第28話、朝のランニング

 日曜の朝――目を覚ました俺はカーテンを開くと同時に大きく体を伸ばした。


 先週は純白とのお買い物。

 昨日はカラオケでおおはしゃぎ。


 新しく始まった高校生活に、春休みから続けているトレーニング。


 タイムリープして二度目の青春をスタートさせた俺は忙しない毎日を送っている。

 

 たまにはのんびりとした休日を過ごすのも良いだろうと、今日は朝のトレーニングを終えたら家でだらだらとするつもりだった。


 パジャマ姿のまま部屋を出た俺は顔を洗おうと洗面所へ向かう。


 扉を開けたそこにはすでに先客がいて、洗面台の鏡の前でしゃこしゃこと歯磨きをしていた。


「おひいひゃん、おふぁひょーほひゃひまふ」

「おはよう、純白。でも何言ってるか分からないぞ」


 歯ブラシを咥えながら朝の挨拶をする純白に苦笑する。それから純白は口をゆすいだ後、含んでいた水を吹き出して俺に再び挨拶をした。


「……ぷはっ。兄さん、おはようございますっ」


 口の中にあった白い泡が垂れていた。口の端にも残っているしなんとも間抜け顔である。そんな妹の姿が愛らしくて自然と頬が緩んでしまうのはいつものことだ。


 俺はタオルを手に取ると、純白の口元に残った白い泡を拭き取った。


「ほら、じっとして。慌ててペってするからだぞ。よし、取れた」

「ふわぁ……朝から兄さんに優しくしてもらえて嬉しいっ……」


「全くもう。歯磨きしてるってことはもう朝ごはん食べたのか?」

「はいっ。ヨーグルトとリンゴを食べました、美味しかったです」


「そっか。今日は随分と早起きだな。土日は割と遅くまで寝てる事が多いのに」

「それはですね。いつも兄さんって休日は朝からランニングに行っているじゃないですか。今日はわたしも一緒に行きたくて」


「あー。そういう事だったのか、だからいつもより早く起きてたんだな」

「はいっ。実はスポーツウェアとランニングシューズも買ってあって。兄さんと一緒にランニングしたいなーってずっと思ってたんです」


 純白は青い瞳をきらきらと輝かせて、俺とのランニングを楽しみにしている様子。


 確かにそれはナイスな提案だ。大好きな純白と一緒にランニングを楽しめるなんて最高の休日の過ごし方じゃないか。


「それじゃあ俺も支度を済ませたら声かけるよ。純白は部屋で待っててくれ」

「わかりましたっ! わたしも着替えたり支度をしておきますね」


 俺と一緒にランニングが出来る事を純白は喜んでいるようだ。


 脱衣所から出た純白を見届けた後、俺は急いで顔を洗い、髪を整え、ジャージに袖を通した。


 今日は天気も良いし景色も綺麗な川沿いのランニングコースを走ろうかな。それともちょっと遠回りして大きな公園を走ってみるか。走るコースを考えるだけでも楽しいのは、やっぱり純白と二人でランニング出来るのを俺も喜んでいるからなのだ。


 そして支度を整えた俺は純白のもとに向かう。


 部屋の前でノックをすると中から元気の良い返事が聞こえてきた。


『あっ、兄さん。わたしの方も準備完了です、入ってくださいっ!』

「はいよー」


 ドアノブに手をかけ、ゆっくりと開ける。

 その瞬間――目の前に広がっていた光景に思わず息を飲む。


 俺の部屋とは違った内装に整理整頓された室内。白とピンクを基調とした家具や小物類。女の子らしい甘い匂いが漂う空間に純白が立っていた。


「兄さん、どうですか? 動きやすいって評判のスポーツウェアらしくて、店員さんのイチオシだったので買ってみたのですがっ」


 フードの付いたパーカータイプのジャージトップスに、黒のショートパンツを履いている純白はくるりと一回転してみせる。長く伸びた銀色の髪を後ろで結んだポニーテールがふわりと浮かんだ。


 黒のショートパンツから伸びる白くて柔らかそうな太股は実に眩しくて、すらりと長い足がとても魅力的だ。


 上に着ているスポーツウェアも細身のデザインになっていて、純白の華奢ながらも女性らしさを感じさせる体の曲線が浮き彫りになっている。たゆんたゆんの胸が窮屈そうに生地を押し上げてそれがまた艶っぽい。


 これは……破壊力が高すぎる。


 普段の制服姿も可愛くて好きだし、清楚で可憐な私服姿も大好きだ。そしてこのスポーティーな格好の純白もまた良い、健康的な色気を感じる。


 こんな可愛い純白と一緒にランニングが出来るなんて、朝からこれ以上ないくらい幸せな休日になるだろう。


「あの……兄さん?」


 黙って純白に見惚れていた俺はハッとする。不安げに眉を下げた純白の顔を見て我に返った。


「ああ、いや、あんまり見慣れない格好だからついな。ばっちり似合ってるよ、確かに動きやすそうだしすごくいいと思う」

「えへへ、良かったぁ。これなら一緒にランニングしても大丈夫ですよね?」


「スポーツウェアの方は全然問題なしだな。ランニングシューズの方は大丈夫か? サイズが合わないとほら、足を痛めちゃうかもだから」

「靴の方もばっちりですよっ。ちゃんとお店で試し履きして買いましたから」


「よしよし、それなら安心だな。さっそくだけど、これからランニング行くか」

「はいっ! 兄さんと一緒にランニングするの楽しみですっ」


 純白は満面の笑みを浮かべると、ぴょんっと跳ねるように玄関に向かっていく。


 そんな純白を追いかける形で、俺達はランニングへと出かけるのであった。

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