自分勝手

鯖缶/東雲ひかさ

自分勝手

 私はいいことをするのが苦手で――嫌いだ。

 私は碌な生き方をしてこなかったから、何となく恥ずかしいのかもしれない。


 いいことをするというのは、ある程度どんな人でもプラスの評価をして貰えるだろう。

 褒められたり、あの人はいい人間なんだ、そんなレッテルを張られてしまうのは嫌なのだ。


 もしくは私はいいことなんてしないぜ、という所謂厨二由来かもしれない。


 やらない善よりやる偽善、という言葉もあるくらいだし、その点では私はやはり悪人なのかもしれない。


 しかしよくよく考えてみれば、端から見えなければその人の善性は一切認めない――そんなことを言っているのだから、かなり惨い言葉だ。


 でも確かに、私の行動が何か人のためになればとも思う。


 例えば、私が道端に落ちているゴミを拾うとする。

 しかしそれは自分の悪趣味であって、収集癖である。

 レシートを拾って、缶コーヒーを買った人がいると確認したり、アダルトな本を拾ってみたりと自分のためだ。


 自分が楽しいからそうしている。

 それが巡り巡って、人のためになっていれば、この上ないだろう。


 しかしゴミ拾いのために、ゴミを拾いたくはないのだ。


 例えば、私が書きたいと思って駄文を書く。

 そうして誰かが楽しんだり、不快になるのはとてもいいことだと思う。


 けれど人のために本を書くのはごめんである。

 とも思う。


 だが、ゴミ拾いと違って、そもそも文は人に見せる前提でもあるから自尊心の部分もあって、アンビバレントな心情で書いているのは否めない。


 そもそも私は、悪人でも善人でも、何でもない人間でいたいのかもしれない。


 空気で言えば窒素のような、日本人で言えば黒髪のような、ありふれた存在でいたいのかもしれない。


 そう思いながら誰かに指を差されそうな、自分勝手な文章を書いてしまうのだから、困りものだ。

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