変色涙

小林

第1話 色の涙

 僕の涙は生まれつき他の人と違う。いや、涙と言っていいのだろうか。


 小学校に入学して数ヶ月した頃だろうか。比較的社交的で、外で遊ぶのを好んでいた僕はすぐに友達もでき、ある日外で鬼ごっこをしていた。石につまづき、僕は転んでしまった。


 砂で擦れて、まだ傷の少ない丸出しの膝からはじんわりと真っ赤な血が滲んでいた。鮮血は僕の膝からどくどくと流れ出て、視覚的にも痛々しい有様であった。その膝はじんじんと痛みだんだん自然と視界がぼやけてきた。目に水が溜まる感覚がしたかと思うと、一気に土手は崩壊した。ぽたぽたと垂れる水を見るなり、一緒に遊んでいた数人の友人は世にも恐ろしいものを見るような悲鳴をあげて校舎へ走っていってしまった。広い広い校庭にたった一人きりになった僕は自分の涙を拭って初めて気づいた。


 僕の涙は青色だった。


 両親はそのことについて深くは話さなかった。ただ申し訳なさそうに「ごめんね」と謝るだけだった。


 両親が僕の異質さに気づいたのは生まれて間もない頃だった。大きな産声とともに、朱色の頬を流れたのは深い深い海の色を表す濃紺色の水だった。そんなもの初めて見た両親はすぐに病院に受診したという。しかし、現在の医療では未知のことが多く、結果は「未知の病気」と診断されたのだった。




 父や母からの学校への言及により、小学校ではそれほど酷いいじめは受けなかった。しかし、歳を重ねるごとにいやでも感受性は豊かになっていく。それに合わせて僕の水の色の種類もどんどん増えていった。


 僕が父と喧嘩したときに僕の目に滲み出たのは、燃えるような紅の赤であった。僕があくびをしたときには、自然と癒してくれるような緑翠の色。感動したときには輝く黄金色の水が溢れ出た。目に砂が入った時は邪悪な藤色。味や成分までは同じだった。ただ違ったのは色だけだったのだ。そう、色だけ。

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