本当の自分を

トモイ

「そういえばミヨ、最近変わったね」


何気ない話をしているときに突然、そう言われた。

言った相手は、小学生の頃からの友達であるサキだ。

その一言で、教室に風が吹き込み、カーテンが暴れる。


変わったね。その言葉に思い当たることがないか必死に思考を巡らせたが、抽象的な表現で、どんな意味を含めているかわからない。

サキはじーっと、私の目を見ている。


「なんていうかさ、ミヨらしさが薄くなった?みたいな」


どうやら、あまりいい意味ではないらしい。

個性が消えた、と言われているように感じて、心臓がチクリと痛む。


心当たりは、ある。好きな人に、私が合わせたんだ。

いつからだっけ、と考えをめぐらせる。


私は高校に入学してから、隣の席の石田くんに恋をした。

自己紹介で趣味が同じことに気づいて、話しかけたのが始まりだった。

話をするのが楽しくて、気づいたら好きになっていた。


それで、自分の気持ちに気づいたとき、廊下で彼がタイプの女子の話をしていて、つい盗み聞きした事があった。

彼のタイプは『お淑やかで、おとなしい女子』だとわかった。そうだ、その時からだ。


私は真逆の、元気が一番!な性格だったから、変えようと努力したんだ。

頑張って頑張って頑張って、お淑やかな女の子になった。


結果、石田くんから告白されて、つい数日前に、彼氏彼女の関係になった。


そんな幸せなこのときに、「ミヨらしさが薄くなった」なんて…。


「ミヨが頑張ってたのは知ってるけど、自分の性格を押し殺してまで頑張る必要ないよ」


口を固く結んで、うつむく。

別に押し殺しているわけではない。そう言いたいのに、うまく口が動かない。


「石田はさ、前のミヨじゃなくって、今のお淑やかなミヨを好きになったんでしょ?」


「私、そうなってもらうために頑張ったよ?」


「…今のミヨが偽物ってわけじゃないけど、素の、本当のミヨを好きになってくれる方が、良くない?」


また、教室に風が吹き込んだ。

今度はカーテンだけではなく、私とサキの前髪も揺らした。


「ミヨは石田に、お淑やかなミヨを好きになってもらえて、心から嬉しい?」


サキの目を見ると、悲しげに細められていた。



「なんでサキのほうが悲しそうにしてるの」


私は、そんな言葉しか返せなかった。

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本当の自分を トモイ @motoisandayo

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