【完結】可愛いすぎる妹との青春リスタート -大好きな妹とやり直す為に、お兄ちゃんは仲の良かったあの頃に舞い戻る-

そらちあき@一撃の勇者、第二巻発売中!

第1話、プロローグ

『兄さんなんて大嫌いです!!』


 大粒の涙をこぼしながら妹はそう言った。


 高校二年の夏。

 あの暑い晴れの日に、妹が言ったその言葉がずっと俺の頭の中に残っている。


 妹から嫌われて当然な事をした。自分でも馬鹿な事をしていた自覚はある。でもそれしかなかった。妹の将来の為に、妹の幸せを願って、俺は妹を突き放すしかなかった。


 だけどそれでも。


 どうしても、あの時の妹の顔が忘れられない。



 俺には双子の妹がいる。


 名前は純白ましろ


 俺の記憶の中で高校生時代の純白はいつだって眩い輝きを放っていた。

 

 さらりとした光沢のある柔らかな銀髪を腰まで伸ばし、星のように煌めく青色の大きな丸い瞳を長いまつ毛が彩っていて、桜色の唇は艶を帯びて潤っている。


 その顔立ちは精巧に作られた人形の如く整っており、滑らかで白い肌には染みひとつなく、手足はすらりと細くしなやかだった。


 中学でも高校でも、そこにいる誰もが憧れを抱く程の、完成された美しさを持つ少女。兄としてずっと傍にいた自分ですら、間近で見る妹のあまりの美しさに何度も息を飲んだ。


 そして同時に幼い頃から不思議だった。


 俺も父も黒い髪に黒い瞳で、似ても似つかない顔つきで、双子のはずなのにどうして純白だけこんなにも可愛いのか疑問に思った。


 それを口にすると父は必ずこう答える。


『純白は死んでしまったお母さんの方に似たんだよ。そして蒼太、お前はおれに似たんだ』


 幼い頃に事故で亡くなった母の事を俺は覚えていない。


 写真にだけ残された母の面影、父と並んで撮られた写真には確かに純白とそっくりの美しい女性の姿が映っていた。だから父の言うように、俺は父に似て、純白は母に似たのだとそう納得するしかなかった。


 しかしそれを分かっていながらも、成長するに連れて純白に対して兄妹以上の感情を持つようになってしまう。


『ねえねえ、兄さん。遊びましょうよ』


 そう言って笑顔を見せる純白は誰よりも可愛くて愛おしい。この世界で一番大切な存在、それが純白だったのだ。


 幼い頃は無邪気に遊びあった。妹は俺に懐いていつも後ろをついてくる。お兄ちゃんである俺の事が大好きで、俺もそんな純白の事が大好きで仕方なかった。そんな妹と過ごす日々はとても幸せだった。


 でも高校生になった頃。

 成長して女性らしい体つきになった純白を前にして、胸の奥から湧き上がるこの気持ちを抑える事が出来なくなっていた。


 血の繋がった兄妹である以上、抱く事は許されない想いだった。


 兄としてではなく一人の男として、妹の純白を異性として愛してしまった。その想いが叶う事はないと知っていながら、叶えてはいけないものだと分かっていながら、それでも抑える事は出来なかった。


 そして強くなっていく想いとは裏腹に、いつしか純白を避けるようになる。これ以上、妹を好きになってはいけないと、妹から好かれてはならないと、妹の将来を考えて俺は距離を置こうとした。


 妹に抱いてしまった想いを少しでも忘れようと高校での3年間は勉強と部活にのめり込み、俺は地元から遠く離れた一流の大学に合格して一人暮らしを始める。心の距離だけではなく、物理的にも離れようとしたのだ。


 少しでも気を抜けば妹の事を思い出してしまう。俺は大学での4年間を勉強やバイトに費やした。そして卒業を迎えると同時に実家へ帰る事なくそのまま就職。妹とはずっと顔を合わせなかった。


