第65話 【約束】

夕方に、なりました。


さっきまでの熱気が、徐々に、程よく冷めて行きます。


サングラスたちは、外を飛び回っています。


邸内だけでなく、佐世保市、近郊市町村、長崎県全体に亘って被害状況を把握し、各社のサングラスOBまで駆り出して、迅速正確、誠心誠意の対応に当たっています。


ただ2人、あの11号と、ぽの256号を除いては。


この2人と万九郎、そしてアスカは、いつものメンバーと一緒に、食卓を囲んでいます。

狂子様がいないだけで、何か大きな穴が開いた気がします。


############################


熱い緑茶を飲んでいます。


「あなた達、ご両親とか、呼ばなくていい?」


「今日、アスカ様と、お館様の素晴らしいお仕事を見させて頂いて、今更、親を呼ぶとか、ありえません。湿っぽいというか、こっ恥ずかしいです¥」


「あなた達に最初に与えた命令、覚えている?」


「はい!ワカとアスカ様を守ること、どんなことがあっても、絶対に2人を守ることです!」


「そういや、この2人、あれからいつも、一緒だったなあ。普通にサングラス部隊の仕事だから、守ってくれてるんだと、思ってた」


「命令変更よ!2人を守ること、どんなことがあっても、絶対に2人を守ること、何があっても4人全員、生きて帰ってくること!分かった?」


「は、はいお嬢!御意!」


「発射時刻の午後8時まで、まだ間があるわ。仮眠を取るなり、お風呂に入るなりして、整えておきなさい」


サングラス2人は、身体を動かしに、行きました。


じっとしていて気持ちが落ち込むのに比べ、すこぶる健康的な選択です。


アスカは、お風呂に行ったようです。


万九郎は、さっきから、寝転がって、うつろうつろしています。


もう少ししたら、お風呂に入ってリラックスして、軽めの夕ごはんを、食べるつもりです。


お風呂に行く廊下に、誰かいます。


美香です。


「美香?」


美香は、万九郎の両手を掴むと、


「万九郎様、何があっても帰ってきてくださいね。私はここで、あなたが来るのを26年間、待ってきました。次の一生まで、ずっと、ずっと待ってるのなんて、嫌です!」


「分かった。必ず4人全員で、帰ってきてみせるよ!」


美香の手を、ぐっと握り締めます。


「じゃ、風呂に入ってくるから」


「はい、良いお風呂を」


サングラス2人が、戻って来ました。

何やら大きな魚を、何匹も抱えています。


40センチ級のヤマメです!


「山を走ってたら、渓流で釣りしてる仲間がいましたんで、混じって釣って来ました!」


これに佳菜、美香、アスカは大喜び!


さっそく、自分たちで厨房に入って、料理を始めました。


ピチピチのヤマメの塩焼き、白ご飯、お味噌汁。


「うまい!こんなに美味い魚は初めて食べたよ」


「これから何回も、食べられますよ」と美香。


「私たちも、ワカとアスカ様のために、もっともっと、釣ってみせいますよ!」


「ワシのためにもな!」


ドクが、いきなり言いました。


「HAHAHA!」


いい具合に、皆んな、リラックスしています。


「ワシが伝えておいたアドバイスが、見事に活かされているようじゃな」


「ええドク!この宇宙服は、確実に1世紀先を先取りしています!」


頼もしいです。


さて、搭乗です。


4人とも、淡々とロケットに近づきます。


エレベーターの扉が開き、全員乗りました。


佳菜、美香、ドク、マーティー、サングラスたち、たくさんのメイドさんたちが手を振っています。


チーン!


最上階。

搭乗口に、着きました。


縦になってるので不慣れですが、座席に座ると、落ち着きました。


周りを見回します。


新幹線のグリーン車より広くて、快適です。


前の2座席にサングラス2人、その後ろに万九郎とアスカの配置です。


「We are in seats. Everything is ready, ready for launch!」


サングラスが、軽快に交信しています。


「さあワカ、アスカ様、いよいよです!それとアスカ様、これからは姫様とお呼びして宜しいですか?」


うん?


「いえ。私たちにとって、アスカ様は、もう姫様にしか見えません。ですから何卒」


「そっちの呼び名がいいなら、それでいいわ」


アスカ、少し笑いながら、返事をしています。


「おっしゃー!姫様、ありがとうございます!」


カウントダウンが、進みます。


3,2,1、Lift off!ズドドドドッドドドッドーーー!


とたんにGが、掛かって来ましたが、ドクたちの宇宙服のおかげか、大したことは、ありません。


空の色が、変わって行きます。


雲を抜けると、そこは宇宙でした。


「ワカ、姫様!ヘルメット横の小さいツマミで、明るさが調整できますよ!目的地は月の裏側で、昨日が満月でしたからね!きっと、真っ暗です!これを使うと、夜中でも昼間と同じくらい、明るくなるんです。これ、ドクさんの、お知恵らしいです」


さすがドク。皆んなの考えないことを、考えます。


宇宙は、思ったより星が多くて、驚きました。


でも、暗いところは、地球で見るよりとても暗いです。

見ていると、引き寄せられそうで恐いです。


ときどき、光の球が動きます。


UFO?か、とキョトキョトしてると、


「あれは、地球で死んだ人たちの魂よ。月までの間で、自分に合った小さな星、というより、中が伽藍堂になって、岩で出来ている、小さなおうちだけど、そこに入って、一生を振り返って転生するのよ」


アスカが、少し笑いながら、説明してくれました。


「アスカは。何でも知ってるなあ」


いよいよ、月に近づいて来ました。


前面モニターに、月面が見えています。


月面が暗くなりました。例のツマミを、少し動かします。


効果抜群!昼のように、クッキリ見えます。


星も明るいので、このままでも、いいかも知れません。


「念のため、船内を暗くして、目を慣らしておきましょう」


アスカが言います。


「あ、はい姫様!御意!」


サングラスが、元気に答えます。


まるで何度も月に来たことがあるように的確で、当たり前のことのようです。


さあぁー、超超巨大宇宙船の場所まで。いよいよ近づきます!

シュコーって感じを予想していましたが、違うようですね。




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