第61話 トモジの爺さん
僕の
「どうやら、合ってるようだなぁ。懐かしいな、元気にしてたんか? ん? ひょっとしたらワシの事が分からんか? まあ
最後の言葉で僕の脳内に記憶が蘇ってきたよ。前世で3歳〜4歳頃まで遊んでくれていた、隣に住んでいた
………
鮮やかに甦った記憶が脳内で再生される。
『おお、今日も来たんか、澄也よ。今日は何のお話をするかのう…… そうじゃ!
そう言って自作の紙芝居を押入れから取り出す友爺ちゃん。僕は爺ちゃんの紙芝居をワクワクしながら聞いて、見ていたっけ…… 友爺ちゃんも喋らない僕の表情を読んで色んな紙芝居を作ってくれたなぁ。最後はいつも『目出度し、目出度しじゃな』で終わる紙芝居。
そんな爺ちゃんが亡くなったのは僕が5歳になる前だったよね…… あの時は悲しくて悲しくて……
母親にもう友爺ちゃんには会えないって言われて声を押し殺して一晩中泣いたんだっけ。そして、余りに悲しすぎて…… 今まで無意識に記憶を封印していたようだよ、直ぐに思い出せなくてゴメンね、友爺ちゃん。
………
「ん? おお、その顔は思い出してくれたか? 良かったわい。ああ、泣かんでもいいぞ。いつでも会えるからの。コッチではトモジと名乗っておるからの。また、よろしくの。ん? 何で澄也じゃと分かったかって? それはな、後で教えてやるわい。それよりもブンに話があるんじゃろう?」
知らない間に涙が溢れていたようだよ。フェルがそっとハンカチを差し出してくれたよ。
友爺ちゃん改めトモジさんが僕たちに先に話をするように促してくれたから、僕は昨日の内に書いていた紙をブンさんに差し出したんだ。
【初めまして、僕の名はトーヤと言います。隣に居るのは婚約者のフェルです。そして、もう一組の方はラウールさんとその婚約者のサハーラさんです。僕たちはサーベル王国から来ました。実は僕たちの領地に温泉が湧き出ていて、今は石で作った浴槽を利用しているのですが、ナニワサカイ国では木の浴槽が一般的だと聞きました。そこで、浴槽用に使用されている木材を見てみたいと思い、訪ねさせていただきました】
僕の差し出した紙を読んだブンさんは丁寧にお辞儀をしながら僕たちにこう言ったんだ。
「遠路はるばるようこそお越し下さいましたな。わしがこのキノクーニャ屋の
そう言って立ち上がったブンさん。そしてトモジさんも立ち上がると、
「どれ、ワシも見させて貰おうかの」
と言ってついてきてくれるようだ。良かったよ。トモジさんの意見も聞きたかったしね。経験豊富な年長者の意見は大事だからね。僕たちは連だってブンさんの後を着いていった。
連れて行かれたのは倉庫兼作業場だったよ。
「さて、コチラにございますのが伐採して乾燥も終わっておる木です。コチラがスギヒノで、コチラがタカノマキ。更にコチラにあるのが少し安価なサンワラです。サンワラは安価と言いましても耐久度はスギヒノやタカノマキとさほど変わりませんぞ。香りがスギヒノやタカノマキのように無いだけでしての。カビにも強い木です。けれども、ここぞという場所にはスギヒノやタカノマキがオススメです」
そしてそのまま作業場に入っていくので着いていくと、職人さんを1人呼び出したブンさん。
「この者は私の孫でございましてな。それでも既に10年、この作業場で仕事をしております。
そう紹介された職人さんが自己紹介をしてくれた。
「ここに居るキノクーニャ屋の
ブンゴさんは丁寧に腰を折ってそう言った。早速、ラウールさんが質問を始めた。
「あの、私どもの母国のサーベル王国では、木で浴槽を作るという事がどうにも不思議でして…… 木で作って水漏れしたりはしないのでしょうか? それに、木に湯が染み込んでしまうのでは?」
「先ずは水漏れの件をご説明致します。コチラをご覧下さい」
そう言ってブンゴさんが取り出したのは木と木を釘や
「この組み方をしておりましたら、木と木が互いを塞ぎ合うようになりまして、水を入れてみますね」
とブンゴさんが水を入れようとするとそれをトウジさんが奪って、
「こんな見事なもんに水なんぞでは勿体無い! ワシが
ってラウールさんに言ったんだ。トウジさん、ラウールさんもお貴族様だからね。言葉遣いに気をつけてね。って、ラウールさんは言葉なんか気にならないみたいだね。トウジさんが清酒を枡につぐのをジッと見てるよ。
「どうじゃ! 持ってみい、若いの。そして飲め!」
トウジさんに清酒が入った枡を手渡されてオズオズと手に取るラウールさん。ブンさんは笑顔で見てるよ。
「本当だ! 一滴も水漏れしてない……」
感心したように言うラウールさんに、ブンゴさんが言った。
「浴槽もこれと同じ組み方です。コレで水漏れの件についてはご納得いただけましたか? 次に湯が染み込むとの事ですが、無垢材ですと確かに染み込みますが、それにより底面や横面から染み出る事はございません。但し、無垢材の場合は手入れが大変なので、殆どの場合は非常に薄いウチの独自の天然樹脂コーティングを施した物をオススメしております。木の香りは邪魔しませんので、スギヒノやタカノマキの香りは無垢材と同じように香ります」
ブンゴさんの説明に僕は嬉しくなったよ。やっぱりあったんだね、コーティングが。
「なるほど! そうなんですね。そのコーティングした物を見せて貰う事は可能でしょうか?」
ラウールさんが再度ブンさんに言った時に、トモジさんが言う。
「まあ、待て。落ち着け、若いの。先ずはワシの注いでやった
言われてラウールさんは一気に煽る。
アッ! と思ったときには遅かったよ…… そのまま顔を真っ赤にしてラウールさんは倒れてしまったんだ。締りのない笑顔なのが救いだったよ。
倒れたラウールさんを慌てて支えたブンゴさんが、トモジさんに言う。
「飲み方も教えてやらないとダメじゃないか、トモジイ。ぶっ倒れてしまったぞ。ああ、お嬢さん、安心して下さい。慣れてないのにお酒を一気に煽ってしまったので急激に酔いが回っただけです。私が休める部屋にお連れしますので、どうぞご一緒に」
そうしてラウールさんはブンゴさんによって運ばれたんだけど、このままじゃいけないよね。僕はトモジさんとブンさん、フェルを連れて先程ブンさんがいた部屋に入ったんだ。カーズ
僕は部屋に防音と認識阻害をかけた。そして、
「友爺ちゃん、ダメだよ。ラウールさんは成人してるけど、まだ15歳なんだから! ブンゴさんも言ってたけど飲み方もちゃんと教えてあげないと! それと、ブンさんもだよ! 友達なら友爺ちゃんを止めてくれないと!」
僕が少し怒った風に言うと2人の老人は項垂れて反省してる様子になったんだ。更にフェルも追い打ちをかけた。
「お2人とも、尊敬されるべきお方なのでしょうけど、強要するのはよろしくないですわ。ラウール様もサーベル王国の伯爵ですのよ。外交問題に発展しますわ」
更にがっくりとうなだれる老人2人……
何だか僕とフェルがイジメてるみたいになっちゃったよ…… でも、ちゃんと言っておかないとダメだと心を鬼にして、僕とフェルはお説教を続けたんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます