第8話 【ベアトリーチェ】

7月19日。

土曜日。

午前8時46分。


俺は今、鹿児島空港にいる。


松浦家の佳菜様が、このところの一連の働きを高く評価され、万九郎に休暇を与えることを、お決めになったからだ。


期間は、2日。


普通の社会人の土日と、何も変わらないとは言え、休めるのは嬉しい。


と、言うか俺、佳菜様と関わりになるようになって以来、休みが無かった。

これは酷い。まるでブラック企業だ。


とか言っても、素敵な女性と関わり合いになる事が増えて、万九郎は、喜んでいる。


今回は、鹿児島市内には、用はない。


鹿児島湾の沖合いは、多島海と言うほどではないが、多数の離島がある。

佐世保みたいだから、万九郎が興味を惹かれたのだ。


鹿児島港から屋久島に行く方法には、鹿児島本港から高速フェリーに乗る方法が1つある。


今回は、その方法を使う。


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今、鹿児島本港にいる。

船はもう、来てる。


トンビとカモメが、妙に多い。


フェリーは、もう出港した。


海風が強くて、気持ちいい。


宮之浦港に、着いた。


屋久島でやるべきことと言えば、いい民宿を、見つけることである。


ボッタクリ宿に泊まるとか、考えるのも嫌。


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さっそく、見つけた。


民宿「はるちゃん」。


「こんにちは。初めまして」


「お客さんね。ウホッ、いい男!」


何だったんでしょうか、今のは?


「私、店主のはる子よ!」


「自分は、ヨロズ万九郎と、言います」


「ますます良いわね。無駄なこと言わないのがいい」


「はぁ」


「若いチャラチャラした男って、無駄が多い。こっちの気を引こうったって、金の無い男なんか、こっちから願い下げだよ」


「はあ」


「アンタは、いい!ウホッっじゃなくても、こりゃとんでもないいい男と、デキちゃったかな」


「相当に高い水準で、いい女だと思いますけど?」


「まぁ、色々あってね。一泊4000円!」


「凄い。カブセル並みじゃないですか」


「まあ、屋久島って言えば、全国的にも人気スポットだからね。これでも楽々だよ」


「暢気だなあ」


「じゃ、屋久杉行く前に、ここで一泊する?」


「今から、すぐ出かけます」


「ソーロー君だわあー。したい。今すぐしたい!」


「すいません。じゃあ行って来ます」


身軽に出かける、万九郎。



【屋久杉】


屋久杉(やくすぎ)は、屋久島の標高500メートル以上の山地に自生するスギ。狭義には、このうち樹齢1000年以上のものを指し、樹齢1000年未満のものは「小杉(こすぎ)」と呼ぶ[1]。また、屋久島で植林された杉を「地杉(じすぎ)」と呼ぶが、樹齢100年以内の小杉を指す語としても用いられる。このように使い分けて呼ぶのは、主に地元で昔から生活に密着した材料であったためである。工芸品でも有名とされる。


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屋久島は、海抜高度が九州では最も高く、標高1900m近くに達する。山頂付近では、夏でも雪が降ることがある。


万九郎は、高度1500m以上の高さまで、一気にやって来た。


この高度になると、ほかに登山者は、いない。

その代わり、人間に破壊や汚染されたことのない、本物の山と自然がある。


「いよいよあっちで飯食えなくなったら、こっちに来ようかな?」


万九郎は、本気である。


二位田原1佐にシゴかれた、地獄のような年月。

それが万九郎に、確かな自信を与えている。


寝るときに、熟睡に落ちる寸前の、尾骶骨がキュッとする、あの感じ。


歩きながら、万九郎は、あの感じを全身で体現する。


クンダリーニから横隔膜、そして胃の直下へと上がってくる、右向きの回転力。


鬱蒼とした木々と葉々の微細に至る隙間まで、自分の集中力を研ぎ澄ませて行く。


大小様々な獣や魔物がいるが、今日、自分は、彼らの敵ではない。


人間の水準を超えた所まで、さらに集中力を研ぎ澄ます。


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大きな屋久杉の裏に、何かがいる。どうやら人間のようだ。


「おーい」


万九郎は、暢気に大声で呼びかけた。


返事は無い。


スッ


万九郎の目の前に、誰かが飛んで降りて来たようだ。


若い女。


万九郎と女は、正面から、じっと互いを見る。


「そろそろ、いいか?」


「自分は、万(ヨロズ)万九郎と言う者だ。屋久島には、遊びに来た」


女は、返事をしない。


代わりに、万九郎を見極めるように、じっと見ている。


「最初だから、仕方ないか」


「俺は、1人のエルフと、一緒に住んでいる」


「あんたの耳を見ると、アンタもエルフなんだろ?」


「その娘の名前は何と言う?」


「ん?ああ。セレス。セレスティーナ・ラムポア(Celesina Rampoise)だよ」


「何だって?本当なのか、それは?」


「俺があんたに、嘘を言う理由がない」


「なるほど。我が名は、ベアトリーチェ・ラムポア("Beatrice Rampoise")。その娘の、たった1人の母親だ」


############################


「セレスも、元々は屋久島にいたんだが、九州旅行に行ったときに、北部九州で逸(ハグ)れてしまってな」


「しまったって、大雑把だなあ」


「私とセレスは、精霊エルフだからな」


「精霊エルフ?」


「エルフの中で、一番偉いってことだな。ハイエルフ共も、偉そうにしてる割には、さっさと死ぬ」


「それって、どれくらい長いんだ?」


「ハイエルフは、1000~1200年ってところ。普通のエルフは、長くて600年。寿命の短い連中には、興味が無くてな。すぐ死ぬから、友達どころか、顔見しにすら、なっても虚しい」


「大変なんだな、エルフも。ところで、精霊エルフは、どれくらい長生きなんだ?」


「私たちには、寿命は無い。病気ならば早死にもあり得るが、エルフは不健康とは、全く無関係。私とセレスは、永遠に生きる」


「人間には、途方も無さ過ぎて、分からんな。暇で死にそうになるとか、ないのか?」


「エルフは、暢気(ノンキ)だからな」


「ああ」


「ところで」


「うん?」


「あなたとセレスは、一緒に生活してるのだろう?」


「ああ」


「つまり、あなたはセレスの父。ということでは?」


「ん?」


「あなたと私は、夫婦。したがって」


「?」


「セックスすべき!今すぐ!」


「何でそうなるんだ?」


「問答無用!」


その刹那、ベアトリーチェは全裸になり、万九郎の服も、脱がせに掛かる。


ほんのりと肉付きのいい身体のどこにと、これほどの、と思わされる凄い力で、あっという間に剥かれ、あっという間に・・


2人は大人の男女がすることを、やったのである。


###############


「まさか、翌日までやり続けることになるとは」


「あなたか、いい男だからよ」


「いい男と、一緒にいるの、好き。したがって」


「あなたと一緒に、生活することにした。私も、佐世保に行く」


「まあ、仕方ないか」


結局、ベアトリーチェも佐世保の自宅で生活することになり、セレスも大変喜んだ。


俺も、1週間に3日くらい、夜の生活をする相手ができて以来、落ち着いて来た。


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今日の標語


願ったり、叶ったり("Wish or come true")




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