 それから3年経った今。

 妹が結婚すると知り、久しぶりに故郷へ帰ってきたその日。


 俺と純白が並んで座ったリビングで、父から告げられたその内容に驚きを隠せなかった。


『実はな、蒼太、純白。お前達は血の繋がっていない兄妹なんだ』


 まるで雷が落ちたようだった。

 思考は止まり、心臓は跳ね、全ての時間は止まったようで、視界がちかちかと点滅し、呼吸の仕方を忘れてしまう程の衝撃。


 静まり返ったリビングで、妹の純白が嫁いでいく前に、どうしても伝えたい事があると父から切り出されたその内容は、俺と純白が実の兄妹ではなかった事を告げるもの。


 他の誰よりも一緒にいて、誰よりも妹を大切に想っていたはずなのに、兄だからと全てを諦めて俺は身を引いた。


 妹と血が繋がっていなかった事を、俺達が実の兄妹ではなかった事を、もっと早く知っていれば俺と純白の結末は変わっていたかもしれない。だが何もかもがもう遅すぎたのだ。


 純白は結婚する。俺ではない別の誰かと――。


 ずっと押し殺してきた感情が溢れ出してしまう程に、後悔と悲しみで心の中が埋め尽くされる。どうしたら良いか分からない、死んでしまいたいとさえ思った。


 そして愚かにも願ってしまう。


 妹の傍にずっと居た、

 仲の良かった頃に戻りたい。

 純白との青春をやり直したい――。



「――痛っ!?」


 真っ暗だった視界がその衝撃で一気に晴れていく。


 何が起こったのか全く分からない状況の中、目を擦って焦点を合わせるとそこはリビングだった。


 昨日の夜。妹と実は血が繋がっていなかった事を聞いた後、俺は後悔に苛まれながら自室のベッドで横になったはずだった。


 そのはずがソファーの上で寝ていたようで、寝返りを打った拍子に床へ落ちたのだ。


 いつの間にリビングまで来たんだ?

 なんでこんな場所で眠っていたのか記憶が全くない。


(……あれ?)


 ふと、ある事に気が付く。


 外から差し込む眩い日差し。

 小鳥の囀りが歌のように響き、

 庭には花が咲いている。


 テレビに映るニュースでは今日の天気は暖かく、桜の蕾が順調に育っている事を伝えていた。


 俺が実家に帰省したのは12月で昨日までは雪が降っていた。


 明らかに冬ではない。そして俺は……実家で暮らしていた時に部屋着にしていたジャージを身に纏っている。


(どういう事だ……このジャージは一人暮らしを始める時に捨てたはずじゃ)


 その違和感を確かめるように、俺は転がっていた床から立ち上がるとリビングに置かれた鏡の前に立った。


「……っ!?」


 思わず声が出そうになる。

 何故ならそこには見慣れた俺の姿はなく――高校時代の俺がいたからだ。


 目を隠す程に伸びたボサボサの前髪、ぽっちゃりとした体型。

 

 懐かしい姿、だけど間違いなく俺だ。鏡には高校当時の俺の姿が映っていた。


 あの頃の俺はあまり外見に気を使わず、髪もぼさっとしていたし服装にも無頓着。


 今思えば恥ずかしい姿を毎日のように晒していた。それ故に社会に出てからは苦労したのを覚えている。


 それでもこの体型、この容姿はまさしく昔の自分のもの。


 しかしどうして高校生時代の姿に戻っているのか、この不可解な現象は夢なのか。それを確かめようと頬をつねればじんじんとした痛みが走る。


 そこまで確かめても何が何だか分からない。俺は混乱しながらソファーに腰を落とし、今の状況を理解しようと必死に思考を回転させる。


 だが考えがまとまるどころか、その困惑はリビングに現れた一人の少女によって更に渦巻いていった。


「あ。兄さん、起きました?」


 澄んだ青い瞳、透き通るような白い肌、腰まで伸びた長い銀髪を揺らしながら俺の事を兄さんと呼ぶ女の子。


 それは紛れもなく俺の妹である純白だった。


 さっきまでお風呂に入っていたのか、バスタオルだけを身体に巻き付け、頭をタオルで拭いて乾かしていた。動く度にたゆんたゆんと弾む豊満な双丘、頬は火照ったように赤くなっている。


 その姿は艶やかさがあり、色っぽくもあり、思わず目を奪われてしまう。


 純白のお風呂上がりの姿に見惚れていただけではなかった。俺が昨日の夜に見た姿と今の純白が大きく異なっていたのだ。


 久しぶりに会った妹は髪を短く切り揃えた大人びた女性だった。なのに今は腰にまで伸びた綺麗な髪で、顔立ちにも幼さが残っており背丈も縮んでいる。

 

