ウィスの置き手紙
@Reikunimu
恥ずかしがり屋の魔法使い
「こうして勇者様は悪の魔王を倒し、お姫様と結婚して幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。」
母親がそう言って物語を締めるとそれを聞いていた男の子が抗議をする。
「ねぇお母さん。このお話おかしくない?」
「なんで」
すかさずお母さんが理由を聞く。
「だってこのお話魔法使いさんが出てこないよ?他のお話なら絶対出てくるのに。」
「なんでかしらね。うーん?」
お母さんは少し思案した後
「案外、魔法使いさんは恥ずかしがり屋さんなのかもね。」
「何それ」
男の子の不満たらたらの声が部屋に響いた。
剣と剣がぶつかり合う。角の生えた、禍々しいオーラを放つ巨漢と赤髪の男が目にも止まらぬ速さで剣を振るっていた。衝撃波が起こる。私はその衝撃波に巻き込まれないよう少し離れたところからイメージする。あの全長3メートル程の巨漢の全身を覆うほどの火球を。じっと息を潜める。また剣と剣がぶつかり合った。息を吸う。お互いが少し後ずさる。そこだ。自らの幼馴染はきっと避けてるくれるだろと確信して、火球を放った。火球が直撃する。
「ぐがぁっああーーあ」
巨漢が苦悶の声を上げた。あれほどの熱さの火球を喰らったというのにまだ命を繋いでいた。思いの外しぶとい。今更この場にもう1人いることに気づいたようでキョロキョロと辺りを見渡していた。そこに火球を間一髪で回避していた赤髪の男が音もなく忍び寄り、
「これで終わりだ。」
剣が眩く輝いた。
「やったのか」
赤髪の男、リヒトが呟いた。
巨漢の男、魔王軍四天王を名乗ったそれは身体が頭から下半身にかけて、いっそ芸術的なほど綺麗に真っ二つになっていた。
「さすがにそれは死んでるでしょ。」
私、ウィスタリアも透明化の魔法を解いてリヒトに話しかける。突然現れたというのにそこにいるのがわかっていたように目を合わせてくる。
「はぁー遂にやったのか」
そう言って大の字で転がった。敵陣真っ只中なのに油断し過ぎではないだろうか。そんなことを考えていると
「おーい」
少し離れたところから大きな剣を持った男、ブラボさんと一応お姫様な金髪の少女、アメリアが肩に気絶しているソーニャを担ぎながらこちら側に歩きながら手を振っていた。どうやらあちらも終わったようだ。今回もなんとか誰も欠けずに終わりそうで安心だ。
「ウィス」
急に転がっていたリヒトが正座になって真面目くさった表情で私の愛称を呼ぶ。
「どうしたのさ」
「いや、魔法の援護助かったと思って、ありがとうウィス。」
急にお礼なんて言ってどうしたんだろ。
「仲間なんだから当然でしょ。それよりよくさっきの魔法避けれたね。」
リヒトは何を当然なことをと言いたげな顔で
「ウィスならあのタイミングで魔」
その時、それを視界の端で捉えられたのはたまたまだろう。世界がゆっくりに見える。慌ててリヒトを突き飛ばす。なぜ突き飛ばされたのかわからないリヒトの困惑とした表情とアメリアの悲鳴そして真っ二つに切れていて動くはずがないのに宙に浮いて紫色の発光している右半身。あぁやばいな。それが意識が飛ぶ前の最後の思考だった。
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