筆跡

水沢朱実

第1話

お茶を飲むコップに書かれた

私の名前を記した母の字


そっと触れてみた

じんわりあたたかい気がして

ひっそりと指でなでた


マジックで書かれたその文字が

少しかすれて消えているのを見た


頼もうとしても

もう名前を書いてくれる母はいない


見よう見真似に

病院のマジックで

そっと母の筆跡をなぞってみた

本物には届かない

まがいもの

でも黙って消えてしまうよりはいい


なぞった跡が

少し静かな気がして

もう一度コップに触れて

目を閉じた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

筆跡 水沢朱実 @akemi_mizusawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る