第46話 ナニワサカイの国王陛下

 さすがのフェルちゃんもセバスもビックリ仰天の顔をしている。僕も似たような顔だろうと思う。そんな僕達に今度は姉さんが言ったんだ。


「トーヤ、心配しなくても大丈夫よ。アチラの小屋は何かしら? そう、物置なのね。それじゃそこにベッドを1つ置いて差し上げて。陛下はそこでお過ごしになるから」


 いや、姉さんまで…… ちょっと待ってください、僕には何が何だか……



「コラコラ、セティナ。お前までそんな事を言うのか! カーズと出会えたのは私のお陰だと言うのに!」


「ええ、そうでございましたね。25歳にもなって、お子様もおられるにも関わらず、他国を見てみたいとワガママを仰って、年齢的に無理だと断られたのにこの王都の学園に無理やり編入され、見目麗しいご令嬢方を口説いては振られておられた陛下のお陰なのは間違いございませんわ」


 はい、アウトですね。この人が国王陛下で大丈夫なんですか? ナニワサカイ王国は? 


「なっ! 口説いてなどおらぬわっ! ただちょっと外のカフェでお茶でもご一緒しませんか? ってお誘いしただけだろうにっ! そのお誘いに乗ってくれる令嬢が居なかっただけだっ!」


 いや、世間一般(この世界でも)ではそれを口説くって言うんですよ、陛下……


 僕は内心で本当に呆れながらもセバスに合図を出して、皆さんを屋敷に招いたんだ。

 そして、先ず一番初めに気になった、今の名前で呼ぶ事にしたジーク兄さんの黒髪黒目を目で問いかけてみたんだ。


「ああ、トーヤも気になるよな。私の場合はハレが言うには産まれた時は髪の毛が無くてツンツルテンだったそうだ。で、目も今ほど黒くなかったらしい。茶色が強かったと言う話だ。それから、1歳、2歳までは生えてきた髪も茶色だったらしいが、2歳から3歳にかけて段々と黒髪黒目になっていったんだ。それにいち早くハレが気がついてくれて、目はどうしようも無かったけど、髪は染料を使って茶色に染めてくれていたんだ。黒目だけだと忌み子とは言われないってな。もしも、ハレが居なかったら私は2人の兄に亡きものにされていただろうと思う。茶色髪でも黒目だという事でテルマーとザラスにはイジメられていたからな」


 そこでハレが言ったんだ。


「ジーク様、お二人とも今はその報いを受けておられますよ」


「ああ、聞いてるよ、ハレ。そのお礼も含めてトーヤには会いたかったんだ。それに、温泉が領地にあるんだろう? ナニワサカイ王国にも温泉があるけど、王都からは遠くてね。妻を連れて行きたかったんだが、中々王都から出してくれない人がいてな……」


 そう言ってルソン陛下を見るジーク兄上。


「だから、今回はちゃんと許可を出してやっただろう? 条件はつけたが」


「そうですね、陛下。自分を連れて行け、王妃殿下と王太子殿下に自分が行く許可をとれ説得しろっていう臣下に言うには非常に面倒な条件でしたね。お陰でセティナにまで出張でばってもらい、お二人を説得しましたよ」


「うんうん、優秀な臣下が居てくれて我が国は安泰あんたいだな」


 うーん、国名の割に訛りがないから関東漫才を見てる気分になるね。


「そう言えば陛下」


 とカーズ義兄にいさんがルソン陛下に語りかけた。


「ん? 何だ、カーズ?」


「王妃殿下は既に、ッ!、 ど、どうしたの? セティナ!?」


「貴方ったら、またこんなにクッキーをこぼして、ダメでしょ、今は」


「あ、ああ、そうだったね。陛下、スミマセン。僕は勘違いしてたようです。それで、トーヤくん、領地に向かうのは明後日なんだよね?」


 唐突にカーズ義兄にいさんにそう聞かれて僕は首を縦に振ったけど、何かあるのかな? 姉さんもいきなりカーズ義兄にいさんの手を叩いてクッキーを落とさせてたけど……


「ん? 何だ、勘違いか? お前は若い頃から変わらんなぁ。まあ、セティナにとってはそこが最大の魅力らしいが……」


「フフフ、そうですよ。陛下。主人はそこが魅力的なんです。それに、陛下も初めてお会いしてから、全然変わっておられません成長してませんわ」


「スマンな、セティナ。人妻は範囲外なんだ」


 ほんっとうに、この人が国王で大丈夫なんですか? ナニワサカイ王国は? その意を込めてジーク兄さんを見ると、僕の意が伝わったのか


「ああ、心配ないぞ、トーヤ。我が国は王妃殿下と王太子殿下、そして優秀な臣下で政務を行っているからな。陛下は飾り物だと思えばいいんだ」


 そう僕に教えてくれたよ。


「オーイッ、ジークー? ココに本人がいるのにその言い方は傷つくぞーっ!!」


 うん、日常会話なんだろうね。で、いきなり陛下はナーガを口説きはじめたよ……


「そこの美しい侍女さん。良かったら私と一夜のアバンチュールを楽しまないか?」


 陛下にそう誘われたナーガは、アッサリと返事を返したよ。


「申し訳ございません。私を含めた私ども、ハイナイト伯爵家の侍女はトーヤ様、フェル様、リラ様、シン様の親衛隊でございますので、他の方が割って入る余地はございません。悪しからずご了承下さいませ。もしもお口説きになられるのでしたら、15歳以下にそのお姿を変えてお願い致します」


 えっと、シンくんも入ったんだね…… それは知らなかったよ。


「トーヤくーん、君のところの侍女さんはオジサンに冷たいね〜……」


 ジト目でこっちを見ないで下さい、陛下。オジサンのジト目に需要は無いですからね。


「トーヤ、フェルちゃん、見ちゃダメよ。目が腐ってしまうわ。貴方、2人の視界からあの汚物を隠して!」


 セティナ姉さんの言葉にカーズ義兄にいさんが即座に動いた。


「勿論だよ、セティナ。 さあ、陛下、お部屋に行きましょうか! ハレさん、先程の物置の準備は? あ、もう整っていますか、流石です。さあ、参りますよ、陛下!」


「いや、待てーいっ! 本当にあの物置なのか!? 私の部屋は? ココに明日も滞在するけど、あそこなのか? トーヤくん、何とか言ってくれー」


「陛下、僕の義弟おとうとは喋る事が出来ないのに、そんな事を言うなんて…… さあ、イヤだと言っても無駄ですよっ!! 僕は怒りましたからね。明日の朝まで確りとあの部屋で反省してください!!」


「ノォーーーーッ!!」


 そうしてルソン陛下は物置にドナドナされていったよ。可哀想だから、2時間後には出してあげようと思う。 


 それから、帰ってきたカーズ義兄にいさんを交えて、ガルン伯爵家を紹介して楽しいひとときを過ごしたんだ。気がついたらお昼どきだったよ。

 あ、ルソン陛下を忘れてたよ…… 2時間後って思ってたのに3時間半になってるや。

 ま、まあ、今から行けば大丈夫だよね?

 

 




 

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