颯爽と傾斜を下り始めた。

 ルースも自分のガトルザックをてきぱきと背負うと、「今日はとても楽しかったですわ」と岩田に一礼し、小屋の外に出た。

 岩田が彼女の後を追って小屋から一歩踏み出すと、山小屋は虚空に溶けるように掻き消えてしまった。音もなく、ただ忽然と。

「……え?」

 岩田が、確かに小屋のあったはずの荒地を呆然と眺めていると、

「あら、もしかして気付かずに出したんですの?」

 ルースがゆったりと声をかけてきた。

「あれは、岩田様が出したハティオークですわ」

 岩田は自分のことながら衝撃を受け、そして納得もした。どうしてこのような都合の良い所に小屋が立っていたのか、ようやくその謎が解けたからだ。

「そうか……、ハティオークだったのか……」

 岩田は、ハティオークの訓練は受けていなかったが、絶対に才能はあるはずだと祖父に聞かされていたことを思い出した。

 ハティオークとは、ジェシー・ハルオキルが考案した禁術で、『自分に必要な物を間に合わせで代替すること』を昇華させた技だ。成功すれば無から有を創り出すことが出来る(多くの場合、ハティオークとは禁術自体の名称よりも、こうして創り出された物体自体を指す)。術式によって創出された物は、原則的に創出した本人にしか使用することが出来ないが、術者が心を許している者には無条件で共有させることが出来る。

 そうか、と岩田は思った。だからあの時ルースは――


『私、岩田様がここに連れて来て下さったことは、とても嬉しいですから』


 ――などと言ったのか。

 岩田は自分の心を見透かされたようで、急に恥ずかしい気持ちになった。羞恥心を必死で紛らすために、

「道理で鳩々山が、あの小屋の扉を一発で開けることが出来たわけだ。ほら、あいつはローティスト(禁術の効果を打ち消したり、封じたりする能力者)だし」

 と、少し大きな声で言った。

「それもありますし、岩田様が鳩々山様を信頼されているということもあるのでしょう」

 ルースはさらりと答え、「行きましょう。皆さんが待っているかもしれませんわ」と、滑るように山を下り始めた。

 岩田は、山登りでも変わらぬ振袖姿の彼女を、しばらく後ろから眺めていた。様式美の極致である振袖に、機能美優先のダリ軍仕様のごついザックは決して似合わなかったけれども、岩田にはその後ろ姿がとても魅力的なものに見えた。


「そうですか、憶えていましたの」

 現実のルースが感慨深げに言った。

 随分と長く回想に耽っていた気がするが、どうやら一秒と経っていないようだ(まるでスポーツドラマみたいだ、と岩田は思った)。

「私としては、忘れていて欲しかったのですけれども……」

「え? どうしてだい?」

 岩田が何気なく訊いたその質問に、珍しく――本当に珍しく、ルースは躊躇った表情を見せ、「色々と、私にも事情があるからですわ。岩田様にはわかりませんわ」と、いつもより早口で言った。

 ……正直、岩田にはルースのことが大概にしてよくわからないが、実際に本人から指摘されたのは初めてだった。少し、淋しいような気もする。

「まあ、言いたくないなら言わないでいいけどさ」

 岩田は不貞腐れるように呟いた後、「そういえばもうすぐ成人式だけど、レイネギ・アフトの儀式には出る?」と話題を変えた。

 何となく、そうした方が良い気がした。

「ええ。一生に一度しかない可能性が高いですし、一応出ておこうと思います」

 ロトジェナイ病に万が一かかってしまうと、細胞の若返りが始まり、以降は減齢していくので、成人式を二度迎えられる人が五千人に一人はいる。不治の病だが、お年寄りの中に是が非でも罹りたいと思う人が多いのは、このためである(尤も、遺伝病であるためその願いは殆ど叶わないが)。

「レイネギ・アフトの儀式でクロファの水を飲むらしいけど、あれは本当かな?」

「ええ。お母様も飲んだらしいですわ。意外と甘いそうです」

 やはり飲むのか。それを確認した上で、岩田は大きく息を吸った。

 勇気を振り絞り、「だったら――」と一番肝心なことを口に出そうとした、その瞬間だった。

 バーン、と死ぬほど大きな音をたてて扉が開いた。

 扉を開けたのは、リヴァ天皇でも、『扉開けなら国家一』でお馴染みのカリ松ユキヒコ(「このノブは……こう捻る」の決めゼリフは、一五年前から変わらない)でもなかった。

 超長剣の刃を肩に担いだ体勢の、鳩々山だった。

「リヴァ天皇はいなくなったぞ」

 彼は、当然のように言い放って、いつものように不敵に笑った。それはあたかも、何しろこのオレが全部始末したからな、と主張しているかのようであり、超長剣に付着している真っ青な血の跡から考えて、間違いなく事実だろうと思われた。

