第24話、甘々なひととき

「ふわぁ……兄さんに色んな服を着てもらいましたけど、兄さんどの服装でもカッコよくて素敵でした……」

「純白のセンスが良かったからな。服の色合いとか組み合わせとか、どれも抜群で最高だった」


「わたしもかっこいい兄さんが見たくて張り切っちゃいました。とっても大満足です、写真まで撮らせてもらっちゃいましたっ」

「純白がどうしても、って言うからな。今日のお礼だよ、でもその写真を見ていいのは純白だけだからな。純白は特別なんだ」

「えへへ、わたしだけの兄さんの特別な写真……。これはもう一生の宝物です」


 純白はスマホを大事そうに抱きしめている。今日撮った写真を後々見返して楽しむのだろう。


 俺の写真でそんなに喜んでくれるなんてなんだかくすぐったいな。


 ペットショップを出た後、俺達はモール内にあった服飾店を転々として、純白から色んな服を選んでもらった。


 そうして無事に買い物の目的を終えた俺達はショッピングモールを出て、そこから離れた所にある公園で一休みしている。

 

 木陰の下のベンチに座って、俺の足元の芝生の上にはショッピングモールで買ったばかりの服が詰まった袋が置いてある。


「次は純白の服を買いに行こうな。今日俺の服を選んでくれたみたいに、俺も純白に協力したい」

「それ、すっごく楽しみです。その時は兄さんにわたしのファッションショーをお披露目しますね」


「それじゃあさ、ファッションショーを開催する時は俺も写真撮っていいかな? せっかくだから純白の綺麗で可愛い姿をたくさん残したいんだ」

「ふふっ、綺麗で可愛い姿だなんて。照れちゃいます。もちろんいいですよ。でも兄さんだけが見ていい特別な写真ですからね?」


「ありがとう。俺もその時の写真は一生の宝物にするよ。他の誰にも絶対見せないから」


 俺と純白はお互い顔を見合わせて笑い合う。


 こんなにも楽しくて幸せな時間を過ごせるのは純白のおかげだ。タイムリープしてからの毎日は今までの人生で一番の輝きを放っている。


「よし、そろそろ帰るか。買い物も無事に終わったしな」

「えっ……あ、ちょっと待ってくださいっ」


 俺が買い物袋を持って立ち上がろうとすると、純白はどこか物欲しげな眼差しで俺の事を見ていて、何か言いたげな雰囲気を醸し出している。


「どうした? まだ他に買っていきたいものがある?」

「いえ、そうじゃなくてですね……えっと」


 純白は俺の太ももをちょんと指先で触ると、上目遣いで俺の顔を覗き込んでくる。


 どうやら他に欲しいものがあるのではなく、甘えん坊さんになってしまったようだ。そういえば買い物が終わったら公園でお昼寝したいって、膝枕をして欲しいって言っていたもんな。


「純白、お昼寝する?」

「……いいんですか?」


「いいよ。周りに人も全然いないしさ、今日のお礼にいっぱい甘えさせてあげるな」

「えへへっ。実は公園に着いてからずっと兄さんの膝の上でごろごろしたかったのです」


「そかそか。よし、おいで純白」

「はいっ」


 ベンチに座っていた俺は自分の太ももをぽんぽんと叩くと、純白は満面の笑みを浮かべて俺の脚の上に頭をのせた。


 柔らかな銀色の髪に触れながら優しく撫でてあげれば、純白は気持ち良さそうな声を漏らして猫のように俺にすり寄ってくる。


「やっぱり甘えてる時の純白は猫にそっくりだ。さっきも言ったけどペットショップで猫じゃらし買ってくれば良かったかも」

「ま、またからかってくるっ。わたしは猫さんじゃないって言ってるのにーっ」


「でもこれで喜ぶだろ?」

「んにゃっ……それはずるいです……」


 横になっている純白の首筋をくすぐると、妹はぴくんと肩を震わせて頬を紅潮させた。優しくなぞるようにゆっくりと、純白の首筋の下から上に手を滑らせる。純白は心地良さそうに目を細めて『もっとして欲しい』と言うように首を上げて俺の手を受け入れていた。


「ほらな。やっぱり純白は猫さんだ」

「にゃぁ……兄さんは意地悪です。わたしが兄さんに触られるのが好きって知ってて……」


「そうだよな、純白ってば俺からくすぐられるといつも喜んでいるもんな」

「だって仕方ないです……兄さんが上手すぎるのが悪いんです……」


「上手だって褒められると調子に乗るぞ? もっと色々しちゃうかもしれないな」

「もっと色々……? 何しちゃいますか?」


「この前のお昼寝の時は耳を触ったし頭も撫でたし。あっ、そうだ」

「ふにゃっ……!?」


 俺がそっと純白の脇腹に手を伸ばすと、純白は予想していなかったのか可愛らしい声を上げた。激しくくすぐるわけではなく、指でそっとなぞるように純白の脇腹を服の上から弄ぶ。


