果たして恋愛にゴールはあるのか、

月本みか

第1話

 小さい頃は結婚がゴールだと信じて疑わなかった。

 無邪気に将来の夢はお嫁さんだとかよくお母さんに言ってたっけ。

 懐かしいな。

 でも歳をとるにつれてその考え方は間違っていることを知った。

 浮気、不倫、DV、仮に付き合うことが出来たとして様々な問題が発生する。

 仲がいいからと言って熟年離婚というものがあるぐらいだし、何があるか分からない。

 それならば、本当に生涯を共にしたい相手なら告白しない方が吉かもしれない。友達としてなら一定の距離でずっと一緒にいられる。

 相手が家庭をもてば会える回数が格段に減るだろうが、色々な不安に駆られることは無い。

 そんな持論を彼に語ってみせた。


「その答えがこれだろ」

「確かに」


 目の前にはとある男女が肩を寄せあってネオン街を歩いている。

 気づかれないように距離を保ちつつ、すかさずスマートフォンのカメラのアプリを起動させた。

 夜ということもあり画質があまり良くないが、本人達を知っている人であればすぐに認識できるレベルだ。流石は文明の利器。役に立つ。


「何やってんの?」

「証拠集め。裁判の時有利になるように」

「お前頭いいな。後で送っといて」

「ん」


 それにしても実の父親が若い子にデレデレしているところを見ると寒気がする。しかもこれが両思いだと聞いたときは世も末かと思った。

 彼曰く相手の女性───もとい彼の母親はいわゆる枯れ専らしい。学生時代に援交経験があり、彼はその時にできた子供。彼の父親は妻帯者かつ子持ちで母親とは不倫関係にあったとか。それで最終的に大金を支払う代わりに厄介払いされた。そこは1ナノメートルぐらい同情する。ちょっと信じ難くて何回か事実確認を行ったらぶちギレられたことは記憶に新しい。

 そして現在の意中の相手が私の父親だと。侮蔑を通り越して笑えてくる。一生話のネタにしてやろうか。


「このまま私ら家族になるのかな」

「笑えねー冗談言うなよ」


 彼の母親は未だ未婚。

 私の両親は絶賛不仲。というか倦怠期もどき。結婚してから倦怠期迎えんなよ、先に乗り越えとけよって思ったけどそれは私がまだ子供だから言えることなのだろう。少なくとも離婚しても「あ、やっぱそうなった?」と返しそうな状態だ。

 生活に困らなければぶっちゃけどっちでもいい。

 なんならそうしてもらった方が形容しがたいドロドロとした気持ち悪さが薄れるはずだ。

 ただ離婚したら確実に2人は結婚するだろう。前父親のスマートフォンに『早く一緒になりたいね♡』と言うメッセージが妖美な女性のアイコンから送られてきていたのを見た。きも。


「これ俺らが先に籍入れたらどーなんだろ」

「さぁ?とりま私はざまぁみろって言う」


 それでスッキリするかは謎だけど。

 前の2人が立ち止まったので私達も足を止め電柱の後ろに隠れる。

 その時彼が私の顔を覗いた。

 念の為に変装として身につけているサングラスのせいで目が良く見えない。夜にわざわざサングラスをする必要性はあまり感じないが、妙に似合っているので放っておいた。

 仮に見えたとしても彼は無機質な目をしているのだろう。高校入学時からそうだった。だから興味を持って話しかけたのだ。


「んじゃ高校卒業したら結婚するか」

「え、成人したらでいいじゃん」

「・・・準備しとく」


 幸い2人とも休みの日はひたすらバイトをしているからそれなりにお金は溜まっているし、万が一の時には裁判を起こして貰う予定の慰謝料と共にバックれればいい。

 そう思考を巡らせているとタッチパネルを操作して部屋を選び終えた2人が建物の中へと吸い込まれて行った。


「・・・・・・寄ってく?」


 冗談まじりに彼がその建物を指さした。見るからに胡散臭い見た目。誰が使ったかも知らないベッドの上で自分を曝け出すなんて私にはできない。


「や」

「だよな」


 そうは言ったものの成人したら夫婦になるのだ。ちょっとぐらいはいいだろうと冗談半分に手を繋いでみせた。彼はビクッとしたが拒まなかった。

 繋いだ手は思いのほか馴染んで私の身体の1部になったようだ。親同士が仲がいいのだから私達の相性がいいのは当然と言えば当然か。

 それから思考が別のところに飛んだ。

 成人する日、つまり誕生日に私達は籍を入れる。つまり誕生日が結婚記念日になる。そう思うと何だかロマンティックだ。

 そんなメルヘンチックな発想は未だに浮世離れをしている彼の母親を連想させる。昔どこかで人は自分の親───女子の場合なら父親、男子の場合なら母親───と似た人を好きになると聞いたことがある。なんという皮肉。

 嫌なことを気づいたなぁと朧月を見ながらそう思った。

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果たして恋愛にゴールはあるのか、 月本みか @mikazuki-books32

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