夢見る天才少女と夢を知られた少年

引田 籠

第一章 夢

第1話

 「風すげっえ!」


 降り注ぐ雨粒が痛い。まるで小石をぶつけられているようだ。季節は梅雨の全盛期の峠を少しばかりすぎたところだろう。現在の時刻はおやつの時間を少し過ぎたところ。空は神が激怒したかのように荒れに荒れていた状況が静まりつつあるといった具合だ。俺のとなりにいるやつの予想通りといえよう。とはいえ、まだ強い。なぜそんな天候状況で外出しているかというと、“人命救助”のためだ。

 お前はどんな職業なのか? と聞こえてきそうなので先に答えておくと、俺の職業は普通の高校生だ。俺の斜め前を歩き先導しているも人命救助をする仲間であるやつも天才ではあるがたんなる女子高生に過ぎない。

すまん。台風以上に混乱をきたす情報だったな。

 しかし事実だ。場所もなんら変哲もない普通の街中だ。なら、本職の救助隊に通報すればいいというのが普通だろうし、本心をいえばそうしたい。

 けれど、残念ながらそれはできない。彼女を助られるのはこの俺、郷田源太郎ごうだげんたろうとこの牧之瀬天恵まきのせめぐみだけだからだろう。

 

 「刻一刻を争う事態だけど、安全第一、慎重にいくわよ」


 小柄で小さな胸に決意を秘めながら、レインコートを着た牧之瀬天恵は俺を戒める。  確かに急ぐ必要はあるが、二次災害はごめんだ。特に混乱はそういったものを引き起こしやすいことを俺はよく知っている。なので混乱を緩和するために俺達どうしてこうなったのかわかりやすく説明するために時間を少し戻そう。

 俺自身の混乱を和らげるためにも状況整理は有効だからついでだついで。


 

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