第44話、願いを

 一週間近く続いたテスト期間も終わりを迎え、テストの返却も既に終わった頃。


 俺と純白は今回の中間テストの順位表を手に、父の帰りを待ちながらリビングのソファーに座っていた。


 俺達は今まで共に歩んできた全てをこのテストにぶつけた。俺達の努力が、想いの強さが、テストの順位として示される。


 数字として表れる以上、それは紛れもない事実だ。そしてその結果を見て、父さんがどんな判断を下すかはまだ分からない。


 だが、俺と純白の表情は暗いものではなかった。むしろどこか清々しく、すっきりした表情で、互いに肩を寄せ合いながら微笑んでいた。


「そろそろ父さんが帰ってくる時間だな」

「はい、今日は残業しないで急いで帰ってくるって言ってたのでそろそろだと思います」


「純白は不安か? 父さんが俺達に何を言うのか、この結果を見てどうするつもりなのか」

「いえ、不安なんてありません。わたしと兄さんは全力を尽くしました、二人で手を合わせて、支え合って、一生懸命頑張りました。だからわたしは信じています」


「そうか。俺も同じ気持ちだよ。俺と純白はやりきった、最善を尽くした。だから信じる、これまでやってきた事に後悔はない」


 互いの手を重ね合い、ぎゅっと握りしめながら、静かにその時を待つ。


 すると玄関の方から鍵を開ける音が聞こえてきた。俺と純白は見つめ合った後、父さんの帰宅を出迎える為に立ち上がる。

 

 それからリビングの扉が開かれて、スーツ姿の父さんが姿を現す。普段通りの様子で帰ってきた父さんは、真っ直ぐと俺達の元に向かってくる。


「ただいま。帰ったぞ、蒼太、純白」

「おかえり、父さん」

「お父さん、おかえりなさい」

 

 俺と純白は父さんの顔を見ながら、いつも通りに挨拶を交わす。


 そして俺達は今回のテストの結果を、学年の順位表を父さんに手渡した。


「父さん、それが俺と純白で力を合わせた結果だ。見て欲しい」

「お父さん、これがわたしと兄さんの努力した結果です。どうかお願いします」


 純白と一緒に頭を下げた直後だった。


「……二人とも、顔を上げてくれ」


 父さんの優しい声音を聞いて、俺達はゆっくりと顔を上げる。そこにはいつも通りの優しそうな笑みを浮かべている父さんがいた。


「頑張ったな、本当に頑張ったな。おれに認められる為に、お前達は一緒にいる事が何よりの幸せだって証明する為に、支え合ってここまで来たんだな……」


その言葉はまるで我が子の成長を見守る親のような温かいものだった。


「蒼太、純白、よくやった。二人がここまで出来るとは思っていなかったよ。正直、驚いた。誇らしく思う、二人の努力が実を結んだ。これは揺るがない事実だ」


 父さんの持つ順位表。それに書かれた俺達の取った点数と順位、それを見た瞬間に父さんは目尻に涙を溜めながら笑みを見せた。


 全教科、満点――。


 総合成績一位者の欄には、俺と純白の名前が隣り合って並んでいる。


 そう、俺と純白は二人とも満点だった。一つの問題も欠かす事なく正答を導き出し、二人で同時に一位を取ったのだ。


 俺と純白が二人で力を合わせたから、互いを想い合って支え合って、手を繋いでいたからこそ掴めた最高の結果。二人が一緒ならどんな高い壁でも乗り越えられると、何があっても大丈夫だと、それを俺達は証明する事が出来たのだ。

 

 あとは父さんの答えを待つだけ。

 その結果次第で、俺と純白のこれからが大きく変わっていく。固唾を呑んで見守った、父さんの言葉を、俺達に一体どんな結末が待っているのかを。


 そしてゆっくりと父さんは言葉を紡いでいく。


「正直に言うとな、父さんはこうなる事が分かってた。小さい頃からそうだったからな。特に蒼太は一度決めた事は絶対に曲げない、何としてでもやり遂げる意思の強さを持っている」


 確かに俺は昔から自分の意見を絶対に曲げなかった。


 一度目の人生。純白と離れると決めたあの時、どれだけ辛くても寂しくても、俺は自分の決めた事を曲げなかった。


 そして二度目の人生でもそうだ。今度は純白とずっと一緒にいると決めて、純白との幸せを信じて願って突き進んできた。


「だからな。おれが蒼太に純白と離れて暮らせと話をした時、絶対にお前はそれを認めようとはしないって分かってた。何が何でも純白と一緒にいると決めた以上、お前はその意志を曲げずに立ち向かってくるってな」


「そうだな、父さん。絶対に認めたくなかったよ。俺と純白が一緒にいれば不幸になるなんて、そんな事無いって信じていたから」


 父さんは俺を見つめながら、ふっと微笑む。

 その瞳にはどこか嬉しさや喜びが宿っていたように思えた。


「認めたくない、信じている。口で言うだけなら簡単だ。でもお前達は行動で示した、二人が一緒なら幸せになれる事を、どんな困難でも乗り越えられる事を証明した。この結果が、この努力が、お前達の気持ちが嘘じゃない証拠だよ」


 父さんは俺と純白の肩に手を当てる。

 俺と純白の目をしっかりと見据えて、真剣な声色で言葉を続けた。俺達の運命が決まる瞬間、だから決して聞き逃さないよう耳を傾けた。


「蒼太、純白。これから先もきっと色んな困難がお前達を待っている。父親であるおれ以上に大きな壁が何度も立ちふさがってくるはずだ。だけどな、また何度でも乗り越えてくれ。おれは応援している。周りがなんと言おうと二人の味方であり続ける。だから……二人はずっと一緒にいろ、幸せになれ!」


 父さんの言葉は力強く、そして優しく、その温もりは本当に心強かった。


 そして俺と純白は父さんから認められた喜びを分かち合う。俺と純白は互いの顔を見ながら笑い合い、涙を堪える事が出来なかった。


 今だけは素直に喜ぼうと思う。

 俺達はこれからもずっと一緒に居られるんだって、それがやっと叶ったんだから。

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