「純白って脇腹弱いよな。この前くすぐった時も脇腹よわよわで笑い転げてたし」

「だってそこは……本当にダメなんですっ……。んぅ……ふふっ……」


 俺が脇腹を再び指先でなぞると、純白はくすぐったさに身体を捩らせ始めた。


 だが逃げようとしないところを見ると、どうやらくすぐられることを望んでいるようだ。


「まあ人はいないって言っても公園だし、家にいる時みたいに思いきりはくすぐらないから大丈夫。それに純白もくすぐられたくないなら起き上がってもいいんだぞ?」

「むう……兄さんはやっぱりいじわるです……」


 ぷくっと頬を膨らませるも決して純白は起き上がらない。むしろもっと触って欲しそうに俺を見つめてきて、それが可愛くていじめたくなってしまう。


「それじゃあ遠慮なく。純白の脇腹を堪能させてもらおうか」


 俺が純白の両脇腹をまた人差し指でなぞるように触れると、純白はピクッと身体を跳ねさせながら甘い吐息を漏らした。


「ふにゃ……それ、ぞくぞくってして……なんだか変な感じになります……」


 純白は身体を小刻みに震わせながら、恥ずかしそうに両手で顔を隠す。

 

「じゃあやめる?」

「んーん……やめないです……」


 純白は顔を隠しながらふるふると首を横に振る。その反応が面白いので指の数を増やして純白の脇腹をなぞるようにくすぐっていく。


びくりと震える度に純白は艶っぽい声で反応していて、真っ赤にした顔を両手で隠している仕草がとてつもなく可愛らしい。


「いつも純白をくすぐる時は笑い転げるくらいに激しくするけど、こうやってソフトタッチにした時の方が楽しいかも」

「わ、わたしも慣れてないから……いつもと全然違って、くすぐったいよりも変な感じで……」


「そっか。でも嫌じゃないんだよな?」

「は、はい……。だから、もっとして欲しい……です」


 艶っぽい声でおねだりしてくる純白。なんだか単に悪戯していただけのつもりだったのに、いつの間にか俺までぞくぞくとした変な気持ちがこみ上げてくる。


 服の下から直に触るとどうなるんだろう……純白はどんな反応を見せるんだろう。


 さっきまで駄目だと思っていたのにそんな好奇心を抑えられなくなって、俺は純白の服の下に手を潜り込ませてしまった。


「あっ……にいさんっ……」

「ごめん、なんか止まんなくなった」


 吸い付くような柔肌に指先を滑らせる。純白のお腹は細くて柔らかくて、いつまでも触っていたいと思える程だった。


 純白も俺が指で脇腹をなぞる度に、小さく身体を震わせてぴくんと肩を揺らしている。


「にいさんの……ゆび、すきっ……」

「嬉しいな。可愛いよ、純白」


 大きな胸がたぷんと揺れて、純白の口から漏れる声は喘ぎ声のようにも聞こえていて、それが俺の理性をどんどん削り取っていく。

 

「にいさん……もっと……」

「いいよ。これとかどうだろう?」


 指でなぞって脇腹からおへその周りに円を描くように刺激していく。そっと指先を這わせるだけで純白は敏感に反応してくれる。


「それ好き……おへその周り、なぞられるのすごく好きです……」

「こうやってなぞられるのが好きなんだ。顔真っ赤にして、気持ちいいんだな」

「気持ちいい……っ。頭がふわふわしちゃう……」


 恥ずかしそうにこくりと純白は首を動かす。そんな純白が愛おしくて、俺は妹を求めるように指先を這わせた。


 そしておへそから下に向かって指でなぞった瞬間だった。純白は今までとは違う確かな反応を見せてくれた。


「んあっ♡」


 まるで電気が流れたかのように身体が跳ねたのだ。そして同時に聞かせてくれた声は溶けた砂糖のような甘い声。


 それがもっと聞きたくて、もっと乱れた純白の姿が見たくて、そして――。


「――っ!」


 遠くから聞こえてくる声に俺は慌てて姿勢を正した。


 俺にされるがままになっていた純白も起き上がってぴんと背筋を伸ばして座る。近付いてきた声が方向転換して別の方に離れていくのを聞いて、二人で同時に安堵の溜息をついた。


「公園でちょっとイチャつき過ぎた……かな?」

「え、えへへ……かもですね。兄さんに甘えるのが幸せ過ぎて、ついお家の時みたいな感覚になっちゃいました……」


「周りに人がいないから油断してた。ちょっと気をつけよう……」

「はい……っ。それじゃあ、普通に公園でゆったり過ごしましょうっ」


 そう言うと純白はベンチに座り直し、俺の肩の上に頭をのせて嬉しそうな表情を浮かべていた。


 柔らかな春の風、揺れる木漏れ日、そして純白の温もり。


 さっきまでの甘くてとろけそうな感覚とはまた違う、優しくて穏やかな時間。


 これもこれで幸せだな、と思いながら純白に微笑みかける。妹もまた優しく笑顔を返す。


 そうして寄り添い合っていると、ふわりふわりと心地の良い眠気がやって来て、俺達はベンチの上でゆっくりと瞼を閉じるのだった。

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