第38話 おもてなし(夕食)と泉の説明
戻ってきた僕は早速、公共所の裏に向かう。ローレン村長から承諾を貰い、屋根付の建物を出す事にしたんだ。
道具箱に入ってる大型倉庫を出したよ。これで雨の降る日でも集まる事が出来るよ。
突然出てきた倉庫に近くにいた人たちが驚いていたけどね。
ローレン村長は感謝してくれたよ。まあ、レイさんが無事に戻ってきて嬉しかったのもあるみたいだけどね。
「領主様、本当に有難うございます。公共所の中にも村人全員が入れますが、一同に会する広さの部屋が無かったので…… ここならば村人全員が入ってもまだ余裕がありそうです」
ニコニコ顔のローレン村長を見て、出して良かったと思ったよ。
次に出すのはバーベキューコンロだ。そう、夕食はバーベキューなんだよ。ロイヤルファミリー用にはちゃんとテーブルと椅子をセットして、僕たちを含めて他の人たちは箱馬と簡易テーブルだよ。やっぱりバーベキューっていう雰囲気が大切だからね。
僕の変なこだわりかも知れないけど……
お肉はライくんの家に頼んで解体してもらった畜産農家さんから買ったウシと、イノブタだよ。これは絶品だと思うんだ。前世では霜降りが流行ってたけど、前世では年齢を重ねると共に牛の脂が胃にもたれてしまって…… それで、今世の僕も赤身大好きなんだよね。丁寧に飼育された赤ウシだから全ての部位に肉の旨味が凝縮されてるんだ。
お酒はワインだけ出す事にしたんだ。今世にもエールがあるけど、前世のビールとは風味も味も格段に劣るからね。ワインは今世のワインも前世のワインに負けてないんだ。え? 飲んだのかって? 料理をする上で必要だったからちょっと舐めただけだよ。
赤ワインを今回は樽で出すけど、樽の中身は冷えるようにしてあるんだ。魔石を利用してるんだよ。
準備も整ったからローレン村長にお願いして村人に集まってもらったんだ。今回はフェルちゃんじゃなくロッテンと打合せをしてあるんだ。ロッテンは呪われた泉の件でとても驚いていたけど、その効果を知ってヤル気になったみたいだよ。
何でフェルちゃんじゃないのかって? 勿論、サプライズだよ。温泉について知って、利用出来るようになった時に、フェルちゃんがこの領地に通い詰めにならないか心配だけどね。まあ、それはサラディーナ様にも言えるんだけど。
村人全員が集まって、最後にロイヤルファミリーが入ってきたから、先ずはサラディーナ様に挨拶をして貰おう。
「トーヤくん、私たちの前にはコンロが無いようだけど…… もしかしてお預けなのかしら?」
違いますよ! 僕は首を横にブンブン振って違うという事を示す。
「ヨロスやヨーナも自分たちでやってみたいって言ってるから、私たちの前にもコンロが欲しいわ。もちろん、侍女に確りと見てもらいながら焼くから、お願いね」
それじゃコレを使用してくださいと僕の前にあったコンロをロイヤルファミリーの前に持っていった。炭も丁度いい状態だし。
アレ? サラディーナ様、挨拶は?
