第19話  暴走バスに乗車する

 スリランカは戦争やら植民地支配やらをこれまで多く受けてきた国である。2009年まで内戦をしていたのも事実だ。ボロボロに壊れている遺跡もあるけど、結構、柱だけは残っているものもある。どんな建物でも柱って大事なのだ、と改めて学ぶ。

 ポロンナルワの仏教の中心地だっただけあり、この遺跡には特別な空気が流れていた。

 いよいよ最終コーナーを回る。チケットチェックポイント付近にあるロイヤルパレスエリアに戻ってきた。ゴールも近い。

 ロイヤルパレス(宮殿跡)は、宮殿を支えていた壁が残っていた。この壁は

でかった。壁の厚さは3メートル。閣議場の跡地だと言う。何の話し合いをしていたのだろうか。日本みたいに数分で物事の進行状況を確認して終わるような感じだったのかなぁ。ロイヤルパレスには部屋数が50ほどあったという。今は残骸しか残っていないけど、この広さだと、あっても不思議ではないなと思えてくる。


 私は自転車でかいつまんで回って4時間位で遺跡群を後にすることにした。

 じっくり遺跡と対話していたら1日がかりだと思う。自転車屋に自転車を返しに向かう。遺跡群入り口の目の前はパラークラマ・サムドラと言う名称の湖が広がっている。なかなか清々しい色。最後の力を振り絞りペダルを漕ぐ。自転車屋までは下り坂だから助かった。

 無事自転車も返却終了。応対してくれた男性店員さんにダンブッラ行きのバス停はどこか聞いたら、反対側に立っていたら来る、と言う回答。道の反対側はバラックしか立ち並んでいない。

 時刻は13時30過ぎ。軽く死にたくなるくらい暑い。

バス停の目印になるものは強いて言うなら、この中途半端な高さの樹か。真剣に、この国の人はどうやってバス停を決めているのか、と悩んでしまう。

暑いからしばし木の下に避難した。暑くて良いことはただ一つ。トイレに行く回数が減ること。汗でほとんどがぶっ飛んでいくからだ。

 待つこと15分。手を前に出し、来たバスを止める。日本のように上げると、無視されるのが諸外国では一般的らしいが、やはり慣れず、未だに何度も手を上げてしまう。車掌に、ダンブッラに行くか?と確認するため声をかけようとして、一瞬ひるむ。

 車掌の表情が非常に鋭利。失礼だが、相手を非常に不安にさせるような顔だ。

 顔面凶器という単語はこういう人を表現するために生まれたのかもしれない。しかし、ハローとかけてきた声色が非常に柔らかくて心配も汗と一緒に吹き飛ぶ。ダンブッラに行くか?と確認し、笑顔を見て、急いで乗り込む。

 強面の車掌が左一番前に座れと席を指さしたので素直に従う。すぐさま、バス代を請求され、行きと同じ100ルピーを渡す。エアコンなしのブルーバスだが、停まるとき以外はスピードを緩めず全力疾走をするので、体が飛ばされるんじゃないか、と心配になる。100%スピードが悪いのだが、開けっ放しの窓からは、非常に暴力的な風が入ってくる。軽く顔が殴られている感触だ。

 スリランカに自動車学校はない。知り合いに操縦を教わったとか、そんなレベルの人たちが道路を縦横無尽に走っている。この暴走は、彼の指導者によるもの。カーブはスピードを緩めるくらい、ちゃんと教えて欲しいものだ。

 しかし自転車の漕ぎ疲れか、すぐに爆睡してしまった。だから宿近くのバス停で停めてもらうのを忘れてしまい、結局ダンブッラのバスターミナルまで行ってしまった。

 仕方がない。今日もトゥクトゥクでホテルまで戻る。トゥクトゥクドライバーに200ルピーを渡す。勧誘時、もっと上の値段を言ってくるドライバーも多かったけど、私いつもこの値段だったから、と言うと従ってくれた。

 この日乗ったトゥクトゥクドライバーの兄ちゃんは、ナイジェリア出身と言っていた。よくしゃべる運転手でナイジェリアから出稼ぎに来ているんだ、とホテル到着までの約5分喋り捲っていた。ナイジェリアよりも何倍も稼げるようで、数か月に一度故郷へ仕送りをしているという。ただ、ナイジェリアは仕事がないからさ、とカラっと笑うお兄ちゃんのトゥクトゥクが、キューバ革命の指導者、チェ・ゲベラの肖像画やグッズでデコレーションされたデコトラならぬ、デコトゥクだったので最後の最後まで、本当にナイジェリア人なのか疑ってしまった。降りる際、記念に撮影させてもらった。

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