第25話 遺体安置所
最後はホワイトブッダへ向かった。小高い山の上にあるので、200ルピーを払い、トゥクトゥクに頼った。
靴を預けて入場。預け代はお気持ちで良いよ、若いスタッフはコインをジェスチャーで表現する。私は小銭を減らしたかったので、お言葉に甘えて、12ルピーを収めた。
スリランカの小銭は重い。サイズが大きいからだろう。
入場料は200ルピー。ホワイトブッダの高さは13m。展望台になっていてキャンディの街を一望できる。上がってみて古都キャンディの街並みを見下ろしてみると、こじんまりした可愛らしい街だなぁとて思えてくる。そして見下ろして初めて湖の大きさに驚く。仏歯寺サイドから見ていたら、きれいだなくらいだが、大きさを感じるなら、こちらに来た方がいい。
ブッダは1993年に寄進によって作られたものなので比較的新しい。当初は金色に塗られていたという。仏陀の後ろには、これも寄進によって造られた仏像やブッダの一生を描いた美しいたレリーフがある。
展望台から降りてくると、お布施とか寄付金の声をかけてくるスタッフがいた。私はチケットを買って入ったよ、と言って、足早にその空間から去った。
この国の人は強制をしないし、本当にしつこくない。これはトゥクトゥクの営業もそうだし、全てにおいて言える。スリランカ人は駄目だと思ったら、次へ、次へ行く感じだ。あっさりしていて付きやすい国民だ。
ホワイトブッダで街並みを堪能した後は、坂道を下るだけなので、自分の足で街まで降りることにし、ショッピングモールであるキャンディシティセンターに向かった。ホワイトブッダから中心部にあるキャンディシティセンターまで徒歩15分。キャンディシティセンターの地下1階にスーパーマーケットがあり、そこでフルーツとお菓子と飲み物だけ調達することにした。お昼ご飯の量ががっつり過ぎて、きっと夕飯はお腹が減らないだろうから、買い物はその程度で良いだろう。余ったら明日のヌワナエリアまでの道中に食せばいい。
一番賑やかな中央通りには、このショッピングモールだけでなく、スリランカでチェーン展開しているフードシティと言う名前のスーパーやフードコート、ファストフート店等が顔を並べ、銀行も多数あった。一番賑わっていた銀行に足を運び、2万円ほど両替してから、宿に戻った。
今宵の宿は、この一番華やかな中央通りに面しており、雑居ビルの2階~5階をリフォームしてゲストハウスを営業していた。印象としては、日本のカラオケルームのような区割りで、カラオケの機械と椅子の代わりに、ベッドが陳列されているような空間だった。大きな街では、どこの国も街中ではこのようなゲストハウスが増えてきている。それだけホテル代をケチって格安で旅行したい人間が多いと言うことだろう。
ここは場所が一番良かった。キャンディシティセンターの斜め前に位置しているし、バスターミナルや駅までは7分ぐらいで行くことができる。
ペットボトルの水はサービスでもらえ、宿泊料金は朝食無しで1342円。バスルームはきれいだったし、水圧も文句なし。お湯もしっかり出た。
スリランカのゲストハウスは深夜までバカ騒ぎする客もいなくて、どこの宿
を使用した時も本当に静かに休むことができた。
この宿において困ったのは、当たり前にあると信じていたものがなかった点である。
私は女性専用の8人部屋のドミトリーにしたのだが、ブランケットがなかったのだ。ベッドにはシーツと枕だけ、ちょこんと置かれていた。窓無し、部屋のカギ無し。一瞬、牢屋かと思ったくらいだ。パスポートなどの貴重品を身に着けて横にならなければならない、少々手間なパターンである。
リモコンが壊れているようで、エアコンの温度調整が全く効かなかった。だから、ずっと17度設定のままで徐々に体を冷やしてくる。ジャージなど相当着込んでいても寒い。同室になったドイツ人の女の子に聞いたら、
「スリランカってゲストハウスならどこも布団はもらえないよ。」
とけろっとした表情を向ける。そんな彼女は、タンクトップに短パンと言うなかなか元気な姿を見せつけてきた。
「いや、私もダンブッラやネゴンボでゲストハウスにずっと宿泊してきたけど、ちゃんと布団あったよ」
と私が携帯に収めたダンブッラの宿の部屋の写真を見せたら、目を丸くしていた。つまり、この国のゲストハウスは布団がない所もあるってことだ。
部屋の目の前にあるフロントに行き、ブランケットの代わりになるものを貸してほしいとお願いしたら、スタッフはシーツしかないと言う。
仕方がない。
シーツをさらに2枚ほど余計にもらい、合計3枚のシーツで身をくるみ、眠ることにした。
夜中の3時過ぎ、トイレに行きたくなり、部屋を出て用を済ませた。すぐさま戻り、静かに扉を開けた時、私は驚きのあまり一瞬足がすくんだ。
なんと同室の女子7名が、みんな私の姿を真似して、大量のシーツに身をくるみ、 ミノムシ状態で眠っていたのだ。
それがきれいに横並びになっているのである。
まるで御遺体が安置されているように見えて、思わず黙禱を捧げそうになった。
その後、全く眠気と縁がなくなった私は、悶々としながら天井のシミを意味もなく数えていた。
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