◉後悔噬臍は後で勝手にしてくれ。〈後〉〜フェルミナ20歳2ヶ月の決意〜

『私も脱退手続きを致しますので、これで失礼させて頂きます。そう言えば、後一つだけお伺いしても宜しいでしょうか?』

「ええ、答えれる範囲でしたら」

『ありがとうございます。では、その場にはいますか?』

「いいえ、は何名かいるようですが、どうやらはいないようです」

『そうですか。商人はこそ財産。安心しました。

 それでは改めて、失礼致します』

「はい、それではまた近いうちにお会いしましょう」


 イザーク様との会話が終わると、ホールに居た商人達が騒ぎ立てる。『もう終わりだ!』とか『私は関係ない』とか。

 今更そんな事言っても、後ろめたい気持ちがあったからアキサメ様が揉めてた時に黙ってたんでしょうが。

 再度マルク様が通信で話し始めたけど、既に大変な事になっているみたい。


『もう、終わりです...。私は、商業ギルドは...』

「そんな事は知りませんよ。後悔噬臍無意味な戯言は後ほど、一人の時にどうぞ。私が伝えたい事は以上ですので」

『...はい、この度は御迷惑をお掛けしてしまい、誠に申し訳御座いませんでした...』


 最後は、覇気の感じない疲れ切った声。

 あの精悍な騎士様が言っていた意味が良く分かった。

 確かにマルク様は苦労人と言える。自分自身が何か仕出かした訳では無い、その立場故に責任がのしかかってきて大変なのだろう。

 けれども、それはマルク様の責任の範囲内の問題であって、ギルドマスターとしての能力不足じゃないの?何か自分だけが辛いみたいな雰囲気出し過ぎじゃないかしら?

 その他にも、何かあったのかしら?

 いや、おそらくアキサメ様の脱退を聞いた時の反応からして、他にもいると思う。


「さて。さっさと事情聴取を終わらせましょうか」


 カイン様のその言葉で考える事を一旦やめた私は、騎士様方の職務がスムーズにいくように補助に入る事となり、カイン様のお側で聴取の内容を書き留めたり、内部事情についての質問に答えたりと、忙しくなりました。


 暫くしてこの地を治める領主の騎士団が到着し、カイン様と少し話をしてからギルドマスターをはじめとした今回の首謀者、関与の疑いのある職員や商人達が連行されて行く。

 残った職員は少なく、領主命令で沙汰が出るまで商業ギルドは閉鎖となった。

 カイン様達もそのままギルドを出て行かれました。



「折角頑張って受付に立てる様になったのになぁ。次のお仕事探さないと...」


 捕まらなかっただけでも、まだ良かったとは思ってはいるけど。それでも、今回の件の影響で再就職先を探すのが大変な道のりだと理解しているから、気分が落ち込んでしまう。


ーーーガチャッ...


 ホールに1人きりとなった私が、簡単なお掃除をしながら落ち込んでると、閉めてあったギルド入口の扉を開ける音がした。


「おや、カインの言っていた通りですね。

 貴女1人だけが残って掃除する必要は無いと思いますよ、受付嬢のフェルミナさん?」


 ッ!!?


「ア、アキサメ・モリヤ様!?」

「はい。改めましてアキサメ・モリヤと申します。先程振りですね」

「あ、はい、いや、こ、この度は大変御迷惑をお掛け致しました!」

「ふふふ。落ち着いて下さい。今回の件は貴女の責任ではありませんよ。エリスさんとカインが少しやり過ぎたようでしたので。

 少し心配になったので様子を見に来ました」


 やり過ぎ?エリス大公妃殿下もカイン様も当たり前の処罰を下しただけだと思いますが...?

 それに、私の事を心配して見に来て頂いたの?態々?


「御心配頂きありがとうございます。私は処罰対象から外れましたが、商業ギルドは実質このまま閉鎖となると思われます。

 私も気持ちを切り替えて次のお仕事を探そうと思っています」


 まだ、落ち込んでるのは内緒にしなきゃ。

 それにしても、一受付嬢にまで心配りが出来るなんて、アキサメ様はお優しい方なのですね...。

 アキサメ様ってなのに凄いやり手みたいだし、容姿も黒髪黒眼でどこかミステリアスな雰囲気もあって私好みなんだよなぁ。

 出来れば違うカタチでお話したかったな...。


「そうですか。それはです」

「はい?」


 今、良かったって言ったの?私、絶賛お先真っ暗中なんですけど!?

 やっぱりアキサメ様は優しくないかも!


「まだ次のお仕事が決まって無いのなら、私のお仕事のお手伝いをしませんか?

 そうですね...ぶっちゃけて言うと、私、この大陸に来て間も無いので、この大陸の常識に疎いのですよ。近しい人達は貴族ばかりなので、出来れば貴女の様に教養のある方に(仕事上)側に居て頂きたいのです」


 前言撤回ッ!


「やります!いえ、是非ともやらせて下さい!

 私、フェルミナがアキサメ様の(人生の伴侶として)お支え致します!どうぞ、フェルミナとお呼び下さいませ♪」

「そうですか、嬉しいです。これから(仕事仲間として)宜しくお願いしますね、フェルミナ」

「はい!(末長く)宜しくお願いします(旦那様)」


 フェルミナ、20歳2ヶ月、とうとう春が、玉の輿が、キターーーーーーッ!!!



 その後、エリス大公妃殿下にお会いした際に、アキサメ様が事情をお話しして下さると、私は別室へと連れて行かれ、何故だかリザティア・ガルトラム女辺境伯様の護衛のカメリアさん、ルーチェ・ガルトラム様、いつの間にか専属メイドとなっていたアンナを含めた4人から、再び事情聴取を受けるのでした。


 因みにその間、アキサメ様はエリス大公妃殿下から罰として正座で待機させられていたそうです。


 そして、オハナシを終えた私は心の中で叫ぶのでした。


 アキサメ様の人誑し!!


 でも.....諦めませんからね、覚悟していて下さいねっ!



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る