第16話 8歳になったよ

 トーヤとして転生してから8年が過ぎたよ。うん、毎日充実してるなぁ。結局、僕は誰にも秘密を打ち明けてないんだ。心話もセバスとリラの二人だけとしかしてない。それすらも最近は余りしてないかな? 二人とも僕の表情や身振りで僕の言いたい事を正確に分かってくれるんだ。まるで前世でのあの優秀な部下たちを見てるようだよ。

 何となくだけど打ち明けるタイミングを逸したというか…… 前世でのクセ(喋らない)が出たというか……


 そんな僕だけど皆が良くしてくれるんだ。ここは僕の屋敷ではあるけれども、僕が成人前なのもあって、屋敷の維持費や国に納める税金はログセルガー公爵家から出ているんだ。それを知っている使用人の皆は何とか僕が成人した時に、お金を稼ぐ手段を見つけておこうって日々奮闘してくれている。


 例えばハレは技能である【裁縫】を使って、貴族街で購入した端切れを利用してハンカチーフやスカーフを作成して、庶民が買える値段でとある商会に卸しているんだ。

 とある商会とは言ってるけど、どうやらロッテンが代表者になってる商会らしい。それと、ハレの旦那もその商会で働いてるそうだよ。

 

 皆がそうやって頑張ってるのに、僕自身が何もしないのは心苦しいから、僕は前世の料理を利用する事にしたんだ。セバスに頼んでロッテンを呼んで貰い(トウシローが屋敷に来たのでロッテンは屋敷の外で活躍してくれる事になったんだ)、屋敷の調理場で親衛隊メイドに手伝って貰った料理を食べてもらったんだ。


 取り敢えずは5品出してみたんだけど、唐揚げを食べたロッテンがこう言ったんだ。


「トーヤ様! これは世に出さずにトーヤ様に仕える者だけが食べられる物と致しましょう!!」


 いや、そういう意見を聞きたかった訳じゃないからね。僕は首を横に強く振ってロッテンの言葉を拒否したんだ。


「グムウッ! そうですか、ダメですか…… しかしこれらの料理を作り出されたトーヤ様は一体…… いや、それは知らなくても良い事だな…… それではこの5品の料理のレシピを調理師協会に売りましょう。トーヤ様にはレシピの特許が切れるまで、月に金貨5枚が支払われます。特許は料理のレシピの場合は5年間です。1品につき金貨1枚ですな」


 あら、思ったよりもお高い。この国は鉄貨(100円)、銅貨(1,000円)、小銀貨(10,000円)、銀貨(100,000円)、小金貨(500,000円)、金貨(1,000,000円)、白金貨(10,000,000円)になる。( )内は大体この位っていう僕が考えた金額だよ。

 5年間、月に5,000,000円が入ってきたら、1年が前世と同じ12ヶ月だから、年間収入が60,000,000円で、5年で300,000,000円にもなるんだ。

 レシピって高く売れるんだねと僕は紙に書いてロッテンに見せると、ロッテンは首を横に振りながら言ったんだ。


「トーヤ様、全てのレシピがこの値段ではありません。この5品のレシピは今までにこの国の近隣諸国でも見たことが無く、尚且つ美味しいから自信を持って私も調理師協会に値段提示が出来るのです。アレンジレシピなどは、高くて月に銀貨1枚になりますよ」


 ふーん、そうなんだ。でもコレで一応は屋敷の維持費と税金を支払える様に目処はたったよ。ログセルガー公爵家から僕はいつ切られるか分からないから、今のうちにこうした手段を確立しておかないと。じゃないと皆を路頭に迷わせてしまうし、何よりフェルちゃんと結婚できなくなってしまう!? それはイヤだからね。 


 元々子爵家の屋敷だったから、国に納める年間の税金は金貨2枚らしい。領地を賜っている貴族の場合はその領地から得られる税収の2割をプラスして支払う必要があるらしいけど、僕はこの屋敷しか持ってないからね。


 こういう特許制度があって助かったよ。これから、折を見て色々な料理を作るから、その都度ロッテンに来てもらうのも悪いかなって聞くと、


「いえ、何をおいても私が駆けつけますので、私以外にはお声がけしないようお願い致します」


 と少し眼力を込めて頼まれてしまったよ。まあ、ロッテンがそれでいいならそうする事にしようと思う。


 それから、沢山作った5品を屋敷の皆で食べたんだけど、皆が満面の笑みで喜んでくれたよ。


「トーヤ〜、お姉ちゃんはコレが好き〜。毎日でもいいよ〜」


 とはフワフワオムレツを食べてるリラ。


「ト、トーヤ様、私にも料理を教えて下さいませっ!!」


 とは唐揚げを食べてるフェルちゃん。


 他にも親衛隊メイド達が、


「ハァ〜、私達よりも料理がお上手だなんて……」

「学びましょう! トーヤ様の全てを学ぶのよ!」


 とか言ってるのを僕はニコニコ顔で見渡していたんだ。

 ああ〜、幸せだなって思ったよ。 


 お金の目処がたった翌日、セバスが僕の部屋にやってきて、


「トーヤ様、この秋より学園に通う事になりますが、どちらの学園に致しましょうか?」


 なんて聞いてきたんだ。エッ? 秋からって、もう1週間後だよね? で、僕の行く学園が決まってないと…… 学園ってそんなギリギリに申し込んで行けるモノなの?


「トーヤ様、ご安心下さい。貴族の通う学園よりは庶民の通う学園の方が、トーヤ様もフェル様も、リラも安心して通えるかと思いまして、このセバス、庶民の学園のパンフレットを持参しております。三人でご相談の上、明日までに私にご回答いただければと思います」


 言うだけ言ってパンフレットを置いて部屋を出ていったよ…… 相変わらず後出しが凄いよね……

 そう思いながらも、僕は慌てて二人に相談する為に、パンフレットを手に持って部屋を飛び出したんだよ。 

 上手く三人の意見が一致したらいいなぁ……

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