「私が長々とお話したらみんながゆっくり食べられないでしょう。だから、後はトーヤくんにお任せするわ」
はい…… 了解しました。僕はロッテンの所に行って横に立つ。
「それでは、昼食時に言った通りに領主様からの夕食を皆さんどうぞ頂いて下さい。ワインはアチラの樽から注げます。また、子供たちにはジュースを、お酒が飲めない方にはジンジャーエールや、お茶なども用意しております。ざっくばらんに自分たちで焼いて飲んで食べて下さいね。それから、手短にですが皆さんが呪われた泉と言っている場所についてご報告致します」
そこでロッテンは一旦言葉を切った。そして、僕が魔法で倉庫の壁に温泉についての説明を映し出したんだ。そのまま壁に定着させたよ。そして、ロッテンが説明を始めたんだ。
「アチラの壁に呪われた泉についての説明があります。文字が読める方は後ほど好きな時間にジックリとお読み下さい。今から簡単に説明致しますと、呪われた泉は東方の国で良く見られる温泉という泉である事が視察に行かれた領主様によって判明いたしました。2つともです。この村から近い方は弱アルカリ性単純温泉といって、皮膚の古い角質いわゆる皮脂汚れなどを落とす効果があります。また、その温泉から西に行った所の温泉は塩化物泉といい、保温と保湿に優れ、切り傷などにも良い温泉です。但し、泉の温度は人が入れる温度ではないので、それらをパイプを通してこの村に引き込み、それでも温度が高い場合は冷ます工夫を凝らして、皆さんにも利用して貰おうと領主様は考えております。更に、施設を作り、王都からや、旅人に立ち寄って貰えるような村作りを目指そうと思っております。施設を作ったりと時間はかかりますが、皆さんの生活を豊かにする為に領主様は考えております。もちろん、確りと皆さんと話合いを行って決めていく所存です。また、女性に朗報ですが、弱アルカリ性の温泉に入ってスベスベ、ツルツルお肌を手に入れた後に、短時間塩化物泉に入ると保湿されますので、非常に美肌になる事をここにお知らせ致します。皆さん、この新しい試みを領主様の指導のもと、頑張って作り上げて行きませんか? もしも賛同して頂けるなら拍手を持ってお返事いただければと思います。よろしくお願いします!」
ロッテンの少し長い話が終わった。けど、拍手の音がしない…… やっぱり呪われた泉って言われてたぐらいだから、直ぐには無理なのかな?
そこで僕は汲んで冷ましておいた2つのお湯を桶に入れて取り出したんだ。先ずはフェルちゃんを呼んで、桶に右手を入れて貰った。弱アルカリ性単純温泉の方に手を入れて1分。フェルちゃんがお湯から出した右手を左手で撫で回す。
「まあ!! 本当にツルツルスベスベになりましたわっ!!」
そのままその右手をもう一つの桶に入れて貰う。30秒で出して貰ったけど、フェルちゃんの声が倉庫に響いた。
「ツルツル感は無くなりましたけど、スベスベ感が残った状態でシットリ感がプラスされましたわっ!! 凄いです!」
フェルちゃんのその声にサラディーナ様が弱アルカリ性単純温泉の湯に無造作に右手を入れる。そして、
「キャーッ!! 凄い、凄い!! コレは素晴らしいわっ!!」
大声を上げて次に塩化物泉の湯に手を入れて、スベスベ、シットリを感じてウットリとした顔で言った。
「ほら、そこの貴女。貴女もやってご覧なさい!」
王妃殿下のご命令だ。おずおずと一人の女性(30代)がお湯に手を入れる。そして、
「あらまぁ!! 私の手が!! こんなにっ!?」
驚愕の声を上げて、隣にいた他の女性に自分の手を差し出した。触った女性も目を見張って自分もお湯に手を入れる。そこで、ロッテンが声を出したんだ。
「このお湯はここに出しておきますので、試したい方は順番に試して見てください。また、切り傷や擦り傷がある方は、コチラのお湯だけに手を入れるようにしてくださいね」
と塩化物泉のお湯を指差して注意したんだ。
「後ほど、また賛同してくださるかどうかをお聞きしますので、よろしくお願いします」
で、今僕とフェルちゃんはサラディーナ様の目の前に居る。ヨロス様と
「さて、トーヤくん。温泉には王家も1枚噛ましてくれるのかしら?」
いや、あの、僕が賜った領地にある温泉ですよね…… 僕が返答に困っていたらサラディーナ様が言った。
「クスクス、あのね1枚噛ましてって言うのは、施設を作る費用などを王家も負担するから、施設を作る際に王族が専用で利用出来る場所を設けて欲しいって事なのよ」
あ、そうでしたか。それならば勿論です。費用を出して頂けるならちゃんと作ります。
僕の納得顔を見てサラディーナ様が嬉しそうに笑った。
「ウフフフ、これで温泉に入り放題だわ!」
うん、ちゃんと国王陛下のお手伝いや国務もしてくださいね…… ちょっとだけ僕は先に心配した事が現実になりそうだと、心の中で陛下に頭を下げたんだ。
「トーヤ様、私も好きな時に入れる様にしたいです!」
フェルちゃん、ちゃんと考えるからね。施設が出来るまでは辛抱してね。
そして、宴もたけなわな時にロッテンが賛同者について聞いたら、満場一致の大拍手が巻き起こったよ。さあ、学校に行きながら色々と設計したり打合せしたりしなくちゃ! 忙しくなりそうだね。
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