第62話 トモジの悩みとブンさんの秘密

 お説教すること2時間…… だと本当にイジメになっちゃうから、20分だけだよ。2人とも反省してくれてるから、もう大丈夫だと思ったんだ。


「ワシは嬉しかったんじゃぁ…… 澄也とまた会えてのぅ…… それでついつい、再会祝いの気分になってしまってのぅ……」


「私は旧友のトモジが喜んでいるのを見てついつい…… まさか一気にあおるとは思わなかったので……」


 って2人とも言ってるから取り敢えずお説教は終わりにしたんだ。そして、序にだからカーズさんに話をする前に聞いてみたんだよ。


「友爺ちゃん、ううんトモジさん。カーズ義兄にいさんに聞いて欲しい話ってどんな話なの?」


 僕がそう聞くとトモジさんが話してくれた。


「うむ、実はのワシが産まれたのはここから更に東にある、日本によく似た島国のヤパンなのだが、国の仕組みが江戸時代での。天皇陛下がおられるが国を仕切っておるのは将軍様なんじゃ。各地は大名が治めておる。ワシは四津国よつくに島のイーヨにおったのじゃが、その地を治める大名にスキルがバレてしまってな…… 慌てて逃げ出したんじゃ。ここに居るブンを頼ったのは、ブンも元々はイーヨに住んでおったからの。その頃からの知合いであり、友であったからの。ブンにはスキルの話もしておったからの。快く受入て貰ったんじゃが…… どうやら追手おってが出されたようでの…… 手を出されないようにするにはどうすれば良いかと頭を悩ませておったのじゃよ」


 うーん、コレは厄介な状況だね。僕にはある考えがあるんだけど、それだとブンさんだけが狙われるようになるしなぁ……


「トーヤ、トモジ様を領地にかくまう事を考えているんでしょう? けれどもブンさんに迷惑がかかると思っているのよね?」


 ってフェルが僕の考えている事を口に出して疑問形で聞いてきたよ。うん、そうなんだよ、フェル。僕はうんうんと頷く。すると、ブンさんが話しだしたんだ。


「さて、トーヤ様もトモジと同じ転生者のようですな。実は私もそうなのですよ。前世での名は紀伊國屋文左衛門きのくにやぶんざえもんと申します。おお、その顔はご存知のようですな。私は江戸時代からやって参りました。この世界でもやる事は変わりなく、材木問屋を営んでおりますが。私とトモジはコチラでは同じ年に産まれましてな。お互いに前世の記憶が戻ったのも5歳の時でした。

私もトモジもそれなりに役に立つスキルを授かりましたが、イーヨを治める大名のダウテ・ムネチカ様に先ずは私が目をつけられまして…… 20歳になった時に両親も亡くなりましたので、ナニワサカイ国に逃げてきたのでございます。幸いにしてこの国のルソン国王陛下とアカネ王妃殿下に良くしていただきましてな。この通り商いも上手くいっておる次第です。

問題はトモジでございまして…… トモジのスキルは近ごろまでバレておらぬかったのですが、ある商人と取引をしている場面を隠密に見つかってしまいましてな。ダウテ様に目をつけられてしまったのです。それで私を頼ってこの国までやって来たのですが、隠密もついてきてるようでしてな……」


 そこでブンさんが言葉を切ったので僕は勢い込んで尋ねたんだ。


「ブンさん! ブンさんが若い頃に紀州から命がけでミカンを運んだって話があるんだけど、その話って本当なの?」


 僕の質問にブンさんは笑った。


「ホッホッホッ、トーヤ様もトモジと同じ事を聞きますな。トモジも前世の記憶が戻った時に一番にその質問をしてきましたぞ。さて、ご質問の答えですが、ご想像におまかせ致しますとお答えしておきましょう」


 はぐらかされたよ。前世では実話ではないって言われてたけど、僕は信憑性しんぴょうせいがあるって思ってたんだけどな。


「トーヤよ、ワシも教えて貰っておらんからの。まあ諦めるんじゃな。それでだ、頼ったブンに迷惑をかける訳にもいかんから困っておるんじゃ。この国の貴族様を通じて王族の方に手助けを頼もうかとも思っておったのじゃが…… 如何いかんせん、ナニワサカイ国とヤパンは海をへだてているとはいえ近い。160キロほどしか離れておらんからのう…… 転移魔法を使える者も多くおるしの。まあ、一度に転移出来る距離は30キロぐらいらしいが……」


 僕はフェルと顔を見合わせた。僕もフェルも同じ気持ちだと悟った僕はトモジさんに言ったんだ。


「トモジさん、良かったらサーベル王国の僕の領地に来ない? 僕の領地なら隠密も入れないよ」


「何と! それは本当か? トーヤよ」


「うん、僕の領地には不審者は絶対に入れないからね。門で身分証明書の確認をしてるんだけど、偽造されてるのはどんなに精巧な物でも見破る魔道具が置いてあるんだ。だから、大丈夫だよ」


 僕はそう言ったけど、トモジさんもブンさんも難しい顔をしている。


「トーヤよ、既に忘れておるかも知れんが前世におった忍びの者、つまり忍者の中には【草】と言って何年もその地で過ごし、いざ事を起こすまではその地の住民になりきる者がおったであろう? ヤパンの隠密も同じでな。その地の身分証明書をちゃんと取得しておるから、見破れんと思うぞ」


 トモジさんがそう説明してくれたけど、フェルが説明してくれたよ。


「トモジ様、トーヤの作った魔道具はその者の真の職業や生業なりわいあばきますので、その心配は無用ですわ」


「何ともはや、凄い魔道具じゃな…… トーヤはさてはワシよりも【ちーと】なスキルを持っておるようじゃな。フム…… トーヤに迷惑をかけるかも知れぬが、構わなければ厄介になろうかの。良いか? ブンよ」


 問われたブンさんも嬉しそうに言う。


「勿論じゃ、トモジよ。サーベル王国ならば国王陛下に頼めば何時でも連れて行ってくれるからの」


 そうして、僕たち4人での話合いは終わって、トモジさんはうちの領地に匿う事になったんだ。


「あ、そうだ! 言い忘れてたけど僕が喋れるのは内緒にしておいてね。知ってるのはフェルだけだから。他の人には内密にお願いします」


 僕がそう頼むと、トモジさんは懐かしそうに言った。


「前世のトーヤも幼い頃しか知らぬが、喋らん子だったのう。また、今世でもあまり喋っておらぬのか?」


「うん、そうなんだ。まあ、産まれた時にベラベラ喋ると危険だと判断して、喋らずにいたらみんなが僕は喋れないって思ったんだけどね。でも、フェルには嘘は吐けないから打ち明けてあるんだ。もう暫くは他のみんなにも内緒にしておきたいから、お願い」


「ホッホッホッ、分かりましたぞ」

「ウム、分かったぞ。トーヤよ」


 2人の返事を聞いてから僕は魔法を解除した。そしたらちょうどラウールさんが目覚めたって知らせて貰えたから、4人揃ってラウールさんが休んでいる部屋に行ったんだ。


 トモジさんとブンさんが土下座して謝るも逆にラウールさんが


「あんなに美味しいお酒は初めてでした。今度は一気に煽るような勿体無い事はしないので、またご馳走して下さい!」


 何て言うもんだから、トモジさんが調子に乗りそうだったけど、僕とフェルが目で威圧したら大人しくなったよ。

 全くもう!


  

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