俺はどうすれば良いんだ!?

 志保ちゃんの家からの帰宅中は、何も考えないようにした。彼女の言う通り、考え事にうつつを抜かして事故に遭うのは避けたいからだ。


自室に戻った後は、ベッドにダイブした。夕飯まではまだ時間がある。じっくり考えられそうだ。



 由香ちゃんが俺に一目惚れか…。志保ちゃんの仮説だけど、あり得るのか? 俺は自称フツメンだが、絶対イケメンではない。そんな顔の俺に一目惚れ?


世の中には、マニアックな趣味を持っている人がいるし、由香ちゃんもその類かな? そうであれば、納得できるけど…。


いや、絶対そうだろう。俺は由香ちゃんに会ってから、一度たりともカッコイイところや頼りがいがあるところを見せていない。そう、一度たりともだ。


そんな男に惚れる女の子が、普通とは思えない。本人に聴かれたらすごく失礼なのはわかっているけど、そう判断せざるを得ない。


志保ちゃんは由香ちゃんの友達だ。だから異性を好きになるポイントも似てしまった。こればっかりは、どうしようもないけど。


由香ちゃんは、異性を好きになるポイントがズレていることを自覚しているから、志保ちゃんに俺を紹介したんだ。被る可能性を全く考えずに。



 強引だが、由香ちゃんと志保ちゃんが俺を好きになった理由はまとまった。

次は、今後の2人への向き合い方だ。


理由はどうあれ、俺に好意を寄せてくれる由香ちゃんと志保ちゃん。

そうなると、今後は今まで通りの関係は難しいはずだ。


だって志保ちゃん、さっき言ってたよな?


―――


「本当は今日中に先輩に告白するつもりでしたが、先輩は既にパンクしてますし、時間も遅くなりました。告白は別の機会にします」


―――


志保ちゃんに告白されたら、俺は必ず『YES』か『NO』を言わないといけない。

『YES』なら志保ちゃんを恋人にできるけど、それだと由香ちゃんはどうなる?


志保ちゃんと付き合いだしたら、由香ちゃんとの関係は薄まるだろう。

当然だが、逆のパターンもある。


俺は、今まで通りのの関係を維持したいんだ。どちらかを失いたくない。

けど、俺が告白に応じる気がないとわかったら、2人とも離れてしまうのでは?


2人とも離れるのは、何がなんでも避けたい。それだけ、あの2人の存在は俺の中で大きくなっている。



 一体、俺はどうすれば良いんだ?

…こういう時は、漫画がヒントになるはず。ラブコメ漫画の展開を思い出してみる。


①由香ちゃんか志保ちゃんの告白を受け、もう片方を断る


これが一番誠実だけど、できるならさっきから悩んでないな。

俺は女の子の告白を断れる自信がない。断れば、必ず悲しませるからな。



②由香ちゃんか志保ちゃんを恋人にしつつ、もう片方の関係も維持する


簡単に言うと『浮気』・『二股』状態だ。

全ては、うまく隠せるかにかかっている。


正直なところ、隠し通せる自信はない。



③由香ちゃんと志保ちゃんを恋人にして、関係を維持する


いわば『ハーレム』状態だ。これなら、は損しない。

当然の話だけど、由香ちゃんと志保ちゃんが納得するとは思えない。


うまく説得して2人に納得してもらえれば、最善の選択肢だろう。




 ①~③どれを選んでも、茨の道だ。詰んでるだろ、これ。

頭を抱えている時、携帯に電話が入った。


こんな時に電話? 誰なんだよ?

確認したら、由香ちゃんからだ。急いで出る。


「もしもし、由香ちゃん。どうした?」


「あ、服部さん。今、時間大丈夫ですか?」


夕飯の時間が近付き、いつ母さんに呼ばれるかわからないけど

多分イケるだろ。…根拠ないけど。


「大丈夫だよ」


「それは良かったです。あの…今日、志保ちゃんの家に行ったのは本当ですか?」


「え? どうして、その事を?」

隠す気はないけど、言い当てられると焦るな。


「さっき、志保ちゃんからメッセージが来たんです。【先輩を家に誘っちゃった。告白したかったけど、できなかった~ 泣】って」


告白のことまで話すとは予想外だ。志保ちゃん、手段は選ばないか。


「服部さん。明日、良ければ私の家で話しませんか?」


由香ちゃんにも自宅に誘われた。喜びたいけどできない、複雑な気分だ。


「話なら、今しても良いよ」


「直接会って話したいんです。それに、これからはちょっと…」

由香ちゃんの家も、夕飯が近いのかな? 別の用事かも?


「わかったよ。明日、由香ちゃんの家にお邪魔するね」


「はい。住所は…」

言われた住所をメモする。え? この住所付近って…。


「由香ちゃんの家って、志保ちゃんの家と近いね」


「2件隣です。それだけ近いので、私達だけでなく親同士の交流もよくあります」


ちょっと待て!? これじゃ、志保ちゃんに由香ちゃんの家に行ったことがほぼバレるぞ。だから志保ちゃんは先手を打ったのか。


「そうなんだ~。明日、楽しみにしてるね」

今の俺には、こう答えるのが精一杯だ。


「私も楽しみです。…では、また明日」

そう言って、由香ちゃんは電話を切った。



その直後、自室のドアをノックされる。

「慎一。夕飯できたわよ~」


「わかった。すぐ行く」

ギリギリセーフ。電話中に母さんの声が聞こえたら、気まずくなるよな。


明日、どうなるんだろう?

俺は不安な気持ちを抱きつつ、自室を出た。

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