 その姿もまた俺の記憶にある高校時代の純白で、俺と同様に懐かしい姿をしてリビングに立っていた。


「兄さん。お日様がぽかぽかしてて気持ちいいからって、お腹出したまま寝ちゃだめですよ? 風邪を引いちゃうんですからね?」

「お、おう……?」


 純白はそう言いながら俺の隣に座ると、自然な流れで横から抱きついてきた。


 お風呂上がりのシャンプーの良い香りが漂う。たった一枚のバスタオル越しに伝わる柔らかな感触。風呂上がりの火照った身体は熱を帯びており、触れる肌はじんわり温かくてそれが心地良い。こうしているだけで高鳴っていく心臓が耳元にまで届いてくるような錯覚さえ覚える。


 そんな俺の動揺を知ってか知らずか、純白は澄んだ青い瞳でじっと俺を覗き込んで「えへへ」と笑いかけてきた。


 その表情はとても可愛らしく、それは俺が知っている妹そのもの。このスキンシップも俺が距離を置き始める前の、仲が良かった頃の純白が毎日のようにしていた事だ。


 一体どうなっているんだ……?

 まるで俺が失ってしまったあの頃の妹との毎日が戻ってきたようだった。


 夢なら覚めないで欲しい。そう願いながら俺は恐る恐る手を伸ばす、隣に座る純白の頭にそっと触れた。


 それは柔らかで、絹糸のような手触りで、俺はこの感覚をよく知っていた。


「えへへ、兄さんのなでなで気持ちいいです」


 純白はふにゃりと顔を綻ばせて気持ち良さそうに目を細める。


 この仕草も、この笑顔も、全部あの頃に見ていた妹のものだ。


 純白の体温。純白の匂い。純白の柔らかさ。


 これが夢ではなく、全てが本物だと訴えている。


 俺は純白と仲の良かったあの頃に戻ってきた、そうとしか思えない。


 そして妹は俺を見つめながら言うのだ。


「兄さん、大好きです」


 懐かしかった。嬉しかった。

 当時の俺は大好きだと言ってくれる妹と過ごす毎日を拒んだ。妹への想いが溢れて止まらなくなっていた。


 このままではいけない、俺と純白は血の繋がった双子の兄妹で、この関係をいつまでも続けていてはいけないのだと、それが妹の将来の為だと思っていた。

 

 だから俺は妹を拒絶した。

 でも本当は寂しかった。辛くて苦しかった。


 拒絶する度に泣き出しそうな顔をしている妹を見て心を痛めた。


 それでも、いつか分かってくれるはずだと信じて耐えた。


 だけど――そうじゃなかった。

 

 俺と純白の間に血の繋がりはなかった。この関係はいつか報われる。それを俺は知らなかったのだ。


「純白……」

「どうしたんですか、兄さん?」


 抑え込み続けていた感情はあまりにも大きすぎて、そしてこの瞬間それは俺の中で弾けた。


 俺は思わず純白をぎゅっと抱きしめる。純白は一瞬驚いたものの、すぐに俺の背中に腕を回してくれた。


 柔らかで優しい温もりに包まれて、今までの辛く悲しい人生が、俺と純白が迎えた残酷な結末が、まるで走馬灯のように流れていく。同時にぼろぼろと涙が溢れた。


「よしよし。怖い夢を見ちゃったんですね、兄さん。大丈夫ですよ」


 純白は子供をあやすように、俺の頭をゆっくりと撫でてくれた。


 あぁ、やっぱり純白だ。

 この優しさも、この温かさも、この声も、この匂いも、この感触も、何もかもが純白のものだ。


 これは夢じゃない。

 俺は純白とやり直すチャンスを得た。あの願いは神様に届いたのだ。


 ならもう二度と間違えない。

 やるべき事は一つしか無い。


 俺は二度目の人生で、今度こそ純白との幸せを掴み取ってみせる。


☆☆☆

星崎純白、キャラクターイラスト

https://kakuyomu.jp/users/sorachiaki/news/16817139558883202089

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