第25話 おじさんは神器を振るう(4)

 あのタイミングで躱すか。

 人間なら余裕で即死だが、モンスターとはどいつもこいつも生命力がとんでもない連中だ、恐らくあの傷でもまだ死なない。


 流石に首を落とせば死ぬだろうが。

 喉を潰されてあの魔法をかき消す咆哮は使えなくなった。しかし流石にここまでされて逃げる事は出来ないのか、凄まじい殺気をぶつけてきた。


 頭が良いだけに相応にプライドが高いのだろう。逃走するよりもこの場でおじさんを惨殺する事を優先してくれたようだ。


 来るね、アレは。

 討滅の太刀をゆっくりと構える、地面に刀身の先を突き刺して、鞘の代わりにする。

 この大太刀、鞘がないんだよね。


 お狐モンスターがその全身を緑色の狐火を纏う、どうやら次の一撃で決めるつもりらしい。

 まるで弾丸の様なスピードでヤツの巨体が突進してきた。


 僕は力を溜める、こちらも次の一撃が勝負だ。

 ヤツは口を開いて僕から見て右側の方に顔を横にしてくる。僕の構えは身体を左側に上半身を向けて構えている、刃が脳天を捕らえにくくしてきたか。いちいち姑息な真似を。


 まあ好きなだけ小細工を使えばいい、こちらも使うからね。

「フィジカルバースト!三重トリプル!」


 瞬間的に自身の身体能力を超強化する魔法を三重掛けした。爆発的に上がった身体能力をフルに発揮してこちらはカウンターを仕掛ける。

 お狐モンスターが口を大きく開く、僕を噛み砕く気だ。


 僕は跳躍した、それと同時に大太刀を振るう。

 そこで気づいた、ヤツの魔法をかき消す咆哮、その厄介な魔法だか魔力だかが口に溜めてあった。


 お陰でこちらの三重掛けしたフィジカルバーストが解除されそうになる。

「うぉおおおおおおーーーーーーーーっ!」


 だがこの世界はゲームじゃないんだよ。

 魔法を無効化する、かき消す、そんな能力にも限度が存在する。そしてフィジカルバーストは僕の身体に発動する魔法だ、放たれた魔法と違いまだ僕の意志の影響下にある。


 僕は意志の力でヤツの魔法をかき消す力を打ち破った。

「!?」

 その動揺、命取りだね。


「───魔討一閃まとういっせん


 白銀の刃の青い波紋から青白い炎と燐光が立ちのぼる。

 その青い炎は、心・技・体、そして魔法まで全て揃った時に現れる現象だ。即ち必殺の瞬間だよ。


 ガチンとヤツの口が閉ざされる、僕はその噛み砕きを躱していた。

 次の瞬間ヤツの首が飛んだ。

「………つまらない小細工を労さなければ、片足くらいなら奪えてたんじゃない?」


 スタッと着地する、切り飛ばした首もそこら辺に転がった。お狐モンスターの巨大が倒れる。

 ふぅ~~今回は普通に死にかけた、こちとら息抜きで異世界に来てんのに……けどやっぱり冒険は命懸けだよね。


「まあっそれでも辞めるつもりはないけど…ん?」

 耳を澄ませる、すると人の声がした。


「ハジメさーーーん!」

「ハジメーーー!」

 ん?ポンコツちゃんとマコラ?うわっもうここまで来たのか、どんだけとばして来たんだよ。

 他にも多数の冒険者が来ている様だ。これっこのお狐モンスターの素材だけで報酬足りるのかな?。


 けど、助けが来てくれた事がなんとなく嬉しい気分の僕である。

「パニアちゃんじゃ報酬なんて出せないだろうし、僕の懐から出すとしますか」


 ついついそんな事を考えてしまうおじさんだ。



 ◇◇◇◇◇◇



 冒険者ギルド支部にて。

「化け狐の特異個体の討伐とハジメさんの無事に…乾杯!」

「「「「「「乾杯!」」」」」」


 無事にベースキャンプに帰還した、ファプマーさんからの依頼にあった素材以外の大半は救助隊に加わった冒険者と討伐した僕達の物となった。

 売って金に換える者や新たな武器や防具になるのか研究する者に預ける者など様々だ。


 あのお狐モンスターもやはり今まで発見されていないモンスターらしくその素材は今後の研究対象として高値で売り買いされるらしい。

 僕はさっさと売ってお金に換えた、モンスター素材とか持ってても生臭そうなだけだしね。


「ハジメさ~~ん、聞いてくださいよ~~この長耳なダークエルフが~」

「ハジメ、この馴れ馴れしいヤツ。鬱陶しい…」


 ポンコツちゃんとマコラである、ポンコツちゃんが何やらマコラにしつこく絡んだようだ。しかもお酒の力でそのウザさにバフが掛かっていると見える、これは相当にウザい絡み方をされたな。


 ある意味お狐モンスターの素材を無事に回収出来たのは彼女達のお陰だ、何とかしたいがポンコツちゃんは完全に出来上がってるので面倒くさい。

「ハジメさ~~ん!飲んでますかーー!」

「まあぼちぼちとね」


 この後こっそりスパイダーゴーレムとも合流して魔法のリュックサックも回収するつもりであるのであまりお酒を飲みたくないのが本音である。


 しかし宴会だしな、美味しい料理は出るのでそちらをメインに食べるか。


 ヤケにテンションが高いポンコツちゃんとそんなポンコツちゃんを排除して静かに飲みながらも無茶をしたおじさんにボソボソと説教をするマコラちゃん(彼女も酒癖が悪いかも)。


 まっこれも生きてるからこそだ、頑張ってあのお狐モンスターを倒して良かったよ。


「…………うん、今日の料理も美味いね」



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