第21話 勝負の行方は?
解体の実習場所は屋外に建っている倉庫の中だったよ。冒険者ギルドに依頼してあった各種の獣や魔獣が並べられている。
獣は、鳥類では前世にも居たキジ、カモ、ニワトリ。哺乳類だとウサギ、シカ、ウシだった。
魔獣は、ツノウサギ、イビルボアの2種類だね。さて、二人はどれを選ぶのかな?
と思ったらマリー先生が僕達に言った。
「はい、それでは二人の勝負の前に、他の皆さんにお聞きします。この中で二人を除いて解体の経験がある方はいますか?」
僕は正直に手を上げた。僕以外だともう一人の男の子が手を上げただけだった。あの子は確か平民でライくんという名前だったかな?
「アラ、今年は勝負する二人を含めて経験者が4人も居るのね。それにしてもトーヤ君は公爵家なのに解体が出来るなんて凄いわね。それじゃ、先ずはトーヤ君とライ君に経験がない子たちの見本となって貰いましょう。そうねぇ、ライ君はお家のお仕事柄、シカでお願い出来るかしら? そう、大丈夫なのね。トーヤ君は……」
先生が指定する前に僕はツノウサギを指差した。
「アラ? ツノウサギでいいの? それじゃ、トーヤ君はツノウサギをお願いするわ。さ、後で勝負をする二人も先ずは見学からよ。それじゃ、トーヤ君にライ君、お願いね。二人とも自分の解体道具を使用してもいいわよ」
先生の言葉と同時に僕とライくんはそれぞれの食材を作業台の上に置いた。ライくんのシカは成体じゃなく幼体で、僕のツノウサギは完全成体でその大きさはほぼ同じだった。
血抜きは終わってるそうなので、僕はツノウサギの首周りにグルッと切り目をいれて、首から下の皮を一息ではぎ取ったんだ。コレは魔獣だから可能な技で、獣であるシカの場合は胴体側にも切り目をいれて、少しずつ皮を剥いでいく必要があるんだ。
僕はライくんの技を見させて貰ったけど、トウシロー並みの速さでとても綺麗に皮を剥いでいる。
凄い!! 思わず見惚れちゃったよ。でも僕も負けてられない。僕は一気に首を落として、部位ごとに肉を切り分けて行った。
僕の方をチラチラ見ているライくんの視線を感じるよ。ライくんも既に肉の切り分けに入っている。
僕とライくんの作業はほぼ同時に終わったんだ。
「トーヤ様、凄かったです。的確な場所に一度で解体ナイフを入れられる技は素晴らしいの1言に尽きます」
ライくんがそんな事を僕に言ってくれるけど、皮剥ぎが簡単な魔獣を選んで作業終わりがほぼ同時ならば、ライくんの技術の方が上だよね。
僕はそれを紙に書いてライくんに伝えた。ついでに【様】じゃなくて、同級生なんだから【くん】でいいよとも伝えた。
僕の返事を読んでライくんが嬉しそうに言った。
「トーヤくん、有難う。でも僕の家は街で解体屋を営んでいて、僕も5歳から手伝っていたから慣れてるだけなんだよ」
おお! 家業が解体屋さんなんだ! どうりで上手だと思ったよ。
僕とライくんが手を洗ってからガッツリ握手を交したのを見て先生がニコニコと他の生徒に言った。
「さあ、お手本を見たわね。それじゃ、二人一組になってくれるかしら? あ、トーヤくん、ライくん、フェルさん、クレアさんは除外してね。先ずは二人で協力してやってみましょうね」
それから実習授業が進んで、僕達4人を除いた皆が何とか解体を終えたんだ。
それから、とうとう始まる事になったよ。
フェルvsクレアの解体勝負!!
