第73話 協力



「そうだな。まず俺は鳴神と同じ高1のC組、能力は”衝撃”だ。衝撃波を出して攻撃できる」



仙撃が國咲としずくちゃんに向かって挨拶している。



「しょうげきは!すごいね」



 しずくちゃんが目をキラキラさせている。

完全に仙撃にハマったな。



「ありがとう!で、こいつはA組の東雲警」



仙撃が隣の男の子を指差す。



「し、東雲警、A組の中学3年生です。よ、よろしくお願いします。能力は”絶対防衛”です」


「絶対防衛?強そうだな」


「あ、ありがとうございます!鉄壁の壁を作ることができるんですよ!」


「おお、それはすげぇ!」



褒められて嬉しいのかペコペコ頭を下げている。



「で、こいつが・・・」



仙撃が自己紹介を促す。



「三島天、中学2年生のB組です。能力は”位置転移”です」


「お、うちの國咲と一緒の学年じゃん」



 國咲を見ると、

ぷいっとそっぽを向いていた。



「あ、えっと・・・僕と対象の位置を入れ替えることができるんです」


「おー、みんな強い能力ばっかりだな」



 ”絶対防御”に”位置転移”に仙撃の”衝撃”。

そりゃ腕輪4つも獲得できるわ。



「そういえば俺たちに話があるっていってなかったか?」


「ああ、そうだったな」



仙撃のチームの3人が顔を見合わせる。



「この架空世界に”超強力モンスター”がいるって話、覚えてるか?」


「もちろん。っていうか俺たち、遭遇したよ」


「本当か!?」


「ああ、この世界ではミツカミサキって呼ばれてるらしい」


「そうか・・・なら話は早い。鳴神、俺たちと一緒に超強力モンスターことミツカミサキを討伐しないか?」



 まさかの提案が飛んできた。

でも超強力モンスターことミツカミサキの恐ろしさは俺たちが一番知っている。

國咲の表情から断れ、と言うのが伝わってくる。



「もし討伐できたら腕輪を1つやるよ」



 仙撃のその言葉を聞いて國咲と顔を見合わせる。

俺たちは今、腕輪2つ。

もし腕輪を貰えればゴールへ向かえる。

それに日にちもあと2日しかない。



「本当か?冗談じゃないのか?」


「もちろん!こっちには腕輪が4つある。1つあげても何の問題もない!」



仙撃が言い切った。



「待ってください、敵を助けるんですか?」



仙撃チームの三島くんが言う。



「違う。俺と鳴神は敵の前に友達だ。それに、鳴神になら騙されてもいい」



 仙撃が言った。

その言葉には王様ゴールでの俺との経験が影響している気がした。



「でもなんでミツカミサキを倒したいんだ?」


「それはもちろん”昇格権”だよ」


「なるほどな」


「超強力モンスターを倒せばチーム3人分”昇格権”ゲット、プリントにもそう書いてあっただろ?」



 チーム3人分の昇格権。

確かに昇格権は欲しい。

でもそれ以上にミツカミサキは危険だ。



「私は昇格権に興味はありません」



 國咲がぶっきらぼうに言う。

まあA組だしな。



「そうか。うちのA組、東雲も昇格権はいらないって言ってる。残りの両チーム、B組C組で昇格権を分けよう」


「でも昇格権は3人分だろ?1人はもらえないよな」



両チームのA組の國咲、東雲くんを抜いても俺と仙撃としずくちゃんと三島くんで4人。



「だな。そこをどうするかだよな」



仙撃が悩んでいる。



「まあ、後々決めようぜ」


「ダメです」



仙撃が言ったのに対してすぐに國咲が割って入る。



「ここでうやむやにすると後々めんどくさいことになります。今ここで昇格権はどう分配するか決めましょう」


「じゃあ俺はいいよ。仙撃としずくちゃんと三島くんで分けてくれ」


「マジで言ってます!?」



國咲が驚いている。



「流石、王様ゴールのMVPを辞退するだけありますね」



呆れた、と國咲がため息をつく。



「本当にいいんですか?」



三島くんが心配そうに聞いてくる。



「大丈夫だよ!なんとかなる!」


「甘いです」



國咲が割って入る。



「あなた、C組全員で上のクラスに上がるんですよね?ただでさえ昇格権を手に入れるチャンスなんて少ないのに、そんなので大丈夫なんですか?」



 國咲からど正論が飛んでくる。

何も言い返せない。

確かに、俺は考えが甘いのかもしれない。

場が静まり返る。



「ま、まあ昇格権の話は一旦置いといて、先にミツカミサキを倒す方法を考えよう」


「そうだな。でも本当に倒せるのか?」


「倒せるさ、俺たちなら」



仙撃が自信満々に言う。



「それに2チーム合わせて腕輪は6つある。もう気づいてると思うが、腕輪には能力増進の効果がある。腕輪を6つ付ければ”覚醒”もできるかもしれないぞ」


「覚醒?」



仙撃が”覚醒”という言葉を口にした。



「知らないのか?能力者の能力を最大限まで解放するのが覚醒だ。俺たちはまだ能力の半分ほどの力しか出せていないんだよ」


「マジかよ」



 能力の半分?

今まで俺は能力の半分しか出せてなかったのか?

王様ゴール最終戦での七罪や2日前に衣笠と戦った時に”特大火力砲”が俺の限界だと思っていた。



「腕輪を6つ付けた覚醒のことも頭に入れつつ、作戦を考えたいと思う」


「実際に遭遇した私たちが思うに、小細工が通じるような相手ではないです。それにミツカミサキは能力を持っています」


「そうだな、相当な強敵だ」


「なるほど・・・ミツカミサキは能力持ちなのか」


「わかっているのは”能力阻害”だけですね。能力以外にも巨体から繰り出される強攻撃と恐ろしい速さがあります。それに獣とは思えないほどの知能」


「これはやっかいだな、でも倒せない相手ではないと思う。こっちには能力者が6人もいる。腕輪も6つある」


「・・・どう思う?國咲」



國咲に確認を取る。



「いいんじゃないですか?こちらも腕輪が1つ手に入る分にはありがたいですし。でも危険だと思ったらすぐに作戦は中止です。それでいいですよね?」


「ああ、身の安全が第一だからな」



ある程度話がまとまった。



「鳴神、さっき話した能力の”覚醒”だが、懸念点がある」



仙撃が言う。



「え、なんだ?」


「今回は腕輪を使って半ば強制的に覚醒させる。だから純粋な覚醒じゃないんだよ」


「そうなのか」



純粋な覚醒・・・



「そうだ。いわば”擬似覚醒状態”だな。でも純粋な覚醒に近い」


「擬似覚醒状態・・・・」



聞き慣れない言葉が耳に入ってくる。



「まあやってみるよ」



 今の自分の力を超える覚醒。

ワクワクもありつつ、俺は少しの不安を抱えていた。

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