第37話 ジャイアントキリング 


 ボートは今までの最高速度で七罪に向かって進んでいく。

七罪はA組の陣地の白線の前で表情を変えずに立っている。

距離は数十mだが何もしてくる気配はない。

多分、俺たちは何もできないと思って油断してるんだろう。

でもこれも作戦通りだ。


 チラッと電光掲示板を確認する。

時間はあと30秒ほど。



「仙撃!赤坂!わかってるな!」


「おう!大丈夫だ!」


「うるせぇ!わかってる!」



 ボートの先頭には流星と栗八くんと渚さんがいる。

3人ともしっかりボートに捕まっている。


 そしてボートの一番後ろに俺がいて、

その前に仙撃と赤坂が2人並んでいる。


 七罪との距離はもう20mほどしかない。

その時、七罪がこちらに手のひらを向けて何かしようとした。

すぐに流星に声を掛ける。



「流星!」



 瞬間、ボートが急停止する。

急停止したボートは慣性で前に大きく傾いた。

流星の”速度変化”の能力は速度を上げるだけじゃなくて、減速させることもできる。


 ボートの後ろにいる俺たちはボートから吹っ飛ばされる。

体が白線に向かって飛んでいく。


 仙撃と赤坂は七罪の右と左にいる。

俺は七罪の上。

作戦通りだ!

このまま七罪を飛び越えて得点する!


 しかし、俺の体はそれ以上進まなかった。

くそっ!ギリギリ届かねぇ!

手を伸ばすが白線には届かない。



「ダメだ、届かない!仙撃!赤坂!やるしかない!」



すぐに作戦を切り替えて2人の名前を呼ぶ。



「おう!」


「俺に指示するな!」



 2人が七罪に向かって構える。

もしも俺が得点できなかった時は3人で七罪を倒すという作戦だった。



「3人か、まとめて吹き飛ばしてやるよ」



 七罪が仙撃、赤坂、俺とジロッと確認して言った。

七罪が何かしてこようとする。


 次の一撃で全てが決まる。

俺と仙撃と赤坂にC組みんなの思いを委ねられた。

もう得点的にA組に勝てないのはわかってる。

それでも、1点でも取って一矢報いればC組の力を証明できる。


 真下の七罪に向かって手を伸ばして構える。

今まで貯めたエネルギーを全部解放して最大火力でぶっ放す。

全力で力を使ったことはまだ一度もない。

どうなってもいい、今はC組のために最善を尽くす。


 仙撃と赤坂が左右にいる。

2人も七罪に向かって構えている。

それぞれがそれぞれの能力の全力を解き放った。



”特大火力砲”



 3人が技を放ったと同時に七罪から凄まじい力を感じた。

技と技がぶつかり合って大きな爆発が起こる。

強い衝撃と共に意識が吹っ飛んだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 気がつくと俺は地面に横たわっていた。

あたりは砂煙が舞い上がっている。

砂煙で状況が把握できない。


 俺は今どこにいるんだ?

白線を超えることができたのか?

その時、砂煙の奥から誰かが歩いてきた。

・・・七罪だ!


 まだ試合は終わってないのか!?

七罪は傷一つついておらずスタスタと歩いている。

七罪は俺を見るとこう言った。



「C組にしてはよくやるじゃねーか」



 ニヤッと笑ってそう言うと七罪は消えていった。

途端に砂煙が晴れて視界がよくなる。

 


「ど、どうなったんだ!?」



 そう言った時、

俺がA組の陣地の白線の奥に入っていることに気づいた。

白線を超えられたのか!?

ってことは!



「おーい!大丈夫か!?」



 声と共に仙撃が駆け寄ってくる。

足を引きずって辛そうだ。

それに傷だらけ。



「お前、傷大丈夫か!?」


「いや、お前の方が俺よりやばいぞ」



 仙撃が心配そうに言う。

言われて自分の体を見てみると確かに仙撃以上に怪我をしていた。

アドレナリンが出ていたから気づいてなかったのか。

気づいた瞬間からどんどんと痛くなってきた。

そして横には赤坂が座っていた。



「くそ!七罪を倒せなかった!」



 赤坂は悔しがっている。

怪我もしているが大丈夫そうだ。



「それより鳴神!俺たちやったぞ!A組から1点獲ったんだぞ!」


「ほ、本当だよな!俺たち、A組から1点獲ったんだ!」



 仙撃と2人で抱き合う。

するとこっちに駆け寄ってくる足音が聞こえた。



「日向くん!」



突撃隊の流星たちだ!それに負傷者組のみんなもいる!



「みんな!」



C組のみんなが俺に飛びついてくる。



「すげぇよ鳴神!」「A組から1点獲ったんだ!」



みんなの喜びの声に包まれる。



「みんなのおかげだよ!俺一人じゃ何にもできなかったし!そうだ流星!それに他のみんなも!怪我はないか!?」


「僕たちボートに残った渚さんと栗八さんは大丈夫だよ!」


「神藤さんたち負傷者組も大丈夫?」


「うん!全然大丈夫!」



その時、



「おーい!」



奥から変装組の英田たちが走ってきた。



「お前たち!大丈夫だったか!?」


「いや、大変だったよ!でもそれより俺たちC組、A組から1点獲ったんだよな!?」


「ああ!すごいよな!」



 みんなで手を取り合って喜び合う。

努力が実った。

俺たちC組の存在を証明できた。



「15対1でA組の勝利です」



スピーカーからB組の先生の声が聞こえた。



「あいつら、なんで負けたのに喜んでるんだよ」



 A組の声が聞こえた。

でもA組から1点獲得したこと。

これがC組の反逆の希望の灯になった。

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