「食材は時間も少ないから、ニワトリで! 但し、今回は羽の処理は除きます。私がやっておいたものを使用してね。どちらがより早く綺麗に解体出来るかを競います。判定は私が致します。使う道具は個人で普段使用している物を用意してますね? クレアさん、そのナイフはダメよ。魔力を流して切り口を整えるタイプのでしょう? それは使用許可を出しません。切れ味が良くなるのは構わないけれども、それ以外は反則とします」
先生の言葉にクレアちゃんは不満そうにしながらももう一つの解体ナイフを取り出した。まさか見破られるとは思ってなかったのかな?
フェルちゃんには僕の道具箱の中から、前世の最高級ナイフに僕の魔法で切れ味マシマシを施した、普段、フェルちゃんがトウシローとの訓練で使用してるナイフを渡したよ。
「二人とも、準備はいいかしら? それじゃ、始め!!」
先生の号令と共にフェルちゃんの手が素早く、正確に動く。クレアちゃんの手も早くはあるけど、フェルちゃんには遠く及ばない。でも途中からクレアちゃんの手が早くなった。あ、身体強化を使ってるね。でも、まだ慣れてないんだろうね、切り分ける時に骨まで削ってしまってるよ。それに、それでも早さは互角だね。
静かに僕とライくん、それにクラスの皆が見守る中で、二人とも同時にナイフを置いた。
「「出来ました!!」」
「それまで!」
先生がそう言った後にライくんに意見を求めた。
「ライ君、プロの目から見てどうだったかしら?」
問われたライくんが真剣な顔で答える。
「早さは互角でしたけど、解体後の仕上がりを見れば一目瞭然です。フェルさんの勝ちです」
ライくんの言葉にクレアちゃんが
「何ですって! 平民の癖して、私の負けだと言うのっ!! アナタの家ぐらい簡単に潰す事が出来るのよ!!」
「待ちなさい、クレアさん。それは聞捨てならないわっ! 貴族が守るべき平民相手にそんな事を言ったと、アナタのお父様が知ったら何と言うのかしらね?」
先生が半ば本気で怒りを滲ませながらそう言うと、クレアちゃんが悔しそうに黙った。それを見て先生が言う。
「私の判定を言います。この勝負、フェルさんの勝ちです。ライ君の言う通り、仕上がりの綺麗さでフェルさんに軍配が上がったわ。でも、二人とも素晴らしい腕前よ。コレからもお互いに研鑽して高め合いなさい」
それだけ言って先生は去って行ったんだ。いや、出来たら最後まで面倒を見て欲しかったんですけど…… 僕がそう思っていたら、案の定クレアちゃんがフェルちゃんに言い出したよ。
「フンッ、今回は私の負けを認めてあげるわ! さあ、たった今から1年間、私は貴女よりも格下よ、何でも好きなように命令すればよろしくてよっ!!」
ああ、プライドが高いから言うと思ってたけど、やっぱり言っちゃったか…… フェルちゃんだから無茶な事は言わないと信じてるけどね。
「そうね、それじゃ、こうしましょう。この学校にいる間はお互いに貴族の身分を忘れる事。貴族であろうが、平民であろうが、同じ学び舎で過ごしていく同級生を尊重していく事を命令するわ。守ってちょうだいね、クレア?」
流石は僕には勿体無い婚約者であるフェルちゃんだよ!! 僕はちゃんと信じてたよ!!
「クッ、そんな事を…… 分かったわ、それが貴女の決めた事ならば私は従うわ、フェル。それでよろしくて?」
「ええ、もちろんよ。それじゃ改めて、コレからよろしくねクレア」
「フフフ、コチラこそですわ、フェル」
そうして、二人ともガッツリ握手をしあって勝負は終わったんだ。いやー、良かった、良かった。僕はニコニコ笑顔で二人を見ていたんだけど、僕の方にやって来たフェルちゃんにこう言われてしまった。
「トーヤ様、私がとんでもない事を言うかもってお疑いでしたわよね? 隠してもダメです、ちゃんとトーヤ様の目がそう語っておりましたから! 私は悲しかったですわ、信じていただけなくて……」
バレてましたーっ!! それから僕が必死に謝ったのは言うまでもないよ……
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