第6話 太陽に出会う2
凛太朗は、姉と同じように私立の学校に通うはずだったが、学力面などを考え、しばらくは公立の学校に通いながら、家庭教師をつけて学力を補いつつ、日本での生活に慣れた頃に転校する形をとることにした。これは、凛太朗も同意してのことだった。しかしながら、凛太朗の姉である志緒理しおりは、このことに関しては、反対だった。
「慣れない環境で人間関係を築いて、慣れたと思ったら、また新しく築き直すなんて、合理的じゃないし、凛太朗にもストレスがかかるでしょ。」
家族4人が久しぶりに揃った場で、はっきりとした口調で言い放った志緒理に対し、凛太朗が抱いた感情は、尊敬だった。両親に対し、きっちりと自分の意見を述べているところに心が引かれたのだ。凛太朗は、姉の言いたいことは、あまり理解できなかった。凛太朗としては、公立の小学校にも通ってみたいし、私立にも行ってみたいのが本音で、人間関係についての興味が希薄だったからだ。結局、予定通り、まずは、公立の小学校に通うこととなった。
凛太朗が転校したのは、5月半ば、学年が上がるごとにある恒例のクラス替えが行われた後で、それぞれがクラスに馴染んだばかりの頃だった。日本には、3月に来ていたが、まずは日常生活に慣れるために、学校には行かないで、家庭教師と勉強を開始した。凛太朗は、日本語も話すことができたが、生活で使うのはもっぱら英語ばかりだったのでそういった習慣を変えていくことから始まった。
登校した初日、母親と最初に向かったのは、応接室だった。そこで凛太朗の担任の教師は、母親よりも年上の女性であることを知った。凛太朗の母親は、担任と面識があったようで、あいさつ程度の会話を済ませた後は、そそくさと凛太朗を担任に任せ、立ち去ってしまった。
それからは、担任の教師に登校時間や休憩時間、給食の時間など、学校の1日の流れについて、事前に準備された紙を見せられての説明があった。書かれてある漢字には、すべてふり仮名がふられてあった。凛太朗の特殊な経歴を考慮してのことだろう。会話も小学5年生にしては、易しい日本語を使われていたように凛太朗は感じた。それが終わると、気分転換と言わんばかりの校内案内が始まった。気分がすぐれない時に来る保健室や教師に用事があるときに来る職員室、始業式などのイベントや体育の授業で使用する体育館など、雑談を交わしながら、1時間程かけてゆっくりと説明を受けた。
そして、3時間目の学級活動時間に初めて自分のクラスである5年1組に足を踏み入れることとなった。教室に一歩踏み入れると、雑談の声が更に大きくなった気がした。「……来たよ。」「外人って……。」など、はっきりとした内容までは聞こえないが、話題は凛太朗に関することばかりだということはわかった。担任がクラスの児童に静かにしなさい、と言うと徐々に話し声が小さくなることがわかった。
「今日からこのクラスの仲間になる庵原凛太朗くんです。凛太朗君は、今までずっとアメリカで暮らしていて、今回、お母さんの仕事の関係で日本に初めて住むことになりました。他の学校から来た子以上にわからないことが多いと思います。皆さん、いろいろ教えてあげてくださいね。」
実際、生まれて1年ほどは日本に住んでいたのだが、そんな説明を入れるとややこしくなるので、母親があえてしなかったのか、担任がしなかったのか、凛太朗には知る由もなかった。担任の一通りの説明が終わると、拍手をするようなジェスチャーがされた。クラスの児童もそれに倣ってぽつぽつと、やがて大きな拍手となった。注目されることはある程度わかっていたが、気恥ずかしい気持ちになった。「よろしくお願いします。」そう言い、全員に向かって礼をした。
凛太朗の席は、窓際の一番後ろで、目立ちにくい席だった。3時間目は、その後、五月末にある遠足についての説明が行われた。凛太朗に注目していたクラスメイトたちは、次の話題は遠足に変わり、口々に歓喜の言葉を並べていた。
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