「どうしてお前がここにいるんだよ」

 岩田は、発言を邪魔された怒りをそのまま親友にぶつけた。勿論、そんなことで動じる鳩々山ではない。

「いや、何。ヨテリーリリーを見に来たら、神社でリヴァ天皇が派手に暴れているという究極の不運に見舞われた次第だ」

「どうして俺達がキリニャーグ室にいるって知ってたんだよ?」

「何のことだ? 全く心当たりが無いが」

「お前、リヴァ天皇はいなくなったぞ、なんて誇らしげに第一声から報告してたじゃないか。扉を開けて偶然知り合いがいたのなら、まずは驚くのが先決ってものだろう。この小屋は別に俺のハティオークじゃ無いんだぜ」

「…………」

 ハティオークの例を急に引っ張って来ても鳩々山には何のことだかわからなかっただろう。彼は訝るように黙りこんでしまった。実際は痛いところを突かれて口を閉ざしただけだと岩田は踏んだが。

 この男のことだ。どうせ、自分かルース、そのどちらかの行動を詳しく見張っていたに違いない。わけもなくそういうことをする奴なのだ。滑空ゼルガの曲乗り体験にルースと二人で出掛けた際も、ゼルガの飛膜の裏側から偶然を装って鳩々山が登場したし……。鳩々山の奇行に長年苦しめられて来た岩田は、心の中で呪言を吐いて気持ちを静めた。

「まあ、いいさ。俺達はこれからじいさんの所に行くんだが、お前も一緒にどうだ?」

 鳩々山の祖父は、岩田やルースの祖母の兄なのだそうで(実兄という役割だった、と彼は笑うばかりで、岩田は彼らが本当の所どんな関係なのかよく知らない)、そういう関係上、鳩々山も小さい頃から岩田の祖父母の元に遊びに来ていた。なので、岩田が鳩々山を誘うこと自体はおかしなことではない。

 鳩々山は、「遠慮しておく。正月になるとユルトルバルザッティ8が出るのだろう?」と言ってあっさり断った。当然である。彼の戦闘能力をもってしても、ユルトルバルザッティ系の奴らは扱いづらい。出来ることなら戦いたくないのだ。

 本来の岩田ならばここで、「いや、ユルトルバルザッティ8はもう出てこないらしいし、出て来てもルースがヨイギストゥスの資格を持っているから大丈夫だ」と伝えていたところだが、今日は一味違っていた。……少しの沈黙の後、「そうだな」と、敢えて嘘をついたのだ。ここから先、鳩々山が付いて来ないように強く釘を刺して置きたかったからだ。

 それは無論、祖父から貰えるギジンダンを独り占めしたい、などという野暮な理由からではない。

 キリニャーグ室から出たところで鳩々山は、

「ゲリガルバイケル酸が地面に零れてるから、気をつけて行け」

 とルースに注意を促し、岩田の右腕を後ろから小さく小突いた。「うん?」と振り向いた岩田に、ホワル人を覚醒させるような鋭い視線を浴びせ、こっそりと耳打ちする。一音ずつ明瞭に。

「抜け駆けは、許さないぜ」

 ……抜け駆け?

 一瞬だけ思考が止まった岩田は、その意味するところに気付いて目を丸くした。そういうことかよ……。思わず小さく舌を打った。今の今まで気がつかなかったなんて、実に迂闊な話だった。

 タイミング良くルースと岩田の話に乱入して来たり、特に意味も無く二人の後を尾けたり、岩田宅にバルバルモールを仕掛けたり、その他諸々の奇行……。よく考えれば謎でも何でもなかった数々の疑問点が、一気に氷解した。心の底に引っ掛かっていたビトーランジェフのような巨大な棘が、するりと抜けたような気がした。……傷口がどことなく苦いのもビトーランジェフの場合と共通していた。

 鳩々山は岩田への布告を終えると、にやりと頬を吊り上げ、

「またな、ルース」

 と、いつもの調子で挨拶をして、風のように走り去って行く。

「相変わらず、あんなに長い剣を持っていらっしゃるのに、動きが速いですわね。足が絡まったりしないんでしょうか」

 ルースがのんびりと感嘆した。何も知らない彼女だけは、おそらく本当にいつも通りなんだろう。岩田は、鳩々山によって掻き乱された心をどうにか落ち着けながら、そんなことを考えた。

