第7話

俺が逃げてから、もうすぐ2ヶ月が経とうとしている。

朝子が探しに来るのは毎回大抵1ヶ月前後だから、今回は最長だ。


毎日SNSで安否は確認しているが、大丈夫なのか?

最近は家の中の写真ばかりだし。さすがにそろそろ、心配になって来た。


俺は今回、少し羽を伸ばして関西まで来たというのに、頭の隅で朝子がチラついて仕事の合間の観光も全然漫喫出来ていない。


そんな毎日が続いたある日、携帯が鳴った。

この着信音は電話だ。

ポケットから取り出した携帯の画面を見て、俺は心臓がぎゅっと掴まれたような心地がした。

その電話は、朝子からだったからだ。


『メールや電話などの直接的なやり取りは禁止』

それがルールだ。

ただし、『緊急時は例外』

…“緊急時”、ということなのか。


恐る恐る、電話に出る。


「…もしもし?」


「あ、ヒロ?良かった。出てくれて」


朝子は、俺が考えていたよりはずっといつもの朝子だった。ただ、ほんの少し、元気がない気がする。


「…どうしたの?何か、あった?」


「うーんとさ、ごめんね?探しに行けなくて。落ち着いたらすぐ行こうと思ってたんだけどさ、なかなか落ち着かなくて」


落ち着く、とは、仕事のことだろうか。何かトラブルがあったとか。

でも、それが“緊急時”に当てはまるようなことなのかはまだ分からない。


「ううん、大丈夫だよ?」


「…実はちょっと…体調がよろしくなくてさ、ヒロが大阪にいるのは分かってるんだけど、迎えに行けなさそうなんだよね」


「え!!うそ!病気!?…だ、大丈夫なの!?」


俺は、一瞬頭が真っ白になった。もしかして、俺のいない間に、何か重い病気が判明したのだろうか。


「あ、いや、病気ってわけではないよ。ちょっと迎えに行く元気がないだけで。だからさ、帰って来てくれないかなあ、と思って、電話しました」


朝子は嘘を付いているのだろうか。

本当は何か病名が分かっているのに、電話越しで心配掛けまいとそんなことを?

何にせよ、帰らない訳がない。

俺はすぐに、朝子の待つ家に帰った。

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