ここにはなにも無いよ

「誰かの憧れる、何者かになりたい」

『ちょうど私が憧れたように』


「何者にもなれないかも知れない」

『今だって何も成せていない』


「いつか“つまらなそう”と零した人生を生きるのかもしれない」

『私が嫌っていたそういうものになることさえ難しいのだと、ようやく知った』


「“何者かになれたかもしれない”他人のそういう空々しい希望を抱えて死んだ方が、ましかもしれない」

『死んだら、全部おしまいさ』


「大衆の誉めるものを忌避する癖に、ステータスをなくして生きるのは怖い」

『プライドを抱えるほどの功績なんてないけど』


「何者にもなりたくない」

『憧れたものになれないくらいなら、せめて今のまま変わりたくない』


「ここではないどこかへ行きたい」

『きっとそこにも、現実はあるよ』


「きらきらしい憧れは、些細なつまらなさに塗り潰されて不鮮明になった」

『つまらないって思って、見過ごしたものがあったかもね』



「現実が怖い」

数分前の私が言っている


『現実こそが楽しいのさ』

今の私は嘯いてみる



「ここにはなにも無いよ」

『ただ現実があるだけ』

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