第10話_妖精さん

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 010_妖精さん

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 やっと第20エリアだ。このダンジョンはどこまであるのだろうか。

 俺とチャタがこのダンジョンを探索して、すでに9日が経過した。このままでは10日での踏破は難しい。と思っていたところで、ボス部屋に到着した。


 第20エリアのモンスターはアイアンゴーレムだった。扉の絵もアイアンゴーレムに似ている。

 大きくなるのか、別の金属になるのか、そのどちらかか両方共だろう。


 エリアは深くなればなるほど、広くなっていく。

 俺の場合はチャタのおかげで最短で進めるが、この第20エリアはボス部屋まで軽く20キロはあった。

 身体能力が上がっているから20キロ歩いてもそこまで疲れないが、戦闘しながら進んでいることで精神的な疲れはある。


「畑が俺を待っている。一度帰るぞ」

「アン」

 畑仕事の時間だ。戦いよりも野菜を育てるほうが俺に合っている。


 転移で家に戻って着替え、畑仕事に精を出す。土を耕し野菜に愛情を注ぐと、疲弊した精神が回復していく。


「アンアンアンアン」

「アンアンアンアンアン」

「アンアンアンアンアンアン」

 日下のお婆さんが、2匹の柴犬を連れてやって来た。チャタがその2匹と一緒になって走り回る。微笑ましい光景だ。


「おはようございます」

「はい。おはようさん。そろそろエサがなくなる頃だと思って、持ってきたよ」

「ありがとうございます! チャタ、お前のご飯だぞ、お礼を言うんだ」

「アンアンアン」

 尻尾を振って日下のお婆さんの周りを駆け回るチャタに続いて、2匹の柴も駆ける。


 チャタを追いかける2匹は、チャタの姉妹だ。実際に姉なのか妹なのか分からないけど姉妹だと日下のお婆さんが言っていた。

「お前たちは仲がいいねぇ」

 日下のお婆さんは、チャタたちをわしゃわしゃと撫で回す。


「ずいぶんと毛並みがいいし、成長も早いようだけど、何かしてるのかい?」

「いえ、特には。エサも日下さんにもらったものですし、他には……」

 ダンジョンで戦ってますとは言えません。


 日下のお婆さんに野菜をおすそ分けして、午前11時には畑仕事は終わる。

 最近、家の周囲の草が気になる。刈りたいが、今はダンジョンのほうが優先だ。

 どの道、あと1日で踏破できなかったら人類は滅亡する(可能性がある)。その判定後に草刈をしても遅くはないだろう。


 仮眠後、ダンジョンの中に転移。第20エリアのボス部屋の前だ。

 チャタを撫でて、ボス部屋の扉を開ける。


「初めてのパターンだな」

 これまでのボス部屋は、ボスが1体しか居なかった。今回は30体くらい居る。


「アイアンゴーレムではない?」

 鑑定眼さんを発動させると、ミスリルゴーレムが20体、アダマンタイトゴーレムが10体、オリハルコンゴーレムが1体。


「どれも硬いが、オリハルコンゴーレムのVITとMINは滅茶苦茶高いぞ」

 VITは物理防御、MINは魔法防御に影響する。


「アン」

「そうだな。俺たちにかかれば、オリハルコンだろうがダイヤモンドだろうが、赤子の手をひねるようなものだ」

 ボス中のボスであるオリハルコンでもレベルは300。

 今の俺たちのレベルはその倍以上ある。当然ながら、どのステータスも高い。負ける要素はない。


「ミスリルゴーレムは物理と魔法の耐性、アダマンタイトゴーレムは物理無効と魔法耐性★1、そしてオリハルコンゴーレムは物理無効と魔法耐性★3を持っている。ミスリルはチャタに任せる。俺はアダマンタイトゴーレムとオリハルコンを殺る」

「アンッ!」


「亡者を焼く地獄の業火よ、不純なるものを全てを飲み込み灰塵をも残さず燃え盛れ。獄炎の舞!」

 先手必勝! MPを全部つぎ込んで獄炎の舞を発動させる。全ゴーレムに耐性があるが、無効化される物理よりはマシだ。


 炎のヘビがゴーレムを喰らっていく。どれだけのダメージを与えてくれるか。

 極アイテムボックスから上級マナポーションを取り出して飲む。ゼロになったMPが500ポイント回復した。


 今の俺のMPは1700以上だから、たった500ポイントでは3分の1も回復しない。

 獄炎の舞が収まると、全部のゴーレムが消えていた。地面には数多くのアイテムボールが散乱している。どうやら全MPをつぎ込んだ獄炎の舞は、オーバーキルだったようだ。

 さすがにレベルが倍だと相手にならなかったようだ。


「アウン……」

 チャタが非難めいた目で俺を見る。

「すまん。全滅するとは思ってもみなかったんだ」

 だってオリハルコンゴーレムは魔法耐性★3だったんだぞ。VITやMINも高かった。だから、もっと耐えると思ったんだ。


 モンスターとの戦いは、苦戦することはない。そりゃぁ、レベルがバンバン上がる俺たちに敵うモンスターなんか居ないよな。

 当面の敵は、エリアの広さと、ダンジョンがどこまであるのかだ。


「ん、次のエリアへの扉がない?」

 まさかまだモンスターが居るのか? 俺は身構えた。


『Congratulations!』


「おうっ!?」


『あなたはダンジョンを踏破しました』


「おおっ!」


『10日以内にダンジョンを踏破したことで、ダンジョンウィルスが放出されることはありません。あなたは世界を救いました』


「………」

 言葉にならないホッとした気持ちだ。


『この世界で最初にダンジョンを踏破したあなたに、称号・踏破者を付与します』

「やっぱそれあるのね」


『この世界で最初にダンジョンを踏破したあなたに、権限・ダンジョンマスターを付与します』

「はい?」

 権限ってなんだよ?


『この世界で最初にダンジョンを踏破したあなたに、このダンジョンを差しあげます』

「要りませんけどっ!」


『返却要求は却下されました』

「おいぃっ!」

 誰が却下したんだよ!? 責任者出てこいや!


『ダンジョンマスターを補佐するフェアリーを顕現させます』

 俺の意志とは関係なく、話が進んでいくんですが?


 ボス部屋の真ん中にキラキラと粒子のようなものが光り、何かの形になっていく。

 まあ、分かっていたよ。フェアリーだよね。背中に左右2枚ずつ4枚の羽根がある妖精さんだ。


「呼ばれて飛び出してジョンジョガジョーン♪」

「チェンジで!」

「なんですってーっ!?」

 そりゃ、チェンジするだろ。大魔王様っぽいセリフ吐きやがって。言うのなら娘のほうだろ。


「こんな可愛い私をチェンジだなんて、鬼! 悪魔! 大魔王!」

 たしかに可愛らしいが、それは10センチくらいの小さなサイズだから。性格はとても面倒臭そうだ。


「アンッ(パクッ)」

「えぇぇぇ……それ美味しくないから、ペッしなさい」

「ペッ」

 ベチャッ。


「「………」」

 涎でベチャベチャになった妖精。なんと声をかければいいのだろうか?


「まあ、噛み砕かれなくて良かったな」

「こ、このクソ犬が! ボケナス! ウン●タレ! チ●カス! ピーッがピーッでピーッしたろかっ!」

 いくら激怒したからって口が悪すぎるぞ、この妖精。

 本当にチェンジしてくれないかな。


 

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