裏山にダンジョンが出来たから攻略したら、ダンジョンを管理する組織の理事になって総理に意見を言う立場になったんだけど?

なんじゃもんじゃ/大野半兵衛

第1話_相棒

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。




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 001_相棒

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 軽トラで国道を走っているが、30分前を最後にコンビニはなくなった。

 そのコンビニも有名チェーン店ではなく、昔ながらのこぢんまりとした店だ。看板に「コンビニエンスストアー」と書いてなかったら、絶対にそれがコンビニと思わないようなものである。

 スーパーに至っては、1時間程前に見たきりだ。


 もう1度言うが、この道は国道だ。片側一車線になっている。

 左を見るとガードレールの向こうは崖になっていて、10メートル下に川が流れている。清流だ。夏に泳いだら気持ちよさそうだ。

 右を見ると木々が鬱蒼と生い茂る山がある。丁度サルが見えたが、これで3回目の遭遇である。


 国道を右折して林道に入って行く。ここからは対向車とすれ違うことができないため、ところどころに待避所がある。

 ただ、10分走ってもすれ違う車はない。

 時々軽トラでさえ狭いと感じる道幅のところもあったが、なんとか目的の集落に到着した。


 5軒ほどの家がまばらにある集落の、一番手前にある家の前で止まる。道幅は相変わらず狭いが、軽トラを止める空き地はいくらでもある。


 門から玄関まで少し歩いて、チャイムを鳴らす。

 犬が居るようで鳴き声は聞こえるが、誰も出てこない。

 犬の鳴き声のほうへ回ってみると、手拭いを頭に巻き割烹着姿の老婆が畑仕事をしていた。この家に住む日下くさかさんだ。

 その周囲に柴犬が2匹居て、共に愛嬌のある顔をしている。


「こんにちは」

「はい。こんにちは」

「「ワンッ」」

 老婆は目が悪いようで目を細め俺を見てから、ちゃかちゃかと近づいて来る。それにまとわりつくように2匹の柴犬も一緒にやって来る。放し飼いだけど、俺に飛びかかってくることはないようだ。


「あれまぁ、あんた元治げんじさんところの」

「はい。孫の世渡丈二よわたりじょうじです」

 俺こと世渡丈二31歳は、今日からこの集落にある祖父の家に住むことになった。

 2カ月ほど前に祖父元治が他界して、家族会議を経て俺がこの家を受け継ぐことになったからだ。


 大卒でゼネコンに就職し、最近ではプロジェクトを任せてもらえるようになったが、上司の失敗を俺が被ることになって会社に居づらくなっていた時だった。

 この際だから田舎でのんびりするのもいいかと思い、こうやって移住してきたのだ。


 幸いと言うべきか、俺は結婚していなかった。妻も子もないため、自分中心に判断できる。身軽なものだ。

「丈二さんね。うん、丈二さん。今日からかい?」

 葬式の時に日下のお婆さんには世話になったし、それ以前にも何度か顔を合わせているから俺の顔を覚えていたようだ。


「はい。引っ越しの挨拶に来ました。これ、つまらないものですが」

 引っ越しそばを袋から出して日下のお婆さんに渡す。田舎はこういうことが大事だと、この集落で生まれ育ったオヤジが言っていた。


「まあまあ、ご丁寧に。ありがとうね。あ、ちょっとまっててちょうだい」

 ちゃかちゃか歩き家の中に入る日下のお婆さん。

 田舎の老人は働き者で、80を過ぎても平気で山に入って行く。都会の若者よりもよほど健脚だ。


「はい」

 家から出て来た日下のお婆さんは1匹の子犬を抱っこしてきて、俺に渡してきた。

「え?」

「クゥーン」


 この子犬は、日下のお婆さんの横でお座りしている2匹の子供なんだと思う。その2匹よりもやや濃い赤茶色の毛に黒の毛が混ざっている子犬は、つぶらな瞳で俺を見上げてくる。

 うっ……この可愛さは反則だ。


「番犬は必要だよ。サルやイノシシ、シカなんかが出るからね」

「えぇぇ……」

「生後2か月でまだ名前はないから、つけてあげてね」

「いやいやいや。俺、犬を飼ったことがないんですけど」

「そんなことかい。今時はネットで検索できるから大丈夫だよ」

 日下のお婆さんはネットを使いこなしているらしい。


「でも、こんな子犬を」

「エサは分けてあげるよ。ウチにはその子の兄弟がまだ3匹居るから、なくなったらとりにおいで」

 そう言って家の中へ。出て来た時には米用の茶色の袋を持ってきた。米なら10キロ入るやつだ。


「これだけあれば2、3カ月は大丈夫だよ」

 中にはドッグフードらしき茶色の粒が入っていた。

「今はこのお茶碗に1杯半を3回に分けて与えてやってね。大きくなったら徐々に増やしていくんだよ」

 俺の話はまったく聞かずに、子犬の飼い方を教えてくれるんですけど……。


 結局、俺は子犬とドッグフード、ついでにお茶碗をもらってしまった。

「クゥーン」

 子犬は助手席の段ボールの中から、つぶらな瞳で俺を見て来る。なんて愛らしいのだろうか。


「1人で気楽な田舎暮らしに、相棒ができてしまった……」

 耳の先と背中に一筋の黒い毛がある子犬の愛らしさに、俺はノックアウトされてしまった。

「お前、オスだな」

 子犬を顔の高さまで持ち上げて、腹の下を確認するとあれがある。オスだ。


「毛が茶色だから。茶太郎。いや、それでは捻りがないから、チャタだ。お前の名前はチャタだぞ」

「アン」

 気に入ったようで、尻尾をブンブン振っている。


「さて、俺は掃除して荷物を運びこむから、大人しくしててくれよ」

 家に到着し、チャタを段ボールの中に入れて掃除を始める。

 祖父が使っていた有名海外メーカーの竜巻掃除機で家中のホコリをくまなく吸い込む。


 掃除が終わったら軽トラから荷物を下ろしてく。荷物はそれほど多くない。祖父が使っていた家電は新しいものが多かったから、冷蔵庫、テレビ、洗濯機などは持ってきてないんだ。

 身の回りのものと布団、あとはちょっとしたものしかないから1時間もすれば、全部下ろし終わる。片付けもそこまで時間はかからないだろう。


「これでよし!」

 昔ながらの田の字の和室もあるが、リフォームされたキッチンとリビングもある。2階も全部リフォームされていて、フローリングになっている。

 俺たち孫が遊びに来た時は、2階のフローリングの部屋で雑魚寝をしていた。


 電気は問題なく来ているが、水は近くの沢から引いている。蛇口を捻ればその水が出てくる。

 しばらく使ってなかったから、水を流しっぱなしにしてからコップに汲んだ。

「美味いな」

 この美味い水を得るためには、やらないといけないことがある。


 裏山へ入っていき、30メートルほど登る。これ、キツい。

 たった30メートルしか登ってないのに、息が弾む。

 そこには濾過装置がある。この濾過装置に沢の水を通して不純物を除去しないといけない。年に数回、この濾過装置をメンテナンスしないと美味しい水が飲めなくなるのだ。


「よし、メンテナンス終了!」

 祖父が生きていた頃は、年に1回は遊びに来ていた。その時に濾過装置のメンテナンスのやり方を教えてもらった。小学生でもできる簡単なものだから、忘れることはない。





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