第2話_地震

 ■■■■■■■■■■

 002_地震

 ■■■■■■■■■■



 家に戻るとチャタの様子を見る。気持ちよさそうに眠っている。

 そろそろ昼だからご飯にするか。と言っても、カップラーメンだけどね。


 今日は忙しいと思ってカップラーメンだが、ちょっとした料理なら自分で作れる。趣味がキャンプだから、火を点けるところから色々できる。

 でも、この家はオール電化だ。リフォームの時にオール電化にしたと祖父が自慢しているのを覚えている。

 IHヒーターでお湯を沸かして、カップラーメンに注ぐ。5分たってそれを食べた。


 カップラーメンを食べ終わると、視線を感じた。段ボールから顔を覗かせたチャタと目が合う。

「チャタのご飯も今出すからな」

 そう言って気づいたが、チャタは室内犬なのだろうか? 日下さんは家の中からチャタを連れてきたから、室内で育てるのがいい? でも、それでは番犬にならないような?


「とりあえず、大きくなるまでは家の中で飼うか」

 祖父が残した食器の中から、チャタに良さそうなものを選んでドッグフードをお湯でふやかしてやる。5カ月くらいまではお湯でふやかして出してやるのがいいと、日下さんが言っていた。


「水も要るな」

 チャタは尻尾どころかお尻まで振って嬉しそうに俺、いや、ご飯を見つめている。縁側に新聞紙を敷いてご飯を置く。


「待て、だぞ」

 チャタを段ボールから出してご飯の前に置くと、なんと俺の「待て」を理解しているのかお座りしたまま待っている。


「よし」

「ワフッ」

 ガツッガツッガツッガツッ。凄い勢いでドッグフードを食べていく。

 ドッグフードの器の横に水の器を置いてやるが、ドッグフードをガツガツッ食べていて目もくれない。


 日下さんからもらった、お茶碗の半分くらいのドッグフードはあっという間になくなった。

 ドッグフードの後は水をチャプッチャプッと飲んで満足そうな顔をして、その場で丸くなって寝出した。あまりの可愛さに、その背を撫でてやる。思ったよりもモフモフ感はない。どちらかというと、ゴワゴワ感だ。

「大きくなれば、もっとモフモフになるよな」

 根拠もなくそう信じる俺だった。




 田舎に引っ越して早10日。朝は畑、昼からチャタと遊んで、夜は好きなネット小説を読む。こういった緩やかな時間の流れは、あまり感じたことがない。

 畑のことは日下さんやご近所さんたちが教えてくれ、農機具も揃っているから問題なく世話ができている。

 買い物は1時間かけて山を下りて町へ行かなければならないけど、それ以外は特に不便はない。


 買い物は1週間分をまとめ買いして冷凍庫に入れておく。野菜は自前で作っている。俺が引っ越してくるまでは、ご近所さんが畑の世話をしてくれていたため、収穫できる野菜が育っていた。

 缶詰や保存食、それにペットボトルの水は大量に買い込んである。これは土砂崩れなどで道が通行止めになった時のためのもので、普段は使わない。


 日下さんにもらったチャタはよく食べよく寝るワンコロだ。可愛い子柴なんだが、問題もある。それは排泄物だ。

 大のほうは新聞紙の上でしてくれればいいのだが、小のほうは新聞紙では染みてしまう。

 ネットで調べたら、ペットシーツと専用トイレなるものがあったから通販で買った。


 チャタはとてもお利巧な子で、ちょっと教えただけでペットシーツを敷いたトイレで大と小をしてくれる。

「お前はお利巧だな」

 膝の上に居るチャタの頭を撫でる。俺が縁側に座って日向ぼっこをすると、必ず俺の膝の上にやってくる。甘えん坊で可愛い相棒だ。


 縁側でまどろんでいると、運送会社のトラックが庭に止まったのが見えた。

「こんにちはー」

「ご苦労様ー」

 縁側から手を振ると、こっちに荷物を持って来てくれた。


 膝の上で眠っている可愛らしいチャタを見たお兄さんは、目尻を下げた。

 サインして荷物を受け取ると、チャタが目を開けて欠伸をした。小さな歯がまた可愛いのだ。


 立ち上がって覚束ない足取りでトテトテと歩いて水を飲む。

 俺は届いた段ボールを開ける。中には犬用の玩具が入っている。骨の形をした齧るやつ、同じく太い紐のような齧るやつ、アヒルの人形、ボール。首輪とリードもある。


 チャタに首輪を嵌めてやると、俺の目じりがどんどん下がる。

「かわいい~」

 チャタを抱っこして撫で回す。あー、癒されるー。


 生後3カ月までは散歩させるにしても、抱っこして外に連れて行くらしい。

 まだ生後2カ月ちょっとのチャタを風呂敷で籠をつくって、肩から下げて外に出た。

 スンスンと鼻を動かし、外の空気を満喫しているようだ。


「外は楽しいか?」

「アンッ」

「そうか、楽しいか」

 チャタの頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。

 毎日このようにチャタを連れ出して、外に慣れさせる。




 田舎に引きこもって4カ月。チャタも6カ月になって、かなり大きくなった。体重を測ってみると6キロもあった。まだ成長途上だから、もっと大きくなるんだろうと思う。


 この頃になると、ドッグフードはお湯でふやかす必要もない。ガリガリッと逞しく噛み砕いて食べる。

 外にも自分の足で出る。お利巧なチャタは、呼べばすぐに俺のところに戻って来る。昼は自由にさせているが、夜は家の中で休ませる。番犬用にもらったが、完全に室内犬だ。


 そんなある日のことだった。朝の畑仕事が終わり、昼食を摂っていると地震があった。

「アンッアンッアンッアンッ」

「おぉ、結構揺れたな」

 震度4くらいか? チャタが興奮して部屋の中を走り回っている。


「あ、チャタ!」

 勢い余ってチャタが縁側から外に飛び出していった。いつもはこんなことないから、縁側の窓は開けっぱなしにしていたのがいけなかった。

 慌ててチャタを追って外に出た。


 チャタは裏山に駆けて行った。それを追いかけて俺も裏山に入って行く。

「アンッアンッアンッアンッアンッ」

 チャタが激しく吠えていて、居場所は簡単に掴めた。その声に向かって山を登ると、チャタが見えた。


「はい?」

 チャタは大きな穴に向かって吠えている。

「いやいやいや。なんで穴?」

 今朝、ここを通った時はこんな穴はなかった。


 見間違い? そんなわけあるか。穴の横にはうちの薪置き場があるんだ。今朝も薪をそこに置いたばかりだ。

 薪というのは含有水分量が少ないほどいい。伐採から1年から2年程置いておくといい感じに水分量が少なくなる。

 山の冬は寒さが厳しいから、エアコンでは追いつかない。だから冬は薪ストーブのお世話になるわけで、今朝もこの薪置き場に薪を置いた。


「さっきの地震で穴が開いたのか……?」

 吠えまくっているチャタを抱き上げて落ちつかせる。俺も落ちつくための時間だ。


 

愛読ありがとうございます。

『フォロー』と『応援』よろしくです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る