「これからリヴァ天皇の死体をバ屋で売る気だろうからな。一刻を争うんだろう。金が絡むと俄然やる気を出すからな、あいつは」

「そうですわね」

 くすくすと笑いながら、しかしルースはふと何かを思い出したように、「そういえば、先ほど何か言いかけておりましたけど、一体何でしたの?」と、あくまでマイペースに尋ねた。

 …………。

 岩田の心はコジャタ嵐のように荒れ狂う。それが表情に表れないよう留意しつつ、岩田は落ち着くために間を置いた。

 あの時言おうとしたこと、それは、


『だったら、クロファの水を一緒に飲まないかい』


 これは全くの余談だが、誓いを意味するクロファの水を一緒に飲もうと男が女を誘う行為は、実際にそれをしようがするまいが、愛の告白を暗示している(地方によっては横隔膜の痙攣を止めるためのまじないらしいが)。その意味するところを大抵の女性は知らないため、折を見てネタをばらし、相手を驚かせるという趣向である。恋愛テクニックで給与が決まるジャゲン党の広報によると、恋仲になったずっと後に、「俺はこんなに昔からお前のことが好きだったんだぜ」という意味で用いるのがセオリーらしい。

 だが、今更それをルースに告げるのは躊躇われた。タイミングを逸したというのもあるが、何より親友との仁義に悖るではないか。

「……何でもないさ。ルースにはわからないことだ」

 岩田はそう言って、先程の意趣返しをするのが関の山だった。

「もういいですわ」

 ルースは怒った口調で言った。顔が笑っているので、本意ではないはずだ。岩田はそれを見て軽く笑いながら、先行して歩き出す。

 今はまだこれでいい。そう、自分に言い聞かせた。


 その背を見送りながら、ルースはこっそりと溜息を吐いた(そう言えば今はチェアルキッツェ期だ。女で良かった)。笑顔の内側で、小さな羞恥が今も燻っている。

 これは全くの余談だが、ハティオークを創出してくれた男に対し、平等に関することを女が問うのは、実際にその答えを得られようが得られまいが、愛の告白を暗示している(地方によっては股関節の脱臼を治すためのまじないらしいが)。その意味するところを大抵の男性は知らないため、折を見てネタをばらし、相手を驚かせるという趣向である。恋愛テクニックで位階が決まるジャゲン教の教典によると、恋仲になったずっと後に、「私はこんなに昔からあなたのことが好きだったんだぜよ(原文ママ)」という意味で用いるのがセオリーらしい。

 何が皮肉かと言えば、岩田と一緒にハティオークの山小屋に閉じ込められた時点で、ルースはその話を知らなかったのだ。知らぬ間に想い人に想いを告げていたなんて、これ以上恥ずかしいことは無い。忘れていて欲しかった、というのも強ち偽りではなかった。勿論、二人だけの思い出を共有していると思えば、それはそれだけで嬉しいのだけれど。

 もしもいつか岩田に自分の気持ちを伝えられたなら、

「私の気持ちは、あの時からずっと変わりませんわ」

 と胸を張って言い添えてやろうと、彼女はそんな風に考えている。

「おーい、置いてくぞ」

 すっかり先行してまった岩田が振り返り、ルースに声をかける。きっと、ゲリガルバイケル酸が零れていないことを確認するため、敢えて先行しているのだろう。ルースは岩田の行動に対し、勝手に好意的な解釈を加えて微笑んだ(ただし彼女は、岩田のさりげない優しさが全て無意識的なもので、自分の考え過ぎなのでないかとも常々疑っている)。

「今、参りますわ」

 いつものように返事をし、いつものように歩き出す。

 ルースは、岩田の隣には並ばず、その少し後ろを歩く。

 出来ることなら、こうやってずっと岩田に付いて行きたかった。


 遠ざかって行く二人を、ヨテリーリリーが静かに静かに見守っている。幻想的に青く輝くその様は、あたかも二人の出立を祝福しているかのようであった。

 ただし、これは全くの余談であるが、ヴィゴネンスタイン以外の人間が屈折ダッファーに話し掛けるという行為は、実際にそれを聞いていようがいまいが、波乱の幕開けを暗示している(地方によっては古代神の降臨を促すためのまじないらしいが)。

岩田、ルース、鳩々山は、誰一人それに自覚的でなかったが、物語の引き鉄は、いつだって無自覚に引かれるものなのかもしれない。


 ちなみに、岩田とルースはキリニャーグ室の扉を閉め損ねたのをソトルザンに目撃されており、二週間に渡って天空王の巣でダイヤモンドを採掘するという罰を与えられてしまうため、結局レイネギ・アフトの儀式には出られなくなる。この時手に入れるダイヤモンドが後の二人の運命を大きく左右することになるのだが、残念ながらそれはまた別の話である。

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