第22話 リラの災難

 私はリラ。冒険者養成学園に今年から通い始めて一週間になるんだけど……


 誰かこのボク様を止めてー!!


「オイ、リラ! ボク様の横に座るんだ!」

「リラ、何してる? 次の課外授業に行くぞ!」

「シン、貴様!! ボク様の婚約者であるリラに手を出すな!」


 いえ、私は〜、ボク様の婚約者になった覚えはないよ? ダイルマー侯爵家から打診があったけどトーヤがキッパリと断ってくれたんだから!!

 もう一家、サカキ侯爵家からの婚約申込みは私が頼んで保留にして貰ってるけど〜。

 大体、私はボク様の名前も知らないんだし、勝手な事を言わないで欲しいなぁ。シンくんも頑張って盾になってくれてるけど、何故かシンくんが居ない時を狙ってやって来るんだよね〜……


 そして、遂にシンくんがキレちゃったよ。


「オイ、ボーク! 貴様からの婚約申込みは既にログセルガー公爵家から断りの返事がきた筈だぞ! それなのに何で貴様はリラさんの婚約者面をしているんだ!! 貴族としてあるまじき態度だぞ! それ以上リラさんに付き纏うと言うなら、僕も容赦しないぞ!」


 初めて名前を知ったよ〜。ボク様はボークって言う名前なんだね。さすが、シンくんだよ。さり気なく私の知らない情報を教えてくれるなんて。


「何をバカな事を言ってるのだ、シン? ボク様が婚約を申し込んだのはログセルガー公爵家じゃなく、リラだ。リラ自身から断りの言葉が無いならそれは承諾したと言う事になるだろうが!」


 あー、このボク様って本当のおバカだったんだー。普通は自分の家より家格が上の家から断りがあったら従うのが貴族の常識だって、貴族じゃない私でも分かるのにね〜。

 ほら、シンくんも呆れてるよ〜。


「ボーク…… 貴様、バカだろ?」


「ナニーっ!! シン、貴様! このダイルマー侯爵家始まって以来の秀才と言われるこのボク様をバカだと言うのかっ!!」


「ならばその秀才様に教えてやろう。リラさんはログセルガー公爵家五男であるトーヤ様にお仕えしている身だ。つまり、そのトーヤ様から正式に断りが来た時点で、それはリラさんが断ったのと同じだと言う事になるんだ! 僕の言ってる事が理解出来るか?」


 シンくんの言葉にワナワナ震えているボク様だけど、出てきた言葉にはビックリだよ。


「シン、貴様ーっ! 貴様はいつもそうだ! 何故いつもボク様の邪魔をするっ!! ボク様はリラを手に入れて、もう少し大きくなったらあんな事やこんな事をして、飽きたら貴様に払い下げてやるつもりだったのにっ!! 貴様はいつもボク様の完璧な計画を台無しにする!! もうそれも今日までだっ!! 今日、貴様との因縁に決着をつけてやるっ!!」


 ハァ〜、ボク様って本当にバカだね〜…… 私は物じゃないし、好きでもない子にあんな事やこんな事をされる訳が無いのに。


「良いだろう、僕も貴様の言動にはいい加減ウンザリなんだ。今日、この場で決着をつけてやるっ!」


 男子二人が勝手に盛り上がってるけど、ゴメンねぇ。私は自分の事は自分で決着をつける事にするよ〜。


「ちょっと待って! 私は自分よりも強い人じゃないと婚約も結婚も、あんな事やこんな事もしないよ? だから、ボークくんがどうしてもって言うなら私と勝負して勝たないとダメだよ? 私の言ってる事が分かるかな?」


 私が二人に割り込んでそう言うと、何故か嬉しそうに笑って言うボク様。


「何だ、そんな事で良かったのか? 簡単じゃないか。ならばリラと勝負してやろう。ボク様が勝ったらリラはボク様の奴隷婚約者になるのだっ!!」


「うん、もうそれで良いよ…… 私が勝ったらもう関わりにならないでね。誓約書を明日、作ってくるから勝負は明日だよ。それを約束出来ないなら、今すぐ私に関わるのを止めてもらうから」


 私の言葉にボク様はアッサリと承諾して帰っていった。残ったシンくんが私を心配して言う。


「リラさん、大丈夫? ボークはどんな手を使ってでも勝とうとしてくると思うけど……」


「大丈夫だよ、シンくん。明日は私の師匠にも立会に来て貰うから。それよりもシンくんもだよ。私よりも強くならないと婚約は受けられないからね」


 私の言葉にシンくんは顔を赤くしながら言った。


「わ、分かってるよ。でも、僕の方は断りの連絡が来てないから、可能性はあると思ってるんだけど……」


「うん、お返事は保留にしてあるよ。だから、頑張ってね。そうだ、シンくんも明日は見に来てね。私の実力を知るいい機会だと思うよ」


「勿論、僕も立ち会わせてもらうよ」


 そして、翌日になって、場所が何故か私が住むトーヤのお屋敷のお庭になったよ。私の話を聞いたトーヤが凄く怒っちゃって、そんな奴と勝負する必要は無いって言うけどもう約束しちゃったからって言うと、セバスさんを通じてダイルマー侯爵家に連絡を入れて、対戦場所をここに決めたんだ〜。


 それでも意気揚々とやって来たボク様には私もある意味で感心したよ〜。そして、シンくんもちゃんと来てくれたよ。シンくんは来るなりちゃんとトーヤに挨拶をしたんだ。


「トーヤ様、初めまして。この度は立会を認めて下さり有難うございます。ぼ、私はサカキ侯爵家の三男でシンと申します。今後とも良きお付合いをよろしくお願い申し上げます」


 そう言って頭を下げたシンくんをトーヤは複雑な表情で見てたけど、何とか折合いをつけたみたいで、紙に書いて返事をしたよ。


『初めまして、シンくん。リラは僕にとって姉と言っていいほど大切な人だから、素直にシンくんと打ち解けないと思ってたけど、こうして出会って挨拶を受けて、シンくんなら良いかって思えたよ。家格としては僕の方が上になるけど、プライベートで会う時は同い年だし、僕の事も友だと思って接してくれると嬉しいな』


 トーヤの返事を見てシンくんは恐縮していたけど、私がトーヤがそう言うなら大丈夫だよって教えて上げたんだ〜。そこにボク様が割り込んできた。


「オイ、随分と立会人と親しそうだな? 不正は許されないぞ!」


 本来ならば、家格が上のトーヤに先ずは挨拶をするのが常識なのに、それすらしないなんて…… 付いてきてる家臣もボク様を咎めだてしないし。むしろ家臣たちはトーヤ親衛隊の皆を嫌らしい目で見ているよ…… ダメだね、ダイルマー侯爵家は。

 セバスさんやトーヤ親衛隊なんてもう物凄く怒ってるよ。それはトウシロー師匠も同じだよ。

 私は皆がキレる前に誓約書を出して、ボク様にサッサとサインをしてもらった。私のサインもその場で入れる。先に入れてたら私以外が書いたんだろうって言われると思ったからね。


 そして、勝負しようと師匠が作ってくれた模擬戦場に入ると、中に入ってきたのはボク様と三人の騎士だった。それを見てシンくんが抗議する。


「待て! 何故ボーク以外が中に入ってるんだっ!!」


 その言葉にボク様が言った。


「うん? 貴様はバカか、シン。誓約書にはボク様と一対一とは書いてなかっただろう? だから、ボク様は護衛騎士を伴っているんだ」


 その言葉にキレたトーヤが模擬戦場に入って来ようとしたけど私は止めた。もう私も完全に怒ったよ〜、ボク様!!


 


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