第27話、カラオケ②

 俺の歌声が室内に響く。


 純白は俺を見上げながら瞳をきらきらと輝かせ、女子達は驚いた様子で目を見開き、男子達は唖然とした表情になっていた。

  

 そんな反応の中で俺は歌い続ける——それから3分ほど歌い続けた後、流れていた曲は終わりを迎えた。


 カラオケ画面に映し出される点数は98点。まだ喉が温まりきってない状態だったのに抜群の高得点、我ながら大したものだ。


 俺は息を吐きつつ、ソファーに座ってマイクを机に置く。それにしても、めちゃくちゃ気持ちよかったな。いつもは一人で歌ってばかりだったけど、こうして誰かに聞かせるのは初めてだから余計にそう感じてしまう。


 そんな時だった。

 パチ、パチと小さな拍手の音が耳に届く。

 そちらに目を向ければ、純白が両手を叩いて、大きな青い瞳を潤わせていた。そして感極まったように言葉を漏らす。


「ふわあ……かっこいい……。素敵すぎて耳が溶けちゃうかと思いました……」

「あ、ありがとう純白。そこまで褒められると照れるな……」


「えへへっ、ほんとに凄かったです。ずっと聞いていたいくらいでしたよ」

「お、おお……そう言われるともっと恥ずかしくなるんだけど……」


 正直、ここまでストレートに賞賛されるとは思っていなかったので動揺してしまう。でも純白に良いところを見せる事が出来たし、こうして喜んでくれている事が何よりも嬉しかった。


 するとさっきまで驚いて目を見開いていた女子達と唖然としていた男子達も拍手と共に俺の事を称賛し始める。


「本当にびっくりしたぜ……。蒼太って歌も上手いんだな。それにすごく楽しそうに歌ってて、聞いてるこっちも楽しくなったぞ」

「やべーな……イケメンってだけじゃなくて歌までめちゃくちゃに上手いのかよ……」

「蒼太くんって本当に芸能人みたい!! もうこれってプロレベルだよ!!」

「もっと歌って! あたし、蒼太くんの歌もっと聴きたい!!」


 みんなが満足そうな笑みを浮かべてくれて俺自身も満足している。みんなが望むなら一度目の人生で得た歌唱力をもっと披露してあげたい。


「ねえねえ蒼太くん。あたし蒼太くんの歌うラブソングが聴きたいわ!」


 その女子の提案に純白もコクコクッと首を縦に振っている。


「わたしも聴きたいですっ。ラブソング、歌ってくれませんか?」

「それならリクエストにお応えして……えっと、じゃあどれにしようかな」


 俺はタブレットでラブソングを検索する。


 選曲を終えた俺はマイクを持って立ち上がった。そしてスピーカーから聞こえてきたメロディに純白ははっとした表情を浮かべて顔を上げる。


「これって……」

「そ、純白が大好きな曲だよ」


 そう、これは純白が大好きなラブソング。キッチンに立っている時、純白はいつもこの曲を鼻歌にして口ずさむ。そんな曲が流れてきたのだから純白が反応するのは当然の事、そして次に妹がどうするかも長い間ずっと一緒にいた俺だから分かるのだ。


 純白は使っていなかったもう片方のマイクに手を伸ばす。そして立ち上がると流れる曲に合わせて俺と一緒に歌い始めた。


 天使のような純白の声が音色になって部屋に響き渡る。純白の歌声には透明感があり、心に染み込んでくるような優しさもあった。そんな純白の歌声をもっと引き立たせたくて俺も全力を込めて歌う。


 こうして始まった俺と純白のデュエット。

 純白は満面の笑みを浮かべてマイクを握る。星のように煌めく青い瞳で俺を見つめながらリズムに合わせて体を揺すっていた。


 あー歌っている純白もめちゃくちゃに可愛い。何より楽しそうで本当に幸せそうだ。こんなに楽しんでいる純白に水を差すことなんて出来るはずもない、他の男子も女子もその歌声に聞き入っていた。

 

 そして歌い終えた俺達は見つめ合う。


 きっと同じ気持ちだったと思う。一緒に歌えて楽しかった、そんな想いが瞳を通じて伝わってくる。


 それからもリクエストは止まらず、バラードにロック、アニソンとジャンルを問わず様々な曲を歌っていく。山ほどあるレパートリーの中から、純白が好みそうなものを選んで歌ってあげたりもした。時にはまた純白とデュエットして、その度に俺は楽しさを隠しきれずに頬を緩ませた。


 本当に心の底から楽しいと思える時間で、純白との距離をさらに縮める事が出来たのだった。



 カラオケが終わった後、その場で解散となった。


 俺と純白は夕焼けに染まった道を並んで歩いていく。隣で俺を見上げる純白の瞳はきらきらと輝いていて興奮冷めやらぬと言った感じだ。


 他の男子と女子が見えなくなったのを確認した後、純白はすぐに俺の手を取ってきた。指と指を絡ませながら恋人繋ぎをして、繋いだ手からは純白の温もりと柔らかさがじんわりと伝わっている。


「兄さんっ、兄さんっ♪」

「ん? どうした、純白」


「えへへっ。さっき歌っていた時の兄さんが、すっごくかっこよくてっ! そんなかっこいい兄さんの隣にこうやっていられるのが嬉しいんですっ」

「それで上機嫌なのか。本当に純白は可愛いな」


 頭を撫でると純白は気持ち良さそうに目を細めて猫みたいに甘え声を出す。この瞬間が一番幸せな時間かもしれないな。純白と手を繋いで歩いているだけで心が落ち着くし癒される。ずっとこのままでいたいと思えるくらいだ。


「ねね、兄さん。いつか二人きりでカラオケに行きませんか? わたし、もっともっと兄さんと一緒に歌いたいですっ」

「それいいな。二人きりならさ、純白にたくさん甘えてもらいながら歌えるし。今日はあんまり甘やかしてあげられなかったから」


「でも嬉しかったですよ? 兄さんとこっそりテーブルの下でぎゅっておててを握ったり、足を絡めたりしてましたし」

「バレないかドキドキしたけどな。純白ってばいつでもどこでも甘えん坊なんだから」


「だって兄さんの事が大好きで仕方ないんですもんっ。帰ったらまたいーっぱい甘やかしてくださいね?」

「もちろん、いっぱい可愛がるよ。なでなでもするし、膝枕もするし、ぎゅって抱きしめてもあげるな」


「わーいっ。それじゃあ早くお家に帰りましょう!」

「こらこら、急ぐと転ぶぞ? ゆっくり帰ろうな」

「はぁーいっ」


 元気な返事をした純白は俺の腕に抱きついてくる。

 

 互いの温もりを感じながら俺と純白は歩幅を合わせて帰路につく。


 今日が本当に楽しい一日だった事を噛み締めながら、これからもこんな日が続けばいいなと思いを馳せるのであった。

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