第22話 自尊の話に没頭したい

実父がプライドを守る為に嘘を吐いた。

送迎は前日からの約束だったし、

息子は10時半になったら電話を寄越すと言った、と。

後者は百歩譲って真実かも知れない。

約束の10時半から遡って、

何分前に自家用車にスタンバイしてたか見当も立たないが

こちらからの電話が遅いと感じたなら、

ガレージから着信すればいいじゃないか!

僕は少なからず、運転中に着信を残したくなかったので

妻に電話し、実母に電話し

実家の様子を探りながら、小雨の中、

水滴が付く液晶画面と道路右側を凝視しながら時間を潰した。

二人から話を訊くと、もう出発したと言う状況は掴めていた。

そもそも、さくじつは仕事に行く気が無かった。

先程、小雨と言う熟語を刻んだが、雲が厚く、

何時振り出してもおかしくは無い天候だったからだ。

出勤前日は晴れていたし、送迎なんて発想は何処にも無かった。

僕は10時半から20分、待ちぼうけを喰らった。

内科のクリニック方面と伝えたから、激しく道に迷わない……

と言うか道なりに直進のコースだから迷いようが無い。


配慮に欠け、僕が10時半に電話していたら

何事も無く真っ直ぐに職場までハンドルを切れただろうか?

定時から15分前後、本当にガレージで待機していた?


直進の道に迷わないのであれば、出発準備に手間取って

ガレージ待機と言う、言い訳をしたか

内科のクリニックの情報がすっぽりと抜け落ちたか

別に今更蒸し返すつもりは無いし

真実は決して出て来ないだろう。


今回は自尊の話がしたかった。

週一ペースで通うクリニックまでの道が解らなくなったでは

父としての威厳が保てまい。

帰りもTAXI拾えば良かったかなあ?

さいわい、この悶着も綺麗さっぱり忘却したらしい。

こちらから蒸し返すことも、

蒸し返されることも無くなった今回の事件。

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