第12話 模擬戦と神罰と


 僕は模擬戦開始直前にセバスに言われた事を思い出す。


「いいですか、トーヤ様。一撃で決めて下さい。そうすれば後々、あのバカザラスが絡んで来ることは無くなります」


 僕はその言葉を思い出しながら、突っ込んできたザラスの木剣の動きを冷静に見て躱す。うん、一撃でって言うのは簡単だけど、僕はまだ5歳だからね。前世だと幼稚園っていう所に通ってたよ。

 それに、ザラスは身体強化を使ってるよ。真面目に鍛えてないから、効果は(小)だけどね。因みに見極眼みきわめで確認したザラスの能力は体力以外は僕よりかなり下だったよ。

 元の能力が低い上に、身体強化(小)だから正直に言って僕は身体強化を使わなくても勝てる。



名前:ザラス・ログセルガー(公爵家次男)

年齢:十七歳

種族:人種

位階レベル:12

性別:男

性格:オレサマ

称号:傲慢の極み

体力:80

気力:55

技力:40

魔力:105

魂力:45

技能:魔力操作・属性魔法(1)【赤】・身体強化(小)・剣技(2)

加護:無し


 

 しかし、称号が【傲慢の極み】って…… そのままだね。

 つらつらとそんな事を考えながらザラスの攻撃を時に躱し、時に受け流していた。そんな僕にイライラしてきたのだろう。


「オラッ! 躱すばっかりで攻撃もできねぇのかっ! やっぱりアバズレの息子だなっ!! ホラホラ、サッサと敗けを認めやがれっ!!」


 うん、ちょっと、いやかなりムカついた。僕は大きく飛び下がり、模擬戦場のギリギリに立った。ソレを見たザラスが大きく勘違いして言う。


「へへへ、そうか、痛いのはイヤか。安心しろ、オレサマが兄として優しくお前を場外にだしてやるからなっ! オラーッ!!」


 言葉と同時に一気に走り込んできて、僕に向けて大きく木剣を振りかぶるザラス。だけど、遅いっ!!


 僕はザラスが木剣を振り下ろす前に、ザラスの胴に木刀を叩きつけた。踏込みは鋭く、早く、力強く。踏込んだ反動力を自分の上半身に伝えて、木刀の先までその力を乗せる。

 そして、インパクトの瞬間に更に踏込んだ足で地面を蹴った。その瞬間に木刀に伝わった力は、身体強化(大)を使用するよりも大きい。

 僕に胴を打たれたザラスの体は、ふっ飛んで行き反対の場外ラインを大きく超えた。

 その瞬間にガイムが宣言する。


「それまでっ!! この模擬戦の勝者はトーヤ殿に決まった! 誓約書に則り、ザラスはたった今より平民となる。今すぐこの屋敷の敷地内より出るが良いっ!!」


 ガイムの宣言でかなりの痛手だったろうけど辛うじて気を失ってなかったザラスが慌てた様に叫んだ。


「待てっ!! 今のは無しだろう!? アイツは魔法を使ったぞっ!! それでオレサマをふっ飛ばしたんだっ!! ズルだし、誓約違反だっ!!」


 あー、いえ、純粋に体術しか使用してませんけど…… ロッテンに教わった技を使用しただけなんだけどね…… バカだからそうでも言わないとプライドが許さないのかな?

 そこで、ガイムが反論した。


「黙れっ! 先程から聞いておれば戯言ざれごとばかり述べおってっ!! 良いか、トーヤ殿は魔法などは使用しておらん! 身体強化すら使用しておらぬわっ! それよりもお前だっ! 誓約に違反し12も下の弟を相手に身体強化など使用しおってっ!! しかも敗けたにも関わらずにその言い草!! お前には今から神罰が降ろうぞっ!」


 ガイムの言葉が終わった瞬間に天から、前世で言う稲光がザラスを打った。 


「ギャーッ!! な、何でオレサマがっ!!」


 雷に打たれたザラスは死んではないみたいだし、黒焦げにもなっていない? コレで罰になるんだろうか?

 僕はとても不思議だったけど、見極眼みきわめを使用してザラスを確認して、罰の意味を悟ったんだ。



名前:ザラス(ド平民)

年齢:十七歳

種族:堕ち人

位階レベル:1

性別:男

性格:オレサマ

称号:傲慢の極み・神罰を降されし者

体力:5

気力:5

技力:5

魔力:5

魂力:10

技能:無し

呪い:弱体化【10年】・不能【一生】


 

 神罰って怖いねぇ…… 17歳で不能だって…… レベルは1になってるし、能力値が…… 低いまま10年って…… うん、でもザラスの自業自得だし、しょうがないよね。

 僕はスッキリした顔でセバスを見ると、セバスは僕にニッコリと微笑んでから、ザラスを見て言った。


「おや? こんな所にド平民が勝手に入っているようですな。コレは私の不注意でトーヤ様に申し訳ない事をしてしまった。しかし、お優しいトーヤ様ならば、今すぐこのド平民を貴族街の衛兵に突き出せば、許して下さるに違いない。早速、衛兵を呼びに行こう!」


 セバスの言葉が終わったタイミングで門番の一人に連れられて衛兵が3名、この場にやって来た。

 うーん、何もかもセバスの考え通りだったんだね。僕は手回しのいいセバスに、その手際を褒める気持ちを込めてニッコリと微笑んだ。


 そして衛兵に乱暴に掴まれて連れ出されていくザラス。今では下手したら赤ちゃんよりも弱いから、抵抗むなしくズルズルと引きずられて行く。


「クソッ、離せ! オレサマを誰だと思ってるんだっ! ログセルガー公爵家次男のザラス様だぞっ!! お前らなんか直ぐに処分できるんだぞっ!!」


 しかし、言われた衛兵は落ち着いた様子でザラスに言う。


「はいはい、神罰が降った愚か者は黙るんだな」

「神罰が降った時点で、お前はもう貴族様では無いんだよ」

「俺達が連れて出ないと、そちらの方々に切り殺されても文句は言えないが良いのか?」


 そこで僕は思ったんだ。何でみんな、ザラスに神罰が降ったって分かるんだろうって? けれども後ろを向いたザラスを見て納得してしまったよ。後頭部に大きな【バツハゲ】ができてるんだ。ひょっとして、この【バツハゲ】も10年ぐらい続くのかな?

 神罰ってやっぱり怖いねぇ…… 僕は神罰が降らないように生きていこうと心に誓ったよ。



 

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