第4話 ストック 1/3

 店先をウロウロしているのは一人の若い男。スタイルもよくかなりの男前だ。短い髪の毛をセンター分けにしたスタイルは最近シェブールの若者の間で流行っているらしい。


「枯れない花が欲しいんだ。売ってないかな?」


 その若い男はアンナに向かって尋ねた。


「花は枯れるものです。枯れないことが条件であれば造花でしょうか? 当店では造花は取り扱っておりませんのでお引き取りください」


 アンナはいつものように機械的に対応する。


 この人が欲しいのは枯れない花そのものではなく、それによって伝えられる何かしらのメッセージのはずだ。それを聞き出せば生花でも対応できるかもしれない。


「どなたかへのプレゼントですか? 例えばこのストックの花言葉は『永遠の美』。いずれ花は枯れますが、花を貰ったという思い出は、花よりも長く記憶に残りますよ」


 俺が割って入ると若い男は若干不満そうな顔をする。美人の接客じゃなくて悪かったな、なんて言えないが。


「彼女にプレゼントしたいんだ。君の美しさは永遠だと。だから、枯れない花がいい。他の店には期間が短いと断られたんだ。ここがこの街じゃ一番だと聞いてさ」


「お言葉ですが、花が枯れるように人も老います。お相手は機械人形でしょうか? 人間には永遠の美などありません。それは嘘になります」


「いや……機械人形じゃないけど……嘘って……」


 若い男はアンナの言葉に少し不満を覚えたようで、若干の苛立ちを見せる。


「とっ、とりあえず店内へどうぞ! 造花の取り寄せも出来ますから! アンナ、店番をしておいてくれ」


「かしこまりました」


 アンナは眉一つ動かさずに腰を直角に曲げて礼をした。


 ◆


 男の名前はダン。彼女へプロポーズを考えているらしい。そのサプライズに添えるための花が欲しいんだとか。


「うーん……告白は明後日……ですか。造花はオーダーになるので少し時間がかかるんですよ」


「そこをなんとか! お願いします! 他の花屋にも断られたからもうここしか残ってないんだよぉ!」


 ダンは頭を机にこすりつけてお願いしてくる。


「そうですねぇ……あ! そういえば魔法使いギルドが何かやってるってこの前聞いたな……動物の剥製を作る魔法を開発したとかなんとか。ダンさん、話を聞きに行って来るので待っててもらえますか? どの花で作るのかも決めておいてください」


「どの花……見た目が綺麗な物ならなんでもいいよ。女の子が喜ぶ花とかないのか?」


「花にはそれぞれ花言葉というものがついているんです。どの花も綺麗でしょうから、見た目だけじゃなく、言葉の意味でも選んだ方が素敵ですし、女性受けもいいですよ。例えば……彼女さんのどんなところが好きなんですか?」


「そうだなぁ……顔が可愛いところかな。スタイルも良くて、胸がデカくて、目もきれいな青色で……とにかく可愛いんだ」


 見た目の話ばっかりじゃねぇか!


「そ……それだったらやっぱりストックがいいかもしれませんね。『永遠の美』という意味があります」


「ふぅん……そういうものなのか……これまでは適当にあげていたからな」


「なんで今回は枯れない花にしたいんですか?」


「結婚のプロポーズだからな。やっぱり永遠の愛とともにずっと美しくいてほしいと伝えたいんだよ」


 相手にもよるし価値観次第なのだろうが、こればっかりはアンナに同意してしまう。ずっと美しくいろだなんて、女性側からしたら好きにさせてくれ、と思う人もいるかもしれないからだ。この人達の価値観なので否定も意見もしないが。


「素敵ですね。ま、あまり期待はせずに花を選んでてくださいよ。店番をやってるアンナは口は悪いですけど、花言葉は全部覚えてるんです。『これの花言葉は何か?』とだけ聞いてもらえばいいですからね。それじゃ行ってきます」


 外套を羽織り、事務所を出て店内を抜ける。


 アンナは丁寧に包装を整え、花束を作っているところだった。なんだかんだで接客は出来ているので店番も安心して任せられる。


「アンナ、ちょっと出てくるから店番を頼むぞ。さっきの若い男の名前はダン。花を選ぶからアドバイスしてやってくれ。花言葉を教えるだけでいいからな」


「はい。かしこまりました。いってらっしゃいませ」


 アンナはまた無表情なまま腰を直角に折り曲げて俺を見送ってくれた。


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