第5話 甘党梨と奴隷ちゃん(2)

 奴隷ちゃんは珍しい事にエルフだ、それも褐色の肌を持つダークエルフと言う種族である。

 普通のエルフも深い森の奥に住んでるとかで滅多に人里に姿を現すことはないらしいがダークエルフは更に人がいない場所に住む。


 確か何処かの大陸の砂漠に住むとか聞いた事がある、腰まであるすこしほつれた紫色の髪を揺らしながら(それ以外も揺れてる部分があるがそこは後にして…)金色の瞳を目の前のモンスターに向けている。


 つり目なのでぱっと見勝ち気そうな印象の美少女だ、歳は見た目十代中頃くらいにしか見えない。

 相対するのは枯れ葉色の身体を持つ全長三メートルはあるカマキリ型のモンスター、マドスだ。


 それしても奴隷、奴隷ね……。


 この世界には奴隷制度が生きている。重罪を犯して一生奴隷でその子供まで奴隷とかって話を聞いた記憶がある、後は軽い罪である程度働くと解放される奴隷もあるらしい。


 正直な話、奴隷の子供も奴隷ってのは結構引く。

 親の罪を子供にまでとかって思うが、僕にこの世界の社会やルールをどうこう出来る筈もないので出来るだけ関わらないようにしていたこの世界の嫌いな部分だった。


 あの女性の奴隷がどういった立場の奴隷かは知らない。しかし見てしまった以上見捨てるなんて真似は……やっぱり出来ないよね。


「そうと決まれば戦況を見てる場合じゃないな」


 急いでその場から駆け出す。流石に間に合わないと思うのでマジックアイズを操作してその女性と戦闘しているモンスターの視界にチラつかせてみる。

 少しでも気を引いて女性への攻撃を逸らそうと思ったのだ。


 マジックアイズとかって名前がついてても特に目からビームが出たり視線が合った相手を幻術にかけるなんて能力もないショボい物なんだよこれ。

 えっほえっほと走る、森の木々が結構邪魔だな道も舗装とかして欲しいよ本当に。


 僕のレベルはそこそこ高い。だから全力で走ればオリンピックアスリートすら足下にも及ばないレベルでの移動が可能だ、それなのに木の枝とかが邪魔で全力ダッシュが出来ないので困る。


 元からのそんなに距離はなかったので直ぐに女性の奴隷とマドスの姿がチラッと見えた。

 そろそろ本気で移動するか。


 僕は片足でジャンプする、軽く十数メートル上空の高さにまで飛んだ。回りの木々よりも高い場所なので遮蔽物もなし。

 よしっ一発デカいのをいこうか。

 右手を上にかざしていざっ攻撃魔法発動だ。


「スパイラルエアーランス!」

 風の上級魔法を発動する、竜巻が槍の形をとりそれをマドスへと投擲した。

 この魔法はホーミング仕様である。音速に比肩する速度となった風の槍は一瞬でマドスのお腹を貫く。


「グギュラァアアアアーーーーーーーッ!?」


 日本のカマキリは鳴くのか知らないが、この世界のカマキリ型のモンスターは普通に鳴く。かなり耳障りな大きな声である。

 風穴を開けてもヤツはまだ死んではいない、急いで奴隷ちゃんに逃げるように声をかける。


「今のうちに逃げて!」

「…………ッ!」

 ダークエルフの奴隷ちゃんはなんとマドスへとダッシュ、そしてジャンプするとあの大きなカマキリの頭を蹴り飛ばした。


 マドスはそのままぶっ倒れてしまう。

 マジで?どんなキック力してんだよ……そう言えばダークエルフって普通のエルフよりも身体能力高いとかって聞いた事はあったけど…。


 僕は着地してトコトコと早歩きで奴隷ちゃんの元に移動する。すると奴隷ちゃんはこちらをキッと睨んできた、普通に目つきが悪いだけなのかも知れないが内心少しビビる僕である。


 取り敢えず敵意やら害意がないことを使える。

「こんにちは、大丈夫かい怪我とかはない?」

「…………ない」


「そっちの冒険者達は……」

「全員死んだ」


 怪我はないと言うけど全身かすり傷とかかなりあるな。仕方ない……。

「そっか、でもかすり傷があるよね。ショボい回復魔法なら使えるけど回復しとくかい?」


「お前は魔法使いなのか?」

「まあ……一応はね」


「さっきの風魔法もお前か?」

「ん、そうだけど?」


「さっきの魔法はかなり高度な魔法だった。お前はかなり腕の立つ魔法使いじゃないのか?」

「ああっそこら辺は微妙というかなんというか…」


 僕が魔法を使えるのは女神様の私物である呪文書のお陰である、だから僕自身が凄いとかそう言う訳じゃないのだ。

 しかしそんなことを初対面の奴隷ちゃんに話しても仕方ないし……。


「まっ取り敢えず話は安全な所でしない?ここはいつモンスターが現れるか分からないしさ」

「……分かった」


 僕達は移動をする。普通ならキャンプ地に戻るのだが、ここアレクサンドではちょっと違うのだ。

 僕達が移動したのは紫色の水晶、あの転移水晶の小さなバージョンが所々に生えた場所に移動した。


 場所は円形のくぼ地であり真ん中と円の縁に紫色の水晶がちょこちょこっと生えている。

 じつはこの水晶が生えている場所にはモンスターが寄ってこないのである。


 アガーム大陸でイルバーンみたいな大きな街が作れた最も大きな理由があの馬鹿デカい転移水晶にモンスター避けの効果まであったからだったりする。

 そして転移先にあるそこそこ大きな転移水晶にもモンスター避けの効果がありあのキャンプ地が自然と作られたと言う訳だ。


 流石にここの小さな水晶にまで転移魔法の触媒になる力はないが、ここにモンスターが近付く事はないので僕達冒険者の休憩所として使わせてもらっているのだ。


 そこに奴隷ちゃんと移動完了、取り敢えずリュックサックからキャンプとかで使う折りたたみ式のイスを二つ出して片方に座る。

 彼女も残った方に座った、さてっ何から話したものやら…。



 


 

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