第607話 健診の腹部触診で見つけしは西瓜のやうな子宮筋腫か(医師脳)

 ある日の診察室でのこと。

 アラフォー女性の、ややぽっちゃり腹部に手を当てると……。

 元産婦人科医の手に懐かしい感触!

「妊娠してないですよね」

「してません」

 骨盤腔から臍下まで迫出している筋肉の塊。

「生理の量は多くないですか? 血のかたまりが出るとか……」

「多いです。かたまりも……」

 お薬手帳を持参していたので、婦人科に受診中かを尋ねると。

「婦人科ではないですが、内科で貧血の治療中です。最近は点滴もしてもらっています」

 念のために、子宮がん検診を受けたかを尋ねたが、記憶にないほど昔にはあるとの返事。

――おそらく巨大な子宮筋腫だろう。

「ここを触ってください。大きな西瓜のようなものを感じませんか?」と、両手を腹部にあてさせた。

「……、えっ? ナンですか、これ」

「大きな子宮筋腫ではないかと思いますが……」と前置きして、重度の貧血は過多月経が原因かもしれないことを説明した。

「それじゃ、貧血の点滴治療をしても意味なかったですよね」と物分かりがいい。

「まあ、意味が全くないわけではないでしょうが……」と、こちらはどうしても歯切れが悪くなる。

 前医の治療に関する話題は早々に切り上げ、今後の方針について婦人科で精密検査を受けるよう勧めた。

「もし女医さんのほうが良ければ、健生病院の婦人科にはベテランの女医さんが二人いますよ」と、営業トークを忘れずに加えた。

「来週、婦人科に行ってみます」

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