本当の自分を
トモイ
*
「そういえばミヨ、最近変わったね」
何気ない話をしているときに突然、そう言われた。
言った相手は、小学生の頃からの友達であるサキだ。
その一言で、教室に風が吹き込み、カーテンが暴れる。
変わったね。その言葉に思い当たることがないか必死に思考を巡らせたが、抽象的な表現で、どんな意味を含めているかわからない。
サキはじーっと、私の目を見ている。
「なんていうかさ、ミヨらしさが薄くなった?みたいな」
どうやら、あまりいい意味ではないらしい。
個性が消えた、と言われているように感じて、心臓がチクリと痛む。
心当たりは、ある。好きな人に、私が合わせたんだ。
いつからだっけ、と考えをめぐらせる。
私は高校に入学してから、隣の席の石田くんに恋をした。
自己紹介で趣味が同じことに気づいて、話しかけたのが始まりだった。
話をするのが楽しくて、気づいたら好きになっていた。
それで、自分の気持ちに気づいたとき、廊下で彼がタイプの女子の話をしていて、つい盗み聞きした事があった。
彼のタイプは『お淑やかで、おとなしい女子』だとわかった。そうだ、その時からだ。
私は真逆の、元気が一番!な性格だったから、変えようと努力したんだ。
頑張って頑張って頑張って、お淑やかな女の子になった。
結果、石田くんから告白されて、つい数日前に、彼氏彼女の関係になった。
そんな幸せなこのときに、「ミヨらしさが薄くなった」なんて…。
「ミヨが頑張ってたのは知ってるけど、自分の性格を押し殺してまで頑張る必要ないよ」
口を固く結んで、うつむく。
別に押し殺しているわけではない。そう言いたいのに、うまく口が動かない。
「石田はさ、前のミヨじゃなくって、今のお淑やかなミヨを好きになったんでしょ?」
「私、そうなってもらうために頑張ったよ?」
「…今のミヨが偽物ってわけじゃないけど、素の、本当のミヨを好きになってくれる方が、良くない?」
また、教室に風が吹き込んだ。
今度はカーテンだけではなく、私とサキの前髪も揺らした。
「ミヨは石田に、お淑やかなミヨを好きになってもらえて、心から嬉しい?」
サキの目を見ると、悲しげに細められていた。
「なんでサキのほうが悲しそうにしてるの」
私は、そんな言葉しか返せなかった。
本当の自分を トモイ @motoisandayo
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