第37話 白いポピーに包まれて6 sideS
大学生の頃の昴のバイト先は、若者が多く集まるバーだった。
夜の仕事の方が時給は高くわりに良い。昴の派手な見た目も性格も店の雰囲気に合っていたことも理由の一つだった。
昴のことが目当てで来る客も多かったし、昴の兄である翼にどうにかして近づきたい女性客もごく一部だが、存在した。
そのことを初めて話したのは、バイト中のことだった。その日、昴はオーナーが不在のため、カウンターに立っていた。昴や翼と同じ大学に通う女性である#麗__うらら__#が話しかけてきたのは、酒やソフトドリンクの注文が落ち着いた頃だった。
「ツバサ君って彼女いるの?この前、大人しそうな女の子と街で歩いているの見たんだけど。」
彼女は、露出度が高い黒いニットとタイトスカートを合わせている胸の大きな女だった。大学に通う時の服装は、派手であってもここまで過度な露出ではないことを考えると、ある程度の常識を持ち合わせているのだろう。彼女もまた翼に好意を寄せる女性の1人だった。
「あぁ、あれは、彼女じゃねぇよ。親戚の子。翼は、天音と仲が良いんだよ。」
「ふぅん。本当に?あんな顔した翼君見たことないけど。」
「あの顔は、あいつしか引き出せねぇんだよ。」
「はぁ、引き出せない私はまだまだ努力不足かぁ。」
そう言いながらうららは、グラスに残っていた酒を飲み干す。
「私は、どんなに別の男に言い寄られても、翼君を諦めないから。」
「翼の女は苦労するぞ……ま、俺にはどうにもできねぇ。お前、酔いすぎだぞ。明日、後悔するなよ。」
「記憶はなくなるしぃ、私の言ってることはぁ、嘘じゃない。私も天音ちゃん目指して頑張るぅ。」
昴の言うことは本心でもあった。翼は、扱いづらい。それは血のつながった兄弟ですら思うことだ。
他人とは必要最低限ほどしか話さない。かといって根暗なわけではなく、言いたいことははっきりと言い、気に入った相手としか一緒にいない。
そんな男であるから、父親と不仲であるのかもしれない。
一方で麗うららは、大学内でもそこそこモテている女だった。派手な見た目からか、ヤンチャな男からバーやクラブで声を掛けられるのは、日常茶飯事だった。
それこそ、翼に目を付けるまでは散々遊びまくっていたのだと、自身もその周りの人間も話していた。麗が、昴に話すことは決まって翼のこと、2人の親戚である天音のことだった。何度も通う麗に、昴も天音のことを気兼ねなく話すようになっていた。
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