水
水沢朱実
第1話
深い蒼に曇った水の中を、息を吐きながら泳ぎ出て、私は光の差す方へと向かう。
水の中でも呼吸は出来る。
そんな自分を再認識しながら、少しでも光の差す方へ、透明な水の中へと、私は両手を、全身を伸ばす。
“透明になりたい。”
それは、願いなのかもしれない。
道標なのかもしれない。
水を掻く私の手が、曇った水を一旦はね退けては、また返ってくる。
曇った水ごしだからなのか、光はやけに温かく、まばゆい。
いつからだろう?
自問自答する。
時々曇った視界の合間に、光を視(み)るようになったのは。
けれど、手を伸ばせばまるですぐに手が届きそうなほど、
柔らかでいて、それでいて尊い「何か」。
だからこそ、私はそれを手にしてしまうのは恐ろしい気がして、
「光」ではなく、「透明」を望んだのだ。
この、曇って自分の進む一歩先も見通せない、この「水」の世界
私は私のために、ただ自分が生きていくために、この世界を泳ぐ。
見詰める先に、私は自分以外の「誰か」を見つけられるだろうか?
泳ぎ疲れて、
「透明」になることも
あまつさえこの世界を泳ぐことすら
忘れて曇った水の中に溺れてしまわないだろうか
――泳ぎ始めはきっといつも、そう。
私は不安なんだろう。
泳ぐのが怖いのだろう。
夜ごとに訪れる水への回帰
呼吸が出来るのだから、きっとこれは夢なんだろう
不安を抱えながら、それでも
曇る水の中を私は今日も泳いでいる
水 水沢朱実 @akemi_mizusawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます