第41話 びんぼっちゃまくん
【11日目。アーユルヴェーダと最後の晩餐。】
1月7日、日曜日。スリランカ滞在最終日がきた。今日の夜便で日本へ帰る。
昨夜はなかなか寝付けなかったので、少し寝坊して、7時過ぎに起床する。身支度を整え、朝食を食べにリビングへ向かった。朝食メニューは昨日と同じだ。
積み荷のない船を探したが姿はなかった。まだ寝ているのだろうか。あの方はいつまで滞在するのだろうか。
淡々と朝食を胃袋に詰め込んで、9時前には宿をチェックアウトした。今日はコロンボ市内を散策したいので、スーツケースを預かって欲しいとお願いしたら、快諾してもらえた。
夕方戻ってくる旨を伝え、街へ繰り出した。
スリランカは79%が仏教だが、ヒンズー教やキリスト教徒もしっかりいる。イスラームだって8%ほど占めている。だからコロンボ市内ではいろんな宗教施設を見ることができた。
ただコロンボ市内において街歩きは、やはり覚悟を決めないと大変だ、と言うことを改めて実感する出来事に朝から遭遇した。1909年に建造されたモスク、ジャミウルアルファーへ向かっているときが一番しんどかった。
この施設は、コロンボ市内でも少し治安がよろしくないエリアにある。そこに向かって歩いている間、やたら観光案内の勧誘をかけられたのだ。
「今日は象のお祭りをしているから、ありとあらゆるところが通行止めになっている。空いているところを僕が観光案内してあげるよ。」
と声をかけてくる身なりの整ったおっさんがいたり。
「今日はあなたラッキーな日曜日よ。近くの寺で象のパレードが見られるから、送っていくよ!」
と強引にトゥクトゥクに乗せようとするドライバーがいたり。
ともかく数分おきに声をかけられた。私は明らかに日本人顔に見えるからか、ジャパニーズ??とニコニコしながら追っかけて来る。
「あなたの言っていること、ガイドブックに書いてあるよ!」
と言うと、大体が退散していく。
でも、セカンドクロスストリートとバンクシャールストリートがぶつかる交差点に差し掛かった時、一人とてもしつこい男と出くわした。
セリフは同じだ。すべて象に絡めて勧誘をして来る。だから私も同じように返す。でも引き下がらない。中国の血を引いているのか?と疑いたくなるくらいだ。おっさんがなかなか引き下がらず、ずっとトゥクトゥクで追っかけてくるから、腹が立って
「すごく迷惑だ。私はダンブッラの街で聞いた。この国は学校で観光客には親切にしなさい。特に日本人には親切にしなさいと習っていると。」
つたない英語だったと思うが、そんなニュアンスで言った。そしたら、
「僕は日本人から良くしてもらったことがないから」
と返されたのだ。
日本は空港や高速道路を含めいろんなインフラを整えてきたけど、みんなに行き渡っているわけではないし、恩恵を受けていない人もいるだろうな、とは思っていたけど、ここで露骨に言われるとは思ってもみなかった。日本人に媚びない人もいる、と言う事実を改めて突き付けられると愕然としてしまう。特に今までの道中が、やはり優しくされたことが多かったからかもしれない。
ともかく運転手にNO!と大声で言い放ち、ジャミウルアルファーの近くまで来ていたので、走って施設の中に入った。
悶々とした気持ちを抱えての見学だったから、何にも感動しなかった。このような宗教施設は、心を整えてから入場することが大事である。
見学後、施設の玄関からそっと外を伺う。例のトゥクトゥクドライバードライバーの姿がなく、安心した。
しつこい人は他国に比べて少ないとは言えども、最終日だからこそ気持ちよく観光を終えたいと思い、この日はタクシーでコロンボ市内を回ることにした。私の使用したタクシーはアプリタクシーのUBER。UBERは到着した日にネゴンボで利用しただけだ。その後訪れた街ではUBERに登録している運転手さんがおらず使用できなかったから、トゥクトゥクを利用してきた。アプリタクシーは、料金交渉をしないで良いだけ楽だ。
玄関先でタクシーを呼び、コロンボで一番有名な寺院、ガンガラーマ寺院へ向かう。モスクからガンガマーラ寺院まで200ルピー。タクシーも安い。
この時乗せてくれた運転手が大変親切な方で、市内中心部をわざわざ通って寺院まで向かってくれた。
「あのタワーがロータスタワーですよ。」
運転手がスリランカの国花である、ロータスをイメージして建てられているタワーを指さす。
「あのタワーは登れるの?」
「まだまだ。建築途中。いつ完成するか分からない。」
「なんで、分からないの?」
「中国が建ててくれているから。」
ドライバーはそう言うと、わざとタワーに近づいて、ぐるっと一周してくれた。後ろに回って驚いた。何と色が塗られていないのだ。
まるで「おぼっちゃまくん」と言うアニメに登場していた、びんぼっちゃまくん状態だ。表だけに丁寧に色が塗られて、後ろはお尻を出したままだった。
「日本が関わっていたら、もう2年前には完成しているよ。」
そうだろうね、と私が返事をするとバックミラー越しにウインクを返してきた。
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