69O

エリー.ファー

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 機会を失ってから、その尊さに気が付くことを後悔というらしい。

 私にはよく分からない。

 すべて殺してしまったから。

 言葉で、手で、兵器で。

 とにかく殺してしまったから。

 考えが合っていない存在であれば、絶対に許さなかったし。私の前を通ろうとするのであれば、邪魔だと首をはねたこともあった。

 何もかも、綺麗さっぱり。

 上手くいっているのだから質が悪いのかもしれない。

 いや、私だけの視点で見れば、それが良いことなのだ。

 ただ、私も常識いうのを持ち合わせているものだから、私がその常識から外れて生き方をしていることくらいは何となく理解できているのである。

 悲しいかな、私は、私を冷静に分析できてしまう。

 いつか、私と私の間には氷のようなものが生まれるだろう。白い風をまといながら、私はゆっくりと認識不足に気が付くようになる。

 私の職業は殺し屋である。ただし、頼まれなくても殺してしまうことが多々あるので、殺し屋としてのレベルは低い。依頼がなければ殺さないというのが、本来の殺し屋の在り方と言える。

 私には、師匠がいない。そのせいで、自分なりの道徳を積み上げるしか生き方が存在しない。できる限り、通じ合える常識の中で、自分を作り出し、それを愛でているというのが正しい。奇数や偶数のように明確に右と左に分けることができれば、私の中にある、業が顔を覗かせることはないのだ。呪いのようにして、抱えて生きる術を見出せないのであれば、諦めるほかない。

 殺し屋には向いていないのかもしれない。

 大切な言葉は、ない。

 殺し屋から始まる遊戯によく似た仕事へのアプローチは、いつか私の立場を揺らしに来るだろう。

 私には分かっている。

 私の過去が、私の未来を食いつぶそうとしていることくらい、明白なのだ。

 インターネットや、SNS、そして誰かの噂から始まって、そのまま消失していく私のような存在は誰からも、大切にされることはないだろう。

 私の血肉はない。

 私の骨もない。

 私の体の内側に命などない。

 他者が作り出した概念が私の中に詰まっているだけである。

 私なんてものは最初から存在せず、ただ春の夜の夢の如し。

 煌めく言葉と言葉の間に住んでいる、人間の形をした何かでしかないことを、多くの人に伝えて終わりとしたい。

 殺し屋なんて仕事は、もうとっくの昔に忘れ去られているのだ。

 社会が、殺し屋を封じ込めて、殺し屋という概念はその生き方を受け入れた。いや、運命を受け入れたと言った方がいいだろう。

 状況を見て、冷静になろうとすればするほど、自分を見失うのは世の常である。

 芯などないのだ。

 神などいないのだ。

 ありふれた言葉にだけ、私の生き方があり、言葉というものが今から霧散していく様を眺めるほかないのである。

 ほら、私が殺し屋を名乗ったことで、この状況が生まれたが、決してそれは信用に値するものではない。

 潜り抜けるように、自分の生き方を殺し屋という言葉に乗せてしまったのは、悪手中の悪手であったことは、ここまでの羅列によって誰もが気が付くところである。

 嘘を付きたくないのだ。

 だから、殺し屋という形で自分を表現するしかなかった。

 音の響く方へ。

 感情が響く方へ。

 心が響く方へ。

 人間の肉が響く方へ。

 文字が響く方へ。

 言葉が響く方へ。

 何もかも響く方へ。

 いずれ、今日が明日になり、過去になり、重要なすべてが後ろへと逃げていく。

 私は知っているのだ。

 自分が殺し屋ではないことを。


「さようなら」

「何が」

「何もかも」

「そう、挨拶は大事だね」

「そう、そうなんだよ」

「悲しくなるね」

「別れのための出会いなら」

「必要ないね」

「さようなら」

「さようなら」

「また会えるかな」

「また会うための別れでしょう」




 殺し屋のための詩である。

 いや。

 殺し屋の独り言である。